48.エドワード処刑される!?
水滴の音が、エドワードの意識を現実へと引き戻した。
激しい頭痛。強い吐き気。
記憶が断片的に蘇る――兵士たちの怒声と鈍器で殴られた衝撃。
瞼を重々しく持ち上げると、薄暗い牢獄の中にオレンジ色の松明が揺れていた。鉄格子の向こうには、無表情な番兵が槍を片手に立っている。
「お目覚めのようね」
氷のように冷ややかな声が響いた。振り返ると、鋭い視線を向ける一人の女性。
マリアンヌ。
彼女を見た瞬間、エドワードの額に血管が浮き出た。
叫ぼうとしたが、口に嵌められた猿轡が声を封じていた。歯を食いしばり、憎悪の眼差しで彼女を睨みつける。
「いいザマだわ」
マリアンヌは勝ち誇ったように微笑むと、番兵に合図を送る。彼は手錠を巻かれ、牢獄から引きずり出された。
城の外に出ると、土埃を含んだ風が澱んだ空を切り裂いて吹き抜けていく。
城門前の広場には、痩せこけた市民たちがひしめき合っていた。
彼らの顔には飢えと絶望が刻まれていた。喚き声が空気を震わせる。
(いつから……いつからこの国はこんなにも荒れ果ててしまったのか)
エドワードは自分が見ている光景が信じられなかった。
美しかった街並みは朽ち果て、管理されることもなく放置されている。人々は明らかに栄養失調で、病気の影が顔に浮かぶ。
(こ、この国には金がないのだ!)
彼は思いに至った。
兵士が彼を進ませると、広場の真ん中に処刑台が姿を見せた。太陽を反射して鈍く光る刃が、死の宣告を突きつきつけている。
「皆の者!」
上空から甲高い声が響いた。女王だ。
「この者は、我々の国を滅びに導いた仲間の一人である。この者を処刑することで、我々の国に明るい希望が見えよう!」
「陛下万歳!」
群衆の狂乱的な叫び声が空に舞い上がる。石が飛び、エドワードの頬と身体を容赦なく打った。
(なんてことだ……)
無意味な権力争いの果てに有能な人材を追放し、外交能力を失った責任を他者に押し付け、今や市民は死の淵に立たされている。
人々は政敵の血を見なければ平静を保てず、この狂気ともいえる怒りを向ける場所を見失っている……か。
「哀れなことだ……」
自然と涙が頬を伝い落ちた。
このような狂った支配者の手で命を絶たれるのかと思うと、悔しさが胸を締め上げた。
処刑台に首を据えられ、執行兵が決まり文句を口にする。
「最期に言いたいことはあるか」
エドワードが言葉を選んでいた、その時――
「敵襲だあー!」
門衛の声が広場を貫いた。
♢ ♢ ♢
城門前の兵士たちは大混乱に陥っていた。
突然現れたのは、華麗な宮廷服に身を包んだ金髪の女性。馬に跨り、颯爽と駆けてくる。
彼女の周りには、能力者とモンスターたちが護衛のように並んでいた。それぞれがモンスターを使役している様子から、ダンジョン配信に長けた者たちであるのは明らかだった。
「エドワード様を返しなさい!」
凛とした声が戦場に響く。
やぐらの高さほどある象系モンスターが雄叫びを上げ、石造りの城門を破壊していく。石材がブロック玩具のように砕け散り、侵入路を切り開いた。
「パオォオーン!」
「こちらもモンスターを出せ! S級とSS級を檻から解放しろ!」
リリアナたちの前に現れたのは、よだれを垂らしたトラ、ライオン、ヒョウの形をした凶暴なモンスターたち。ガルルルと威嚇しながら襲い掛かった。
だが――
「スキル染滅発動なさい!」
謎のスキルが発動されると、獰猛だったモンスターたちが無力化され、猫のように毛づくろいを始めたではないか!
象の巨大な足がモンスターの檻を踏み潰し、バリンと粉々に砕ける音が響く。
兵士たちは恐怖に駆られて四方八方に逃げ散った。
集まっていた市民の間を縫って、リリアナたちはエドワードの元へと駆ける。
「エドワード様!」
愛らしい声が聞こえた瞬間、エドワードの目に光が宿った。
視界にリリアナの姿が捉えられた――刹那、
「【トランスポート!】」
女王の魔法が発動し、処刑台は城内へと瞬間移動したのであった。
♢ ♢ ♢
リリアナたちは怯むことなく城内に踏み入った。
衛兵たちを次々と蹴散らしながら奥へ進むと、赤い絨毯の上に一人の女性が両腕を広げて立ちはだかっていた。
マリアンヌだった。
「リリアナ、決着の時が来たようね」




