42.染滅と彩眼、ダブル攻撃
(なんということでしょう!)
わたくしは息を呑みました。
リングの文字を見つめると——登録者数が1000人、2000人という単位で、みるみるうちに増えているではありませんか!
現在の登録者数は8354人。もうすぐ1万人に到達いたします!
「人は、生と死の狭間で繰り広げられる真剣勝負に、心を奪われるものなのですよ」
エドワード様が、痛みを堪えながらも穏やかにおっしゃいました。
そういえば、そんな台詞をどこかで聞きました!
エドワード様は、ご自分の身を盾にしてまで、わたくしの——いえ、わたくしたちの力を高めてくださっているのです。
わたくしも、何かできることを!
「視聴者の皆さま!」
わたくしは画面に向かって、心の底から叫びました。
「今だけでも、どうか登録をお願いいたします! エドワード様に、皆さまのお力を!」
画面に次々と温かなメッセージが流れてまいります。
:いいよ
:【エミさんがチャンネル登録をしました】
:応援してる!
:【ルカさんがチャンネル登録をしました】
:仕方ねえな!
:【スズさんがチャンネル登録をしました】
:尻をタダで見ちゃ悪いしな
:【ガオさんがチャンネル登録をしました】
:俺の嫁が呼びかけてんだ! テメーら全員登録しやがれ!
登録者数が雪崩のように増加してまいります。
1万人を越え、2万人を越え、あっという間に5万人近くに!
エドワード様が、満足そうに口元を緩められました。
「【スキル彩眼】」
低い構えから、剣を腰の位置に。片足を引いて——
——ダンッ!
瞳の色が変わったエドワード様が、稲妻のような速さでカレイド様に向かってまいります! 登録者数の増加により、速度も攻撃力も格段に上昇したエドワード様!
エドワード様の必殺技を見て、カレイド様が嘲笑。
「フハハハ! 頭の悪い奴らめ! 技が変わろうとも、再び鏡撃の餌食になるだけだ! スキル鏡……な、なにぃいいー!」
ズッバーン!
一閃の太刀筋が光るや、エドワード様は剣を鞘に収め、音もなく着地なさいました。
カレイド様の顔が驚愕に歪みます。
エドワード様の眼前で、あの忌々しいミラーが、見事に真っ二つに切断されていたのです!
「ば、馬鹿な! なぜミラーが斬れる! 攻撃は反射されるはず!」
「悪いが、そのミラーに『青』を塗らせてもらった」
ミラーには濃厚な染料が、まるで落書きのようにべっとりと塗りたくられていました!
「なん……だと! 反射面が……!」
「スキル彩眼は、色なき場所に色を見出す力だ。換言すれば、あらゆるものに色を塗れる。反射が失われればこちらのものだ!」
ミラーを失ったカレイド様は、何もない空間から三叉の槍を出現させました。
「貴様ら登録者数5万程度に、この私の力が屈するものか!」
ガキーン!
武器同士が激突し、火花が散ります。
一瞬エドワード様が押し返されますが、すぐに体勢を立て直し、互角の戦いを演じてくださいます。
「いつまで登録者数に胡坐をかいているつもりだ!」
エドワード様の挑発的な言葉。
「ウオォォオ!」
エドワード様が前進し、筋力でカレイド様を押し戻します。
カレイド様が後方に転倒し、顔面を地面に打ちつけ、口元に傷を負いました。
……?
(意外にも、300万の登録者は、それほど強力ではないのでしょうか?)
わたくしが首を傾げていると、腕輪を見詰めた男が絶叫。
「なぜだあー! なぜ登録者数が減少している!」
(えっ?)
登録者数が減っているですって?
「そうだろうな。お前の登録者数は、今や多く見積もっても250万程度だろう」
敵は答えず、舌打ちを響かせます。
的中しているか、もしくはそれ以下という表情です。
一方、わたくしのリングを確認すると——
(ひぃいいー! 25万人!)
いつの間に!
「ミラースキルが万能ではないと悟った視聴者たちが、幻滅して登録を解除したのだ。そしてその視聴者たちは、新しいヒーロー役の女性のために登録ボタンを押す」
ニヤリと笑みを浮かべるエドワード様。
カレイド様の顔が真っ赤に染まります。
(ありがたいことですわ! 登録をスイッチしてくださる方がいらっしゃるのですね!)
今やわたくしの登録者数は、5万人単位で急増しています!
その時、
スンと静寂に包まれた目の前の敵。
目を閉じ、武器を投げ捨てました。
(えっ? 降伏?)
エドワード様が警戒して剣を握り直します。
「勘違いしているのは貴様らの方だ」
敵は掌にエネルギーを集約し、今にも放たんと構えました。
「視聴者どもよ!」
それは洞窟全体を震撼させるほどの大音声でした。
カレイド様が威圧的な声で、自身から離脱しようとする視聴者たちに呼びかけます。
「これ以上チャンネル登録を解除してみろ! 洞窟もろとも粉砕し、騎士と女を生き埋めにしてやる! それが嫌なら、登録解除をやめろ!」
なんという卑劣な!
解除を阻止するため、わたくしたちが人質にされるとは!
ピタリと増減が停止したカウンター。
登録者数は、わたくしの方が50万人。そして恐らく、敵方は200~150万といったところでしょうか。
「そうだ。そのまま永遠に私を崇拝し続ければよい」
カレイド様の口は半月に開き、怪しく笑い続けられるのでした。
手のひらのエネルギー弾がみるみる巨大化してまいります。
見た感じ色はないようですし、染滅も効きそうにありません。エドワード様が色彩を付与してくだされば可能でしょうか?
しかし、あのエネルギーは魔法。登録者数の差で、もしも魔力が及ばなかったら?
この洞窟は本当に崩壊し、わたくしたちは生き埋めになってしまいます!
「喰らえ! 鏡撃、破壊斬!」
螺旋の渦がこちらに向かって襲来します!
「スキル染滅! 発動なさい!」
「彩眼!」
細かいことを考えている余裕はございません。
わたくしとエドワード様は、それぞれのスキルを発動させます。それは一条のエネルギーとなり、攻撃の激突が洞窟の中央で発生しました。
カレイド様の破壊斬に、彩眼で色をつけ、それをわたくしが染滅で連続的に溶かしてまいります。
しかし──
カレイド様の体力は無尽蔵とでも言うのでしょうか。
染滅を撃っても撃っても、まったく破壊斬のエネルギーが枯渇いたしません!
いえ、むしろ劣勢になってきたのはこちら側!
徐々に敵の攻撃が、わたくしとエドワード様に接近してまいります!
あと10メートル!
あと5メートル!
あと1メートル!
登録者数は65万人! あと少し、あと少しなのに!
あと50万人の登録者があれば、魔力が拮抗するハズ! エネルギーを押し返せるのに!
「グハハハ! これで理解したであろう! 勝つのは私だ!」
カレイド様が勝利を確信して、嫌らしく哄笑します。
わたくしは目を閉じました。
(もう駄目です! もう駄目です!)
その時でした。
コツ……
コツ……
洞窟に響く靴音。
バチンッと鞭のしなる音も。
「アンタたち、随分と楽しそうなことをしてるじゃないか」




