表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

26/52

26.スキル彩眼【ロマンス】

 エドワードの瞳が虹色から金色へと輝きを増していく。うるやかなは千の宝石を散りばめたよう。


 口からは蒸気のような熱い息が噴き出す。剣が輝く。


 エドワードはダンッと体重を片足に乗せるように踏み込んだ。


 凄まじい跳躍。


 天井まで届くほどの跳び上がりを見せ、エドワードは剣を頭の上に掲げた。


「そこだぁぁああ!」


 ズガガァァアン!


 剣の軌道に残像が彩られた刹那せつな、エドワードは剣を振り切って地面に着地。


「ギュエエエエ!」

 悲鳴を上げるモンスターは、透明化スキルが切れた様だ。


 灰色の巨体をついに現し、のたうち回る。


 エドワードは、わなわなと震えるゲルゲスを睨み、


「私が弱点を克服していないとでも思っていたのか。強くなったのは貴様だけではないのだぞ! SS級モンスター程度でいきがるな! こちらの姫は私よりも強い!」


「そ、そんな……」

 ゲルゲスは床にぺたんと座り込み、顔面蒼白。まさかモンスターの影を目で追える能力など……。


 このままでは、金庫の宝も持ち去られてしまいそうだ。


 だが、ゲルゲスには策があった。


 ニヤと笑う。


「残念だったな。俺を殺せば組織が壊滅すると思ったんだろう? 金庫全体には魔法陣が張られている。詠唱すれば、すぐにでも宝石全体が転位する。そして、転位魔法が発動する瞬間、この建物は自爆するようにできているんだ!」


「なにっ!」


 転位先があるということは、アジトはここだけではないのか! いったい本部はどこなのかとエドワードは思案を巡らせた。


「がっははは! りょうてんせいを欠くとはこのことだな! 無策で乗り込んできた愚か者が! 初めからお前に勝機などなかったのだ!」


 ゲルゲスは四つん這いで金庫へ向かう。


「さあ、止められるものなら止めて見ろ! 転位【トランス……】」


「──スキル【染滅】発動なさい!」


「えっ」


 澄んだ女性の声。


 ゲルゲスは一瞬、何が起きたかわからなかった。


 太陽のような光る球体が宝石全体を包み込み、金色から透明へと色が落ちた。目の前の宝石は、まるで水晶。いや、安もののガラスのようだった。


 ゲルゲスは悲鳴を上げて、我が子を抱き上げるように宝石を掴む。


 どこにもさっきの高級な輝きはない。


「お前らあ!」

 ゲルゲスの怒りは頂点に達した。


 エドワードの隣には、左右の丈が違う、変な服に身を包んだ金髪の女性が、詠唱を終えた手のひらを、こちらに向けているのだった。


 ゲルゲスは額に汗を滲ませる。


 宝石にはもう価値がない。組織の資金源がなくなったも同然だ。


 こうなれば、自爆しかない!


「転位【トランスポート!】」


 ゲルゲスは転位魔法を発動させた。



 ♢ ♢ ♢



 それは建物全体が爆発し、木っ端()じんになる合図でございました。


 わたくしはエドワード様の胸へと飛び込みました。


 けたたましい警報音が響き渡り、石壁がぐらぐらと崩れ始めます。グリゲン様が天井から落ちてきた岩に身体を打たれ、瓦礫の下に埋もれて見えなくなってしまいました。


 わたくしの胸に、激しい後悔の念が突き刺さりました。


 この作戦にエドワード様を巻き込んでしまったなんて。せっかく、わたくしのために城を出てついてきてくださった方を、わたくしの感情任せの愚かな作戦で、命を散らせてしまうのでしょうか。


「ごめんなさい……ごめんなさい! わたくしがアジトに攻め込もうなんて言ったばっかりに!」


 時間はありません。


 今から階段を駆け降りても、間に合うはずがございません。


 わたくしの瞳に、熱い涙が溢れてまいりました。ああ、なんて愚かで、なんて身勝手なのでしょう。


 その時、エドワード様がわたくしを優しく抱き留めてくださいました。その腕に、ぎゅっと力がこもります。


「リリアナ様……」


 彼のお声は、これまでで一番穏やかでした。まるで、ご自分の命が尽きるのを悟ったかのように。


「わたくしは、リリアナ様とここまで旅ができたことを、本当に嬉しく思っております」


「どうしてそこまで仰ってくださるのですか! わたくしは自分勝手で、計画性がなくて、不器用で──こんなわたくしのせいで、エドワード様まで……!」


 エドワード様の手がそっとわたくしの頬に触れ、涙を拭ってくださいます。


「そんなことはありません。私はリリアナ様だからここまでついてきたのでございます。あなたは王宮染料師として陛下にお仕えしていた時代から、何もお変わりになっておられません。


 私はそんなリリアナ様の変わらないひたむきさ、優しさ、他人を思いやるお心に……ずっと惹かれていたのでございます」


 わたくしの頬が、かあっと熱くなりました。心臓が激しく鼓動を打ち、まるで胸から飛び出してしまいそうでございます。


「リリアナ様……」

 エドワード様のお顔が近づいてまいります。彼の温かな吐息が頬に触れ、長い睫毛まつげが見えるほど近くに……。


 エドワード様の唇とわたくしの唇が、あと一センチで触れ合おうとしたその瞬間──


 バリーン!


 最上階のガラス戸を破って、エドワード様は外へと躍り出られました。わたくしを抱えながら。


「ええぇぇええ……!」


 ここは八階でございます。


 わたくしとエドワード様は、落下いたします。

 凄まじいスピードで落下いたします。


 先ほどわたくしたちがいた八階の部屋が、ドカーンと爆発し、真っ赤な炎が舞い上がりました。


 エドワード様はわたくしを抱き留めたまま、


 口笛を吹かれました。

お読みくださりありがとうございます。

ブックマークや星評価がとても励みにになります。


面白ければ☆☆☆☆☆

面白くなければ☆


率直な気持ちで構いません。

何卒よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ