26.スキル彩眼【ロマンス】
エドワードの瞳が虹色から金色へと輝きを増していく。潤やかな眼は千の宝石を散りばめたよう。
口からは蒸気のような熱い息が噴き出す。剣が輝く。
エドワードはダンッと体重を片足に乗せるように踏み込んだ。
凄まじい跳躍。
天井まで届くほどの跳び上がりを見せ、エドワードは剣を頭の上に掲げた。
「そこだぁぁああ!」
ズガガァァアン!
剣の軌道に残像が彩られた刹那、エドワードは剣を振り切って地面に着地。
「ギュエエエエ!」
悲鳴を上げるモンスターは、透明化スキルが切れた様だ。
灰色の巨体をついに現し、のたうち回る。
エドワードは、わなわなと震えるゲルゲスを睨み、
「私が弱点を克服していないとでも思っていたのか。強くなったのは貴様だけではないのだぞ! SS級モンスター程度でいきがるな! こちらの姫は私よりも強い!」
「そ、そんな……」
ゲルゲスは床にぺたんと座り込み、顔面蒼白。まさかモンスターの影を目で追える能力など……。
このままでは、金庫の宝も持ち去られてしまいそうだ。
だが、ゲルゲスには策があった。
ニヤと笑う。
「残念だったな。俺を殺せば組織が壊滅すると思ったんだろう? 金庫全体には魔法陣が張られている。詠唱すれば、すぐにでも宝石全体が転位する。そして、転位魔法が発動する瞬間、この建物は自爆するようにできているんだ!」
「なにっ!」
転位先があるということは、アジトはここだけではないのか! いったい本部はどこなのかとエドワードは思案を巡らせた。
「がっははは! 画竜点睛を欠くとはこのことだな! 無策で乗り込んできた愚か者が! 初めからお前に勝機などなかったのだ!」
ゲルゲスは四つん這いで金庫へ向かう。
「さあ、止められるものなら止めて見ろ! 転位【トランス……】」
「──スキル【染滅】発動なさい!」
「えっ」
澄んだ女性の声。
ゲルゲスは一瞬、何が起きたかわからなかった。
太陽のような光る球体が宝石全体を包み込み、金色から透明へと色が落ちた。目の前の宝石は、まるで水晶。いや、安もののガラスのようだった。
ゲルゲスは悲鳴を上げて、我が子を抱き上げるように宝石を掴む。
どこにもさっきの高級な輝きはない。
「お前らあ!」
ゲルゲスの怒りは頂点に達した。
エドワードの隣には、左右の丈が違う、変な服に身を包んだ金髪の女性が、詠唱を終えた手のひらを、こちらに向けているのだった。
ゲルゲスは額に汗を滲ませる。
宝石にはもう価値がない。組織の資金源がなくなったも同然だ。
こうなれば、自爆しかない!
「転位【トランスポート!】」
ゲルゲスは転位魔法を発動させた。
♢ ♢ ♢
それは建物全体が爆発し、木っ端微塵になる合図でございました。
わたくしはエドワード様の胸へと飛び込みました。
けたたましい警報音が響き渡り、石壁がぐらぐらと崩れ始めます。グリゲン様が天井から落ちてきた岩に身体を打たれ、瓦礫の下に埋もれて見えなくなってしまいました。
わたくしの胸に、激しい後悔の念が突き刺さりました。
この作戦にエドワード様を巻き込んでしまったなんて。せっかく、わたくしのために城を出てついてきてくださった方を、わたくしの感情任せの愚かな作戦で、命を散らせてしまうのでしょうか。
「ごめんなさい……ごめんなさい! わたくしがアジトに攻め込もうなんて言ったばっかりに!」
時間はありません。
今から階段を駆け降りても、間に合うはずがございません。
わたくしの瞳に、熱い涙が溢れてまいりました。ああ、なんて愚かで、なんて身勝手なのでしょう。
その時、エドワード様がわたくしを優しく抱き留めてくださいました。その腕に、ぎゅっと力がこもります。
「リリアナ様……」
彼のお声は、これまでで一番穏やかでした。まるで、ご自分の命が尽きるのを悟ったかのように。
「わたくしは、リリアナ様とここまで旅ができたことを、本当に嬉しく思っております」
「どうしてそこまで仰ってくださるのですか! わたくしは自分勝手で、計画性がなくて、不器用で──こんなわたくしのせいで、エドワード様まで……!」
エドワード様の手がそっとわたくしの頬に触れ、涙を拭ってくださいます。
「そんなことはありません。私はリリアナ様だからここまでついてきたのでございます。あなたは王宮染料師として陛下にお仕えしていた時代から、何もお変わりになっておられません。
私はそんなリリアナ様の変わらないひたむきさ、優しさ、他人を思いやるお心に……ずっと惹かれていたのでございます」
わたくしの頬が、かあっと熱くなりました。心臓が激しく鼓動を打ち、まるで胸から飛び出してしまいそうでございます。
「リリアナ様……」
エドワード様のお顔が近づいてまいります。彼の温かな吐息が頬に触れ、長い睫毛が見えるほど近くに……。
エドワード様の唇とわたくしの唇が、あと一センチで触れ合おうとしたその瞬間──
バリーン!
最上階のガラス戸を破って、エドワード様は外へと躍り出られました。わたくしを抱えながら。
「ええぇぇええ……!」
ここは八階でございます。
わたくしとエドワード様は、落下いたします。
凄まじいスピードで落下いたします。
先ほどわたくしたちがいた八階の部屋が、ドカーンと爆発し、真っ赤な炎が舞い上がりました。
エドワード様はわたくしを抱き留めたまま、
口笛を吹かれました。
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