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37.新しい世代

 リリアナとエドワードは森の中を駆けていた。


 心を入れ替えたニヒリアが、一位パーティーの餌食になっている。


 二人が森を抜けて、開けた場所に来ると、


 なんと、


 ニヒリアを守るように、強そうなパーティーが三組もいた。


 敵側の男が言う。


「ほお。こりゃ豪華なメンバーだぜ、なああねさん」


「そうね。ランキング四位『虚無の魔女セレスティア』、三位『深淵しんえんのグラヴィオン』、二位『蒼天せいてんのアルカディウス』。ダンジョン配信者が仲良しクラブを作ってたなんてねぇ」


 女がクスクスと冷笑をする。


 そこには、配信者ランキング上位勢が、一同に会しているのだった。総勢十名以上。


(一体なぜ……)


 エドワードは状況を整理するため、林に身を隠した。


 ♢ ♢ ♢


「大丈夫ですか、ニヒリアさん」


 上位メンバーの一人がニヒリアに駆け寄っていた。


 ニヒリアはヒューヒューと荒い呼吸をし、青あざと血であふれた顔に、わずかに笑顔を作った。


 彼がニヒリアの手首を触り、脈を計る。


「マズイですね。一刻も早く手当てを……」


 といっても、こんな森では応急処置くらいしか施せない。


 今もってドクドクと流れている血に包帯を巻くのが精いっぱいだろう。


 とりあえず草を巻いておこうと、近くの森へ入ったとき、見慣れない女が目の前にいた。


「これを使ってください」


 彼女は包帯を両手に持っている。


(SSS級で騒がれている、あの女だ!)


「あ、あなたは……!」


「しっ! わたくしは、布なら魔法でいくらでも出せます。遠慮せず、さあ、急いで!」


 メンバーの一人は包帯を感謝して受け取り、ニヒリアの腹や頭に巻いていく。


 だが、血は溢れてくるばかり。


「今すぐ病院に連れて行かないと!」


「動かしてはダメです!」


 その女は言った。


「この傷です。動かしたが最後、ニヒリア様は出血性ショックで命がなくなってしまいます。お医者様をここにお呼びするのが得策です!」


 なるほど、と思った。


 メンバーは目の前にポータルを作り、王都へ戻って行った。



 ♢ ♢ ♢



「さあ、聞かせてもらおうか?」

 敵の男、タンクのニズムシは、戦う気まんまんの表情で拳を打ち合わせた。


「お前らは何の目的で、一位の俺たちを足止めする? ニヒリアの奴は、国王にかいじゅうされて、ダンジョン配信をやめようなんて言ってた女だぜ? 始めるも辞めるも自由だがよ、俺たちゃずっと、配信で飯を食ってんだよな? なら、俺らと一緒に、反逆者のニヒリアにとどめをさすってのが筋だろ?」


 これが答えだと言わんばかりに、青髪で背の高い男が進み出た。


「確かにオレたちは配信者だ。ダンジョン配信を愛している。だがな、ニヒリアさんの後ろ姿を追ってきた世代でもあるんだよ」


「そうよ!」


 うさぎの耳のカチューシャを付けた女性が一歩出る。


「ニヒリアさんは、わたしたちより先にダンジョン配信を始めた。ほとんど配信者なんかいない時代に、たった一人で!」


「そうだそうだ!」


 マントの男が相槌あいづちを打った。


「今の僕たちがあるのは、みんなニヒリアさんのおかげだ! それに、ニヒリアさんの決断は間違っちゃいない。ダンジョン配信には問題がある。彼女が身を引くなら我々は黙って彼女を見送るべきだ」 





 ──それは二十年前の出来事。


 この世界に突如ダンジョンが現われた。


 未知のモンスターは街を襲い、田畑を荒らし、川を枯らした。


 国王はおふれを出し、市民に城門の外に出るなと告げた。


 だが、たった一人、モンスターに立ち向かった人間がいた。


 ニヒリアだ。


 ニヒリアは元盗賊であった。


 生きるために人を襲い、金を奪った。


 殺しもした。


 王国は彼女を極刑にしようと考えた。


 だから彼女は城壁の外に出た。


(どうせ死ぬなら、戦って死のう)


 ニヒリアは盗賊スキルを使い、手ごろなモンスターたちを打ち払って懸賞金を稼ぐ生活を送り始めた。





 やがて、彼女の素性を知らない世代が誕生する。


 ニヒリアの勇姿に憧れ、自分もダンジョン配信を行いたいと願う者たちだ。


 彼らはパーティーを組み、ニヒリアを超える再生数を叩き出す者もいた。


 ニヒリアは道徳的に完璧ではない。時には酷いこともする。


 ファンも生まれれば、アンチもわいた。


 だが少なくとも、ランキング上位の彼らは、ニヒリアに人間としての尊厳を抱くべきだと考えていた。





「──なるほど」


 ニズムシは野太い声で頷いた。


「つまり、お前らは、まとめてあの世に行きたいってことか。バカなヤツらだぜ」


 彼は詠唱と共に、樹木の何倍もあろうモンスターを召喚した。木々がその体重で倒されていく。


 その姿は、モグラに岩のようなゴツゴツの背中があった。


「イワモグラだ。正真正銘のSS級」


 イワモグラは赤い目を光らせると、猪突ちょとつ猛進で上位勢に襲い掛かった。


 だが、


 すでに上位勢は各々のモンスターを召喚していた。


 巨大なイワモグラを取り囲むように配置された、S級のウサギ、タコ、クマ。


 それらモンスターたちは、イワモグラの突進を食い止め、周囲に土煙を上げている。


「ニズムシ! 貴様の攻撃は想定済みだ。我々を誰だと思っている。上位クラスがこれだけいるのだぞ」


 男の一人が自信に満ちて言う。


 その後、イワモグラとの死闘が続き、互いの肉を食いちぎって両陣営が衰弱していく。


 このままでは引き分けだ……。


 ニズムシがチッと舌打ちしたとき、





「いつまで遊んでいる」


 彼の上に、冷徹でほとんど感情のない声が響いた。





 上位者の一人が叫んだ。


「あ、あいつは、ランキング一位のカレイド!」

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