29.わたくしの服が大人気ですわ!
山奥。
とあるダンジョン。
鳥たちが一斉に羽ばたく中、三人の男たちが荒い息を吐いていた。
ランキング八位「漆黒のヤミカゲ」。
ランキング七位「星界のイグニス」。
ランキング六位「獣王のゼノバ」。
彼らは一同に会し、一人の女性配信者と対峙していた。
彼女は、
ランキング五位「黒薔薇のニヒリア」。
彼女は棘だらけのバラのコスチュームに身を包み、真紅の髪と唇を持つ。彼女の薄い笑みが、洞窟の暗闇に溶けて不気味さを引き立てていた。
「その程度?」
ニヒリアは薔薇のハイヒールで、ゆっくりと一歩前に出た。
白い手袋で衣服についたホコリをフッと払う。
その仕草は優雅で冷徹。
先ほどまで男たちが放った攻撃は、すべてニヒリアの前で霧散していた。
ヤミカゲの影分身も、イグニスの魔法弾も、ゼノバの獣化攻撃も——それらはランキング下位の配信者には脅威だったが、目の前の女には蚊が羽音を立てる程度であった。
「くそっ! どうして俺たちは、こんな惨めな状況に陥ってるんだ!」
ヤミカゲがほとんど戦意を失った声で呟く。
全員がその答えを知っていた。
黒い手のアジトが壊滅させられたから。そうとしか言いようがなかった。
組織に金を払えば再生数を稼ぐことなど造作もなかった。
だが今や、都合の良い裏組織は跡形もなく散ってしまった。
だから、
新たな時代が到来した。
妨害、誹謗中傷、奇襲で再生数をとる時代だ。
魔力量の少ないパーティーは、今や上位パーティーの格好の餌であった。
「あの女、舐めやがって! 全員で一気に潰すぞ!」
イグニスが血走った目で叫んだ。
「おう!」
男たちは最後の力を振り絞り、一斉にダッシュした。
森の中に男たちの悲鳴が木霊した。
♢ ♢ ♢
「みなさま、押さないでくださいませ。順番にお並びいただいて、お一人様一着までとさせていただきます」
わたくしは喉が痛くなるほど声を張り上げておりました。
理由はよくわかりません。
なぜか、わたくしの服が大変な人気となっているのでございます。一見みすぼらしい服が、アップリケの付いた服が、なぜか若い女性たちの心を掴んでしまったようなのです。
はて?
わたくしのフリーマーケットは、大盛況でございました。
朝から夕方まで、途切れることなくお客様がいらっしゃいます。
「今日も随分と忙しそうじゃないか!」
一人の中年女性がわたくしをねぎらってくださいました。
「ドスナ様!」
息子様が無事に帰ってこられて、すっかりご機嫌な服屋のドスナ様がいらっしゃいました。
「あんた、少しは休憩しな。組合の若い連中を店番に当たらせるからさ」
「ありがとうございます」
わたくしは汗を拭って、フリマの目と鼻の先にある「自宅」に移動いたします。
そこは、ドスナ様からお借りした家屋でございました。レンガ造りで赤い屋根の豪華なお家。広い庭には花園があり、こぢんまりとした畑に野菜を植えております。
庭では、ウリちゃんとエドワード様のパトルが追いかけっこをして遊んでいます。
黒い手の一件で、わたくしはドスナ様から家をお借りできるようになりました。
何より、家に併設された作業小屋が素晴らしいのです。ここで服の大量生産をしています。
わたくしは作業小屋のドアを開けました。
「店長さんがお見えになりました!」
一人の従業員の方が声をかけてくださいます。
小屋には、パラディンのパーティーにいらした方々と、ドスナの息子様、それに組合の数人が、わたくしの服作りを手伝ってくださっておりました。
一人が進み出て、
「私たちはリリアナさんに命を助けられました! みんな喜んでリリアナさんのお力になりたいと思っています!」
わたくしは小恥ずかしい気持ちでございました。
目を泳がせてから、「皆さんも、休憩なさってくださいませね」と労って、そそくさと作業小屋を後にします。
わたくしは自宅の二階へ行き、バルコニーの長椅子に座って、疲れた身体を休めます。
ふうと一息ついて、変装用のかぶりものをとり、冷たい飲み物を口にしたとき、
バタバタと駆けてくる足音が聞こえてまいりました。
「大変ですリリアナ様!」
「エドワード様ではありませんか! どうなさったのですか?」
「リリアナ様に宛てて、この国の王宮から手紙が届いております!」
「ええぇぇええ!」
エドワード様の手には、印章で封のされた一通の召喚状が握られておりました。
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