6.陛下のたくらみ
パチパチと炎が燃えています。
その日の夜。
わたくしはカエルモンスターのお肉でバーベキューを楽しんでおりました。
肉はお団子サイズに切り、肉と肉の間にキノコを挟み、刻んだ野草を臭み消しに使いました。
カエルのお肉は意外にも柔らかくてジューシーで、舌の上でトロリと溶ける素晴らしい味でした。
「こんなに美味しいなんて……! 宮廷の料理にも負けませんわね!」
ウリちゃんもパクついています。
「キュウキュウ!」
小さなお口で肉を一生懸命咀嚼するウリちゃんの姿は、なんとも愛らしく、思わず頬が緩んでしまいます。
ふと煙の向こうを見ると、動物たちが茂みの間からこちらを見つめていました。
香ばしい匂いにつられて来たのでしょうね。
ウサギ、シカ、リスの形をした、おとなしそうな動物たち。
わたくしは手招きし、たっぷりとあるカエル肉を分けるのでした。
夜空には満天の星。
「なんとも贅沢ですわ」
わたくしは動物たちを撫で、雄大な景色を眺めます。
「そういえば、スキル『染滅』って一体何だったのかしら?」
考え出すと目がトロンとしてきました。
わたくしは欠伸をすると、いつの間にか眠りについていたのでした。
♢ ♢ ♢
その頃。
「リリアナが生きているだと?」
謁見の間に、女王の低い声が響いていた。
額に古傷のある兵士が、玉座の前で跪いて報告を続けた。
「その通りでございます。隣国のダンジョン配信者が、西の洞窟で、偶然彼女をとらえたのです」
古代の魔道具を使って、ダンジョン配信をする者がいる。彼らを配信者と呼ぶのだ。
女王は眉根を寄せると、持ってこられた鏡に動画を映すよう命じた。
丸型の鏡の表面はぬらっと翳る。
砂嵐の後、王宮で染料師をしていた女の金髪が、ふわりと鏡の中を舞った。
「小娘め!」
女王が座を叩いた。
「三日で餓死すると踏んでいれば、のうのうと生き延びている!」
女王が怒りを爆発させる裏には、別の感情もうごめいている。
ここ最近、妙なことが続いているのだ。
隣国の王や特使たちの目が、自分を素通りするようになった。
いつもなら自分を褒めそやし、
「なんとお美しい方」
「神々しい」
「ぜひ我が国と交易を」
などと、男たちは向こうから群がってくる。外交など朝飯前だった。
──なのに。
わずか数日で、風向きが変わった。
「雰囲気がいつもと違いますな」と、歯切れの悪い挨拶をする者まで出てきた。
皆が一様に、どこか気まずそうな顔をして言葉を濁すのだ。
おかしい。
化粧はいつも通り。ドレスだって新しい。
──自分に女王としての風采がなくなったのか。
なぜ。
(染料師である、あの女を追放したから……?)
「陛下」
そんな思案をめぐらせていると、王宮染料師のマリアンヌが静かに前へ進み出てきた。
彼女は跪き、不敵な笑みを浮かべて言う。
「陛下のせいではございません。熟練した染料師は不思議な術を使うと言い伝えがあります。おそらくは、あの女の邪念が王都に災いをもたらしているのでしょう。今こそ、彼女の魂を天へ還すべきでございます」
「ふむ……」
女王は納得したように頷くと、唇の端をゆがめて笑い、右手を高々と上げた。
「刺客を向かわせよ! 反逆者リリアナを抹殺するのだ!」
「御意!」
衛兵たちはすぐに駆け出し、王宮の奥に消えていった。
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