24.リリアナの推理【ざまぁ】
ズシャア!
ジル様の剣が、温泉イグアナの胴体を斬り裂きました。
周辺のお湯が飛び散り、巨大なモンスターが苦悶の声を上げて、その身体を大きくのけ反らせます。
腹部には深々と刻まれた傷口が口を開け、そこから濁った体液がどろりと流れ出ているではありませんか。
ギャワワ!
モンスターの断末魔。
その巨体は力なく湯の中へと沈んでいきました。水面には血の泡がぽこぽこと浮かび上がり、静寂が戻ります。
「やったわね!」
「すげえぞ!」
パーティーメンバー様たちから拍手が湧き上がりました。
きっと、この方々も今まで奴隷のように働かされていたのでしょうね。
「どうしてモンスターの攻撃を見破れたんですか?」
メンバーの一人が興奮した様子でお尋ねになります。
「ちょっとした推理です」
わたくしはニコリと笑って続けました。
「ルーバリア王国のお宿には、温泉が付いていました。卵の腐ったようなニオイのする、お肌に優しいお湯です」
これは昨日エドワード様から教えていただいたことですが、ルーバリア王国付近では温泉が湧くそうです。
「それで仮説がたちました。きっと地下深くに、源泉の出るところがあるのだろう。確信に変わったのは、パラディン様が銀の武器を振ったとき、錆びて溶けてしまった時でした」
わたくしは染料師の知識をかみ砕きながら解説しました。
「卵の腐ったような臭い、銀の腐食。ここから導きだされる一つの物質。それは竜化水素です。温泉イグアナの毒も、この竜化水素の影響だと考えました」
「ああ、だから温泉イグアナのお湯を浄化していたんですね!」
:MVPは双子の剣士だ!
:素人にやられるパラディン、ザコ乙
:なんか興ざめした
:パラディンって実は強くなかったんだな
:見栄張ってたのか?
:やらせ王、パラディン
:チャンネル登録解除しました、さようなら
:スパチャ返せ
:ランキングも嘘だったんじゃね?
♢ ♢ ♢
地上に戻ったわたくしたち。
夕日に照らされた草原に集まっておりました。
パラディン様は地面に膝をつき、わたくしとエドワード様、そしてジル様とメンバーたち全員に向かって土下座をしておられます。
彼のブレスレットにはカウンター。きっと、チャンネル登録者数が表示されているのでしょう。ブレスレットの数字は、すごい勢いで減っています。
「くそう! どうしてこの僕がこんな目に……!」
パラディン様が悔しそうに地面を叩いています。
「これまでよくもこき使ってくれたわね!」
突然、パーティーメンバーの女性が立ち上がり、リーダー、元リーダーと言ったほうが正確かもしれませんが——の頬を思い切りビンタされました。
パン!
乾いた音が響きます。
「そうだそうだ!」
「俺たちを道具扱いしやがって!」
他のメンバーたちも一斉に立ち上がり、怒りの声を上げました。
パラディン様は歯噛みし拳を握りしめます。しかし、目の前にはS級モンスターを破った、同じ見た目の謎の騎士が二人です。
彼は勝算がないと判断したのでしょう。拳をそっと下ろします。
「くそっ! 君たちは一体何者なんだ!」
パラディンは吐き捨てるように叫びました。
「どんな目的があってこんなことをしたのかは知らないが、警告しておくぞ! 『黒い手』が君らを地獄の底まで追いかけて、髪の毛一本も残らないまでに、この世界から消し去るだろう。君たちに組織と戦う意志と能力があるようには見えないけどね」
「なんか言った?」
メンバーの男性が、今にもパラディンの頭を踏みつけて土に埋めそうな、末恐ろしい表情で言いました。
パラディンは慌てて口笛を吹きます。
上空を旋回していたワシが急激に巨大化し、彼を乗せられるほどの大きさになりました。
ワシはふわりと地上に降り立ち、パラディン様を背に乗せて飛び去っていきます。
「悪いが、君らのことは組織に報告しておくよ。震えて待つんだね! ワハハハハ!」
パラディン様は懲りないお方です。
このままでは、解放されたジル様やメンバー様たちが、再び危険にさらされるかもしれません。
「アジトへ乗り込みましょう!」
わたくしはエドワード様に提案します。
「今!」
「今でございますか!」
エドワード様はびっくりして、目が飛び出しそうです。
「行くなら、俺らも協力する! お前ら、そうだろう!」
メンバーのお一人が、積年の恨みをこめるように拳を突き上げました。
「もちろん!」
「監禁されてる仲間もいるからね!」
「やってやろうじゃん!」
「満場一致ですわね」
わたくしは、ワシが向かって行く、森の上にそびえる塔を凝視いたしました。
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