表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/52

15.チャンネル喰い【ざまぁ】

 こうして、ランキング十位、『こうのストレイビースト』様は洞窟から退散なさるのでした。


「あの……」


 か細い声が、わたくしを引き留めます。


 振り返ると、ヒーラー役の女性が、リーダーの陰に隠れるようにして立っていらっしゃいました。さきほどの戦闘で、わたくしの服を切り裂いてしまわれた方でございます。


「こんなことを言うのは、都合がいいのは分かっているんだけど……。その、あの、服を分けてくれないか?」


 ヒーラー様は恥ずかしそうにうつむかれました。


 彼女はカエルにやられて、わたくし以上に、しゅう極まる格好でございました。


「お待ちなさいませ!」


 わたくしは張り切って、服作りに取り掛かります。


 慣れたものです。魔法で布をこしらえ、い合わせ、今回は森で見つけたコスモスリの実を使って、ピンク系に染めることにしました。





 ──三十分後。


「できましたわ!」


 わたくしは誇らしげに、アップリケの付いた服を差し出しました。


「綺麗な色!」


 女性は、ぱあっと顔を明るくされました。まるでモミジナの花が咲いたような、美しい笑顔でございます。


 彼女は早速さっそく服を着替え、

 そして──


 ちーん。


 場が、静まり返りました。


(あらら……)


 やはり、胸元が下品にはだけ、お尻が半分ほど見え、袖の左右の長さが違っているのでございました。わたくしの裁縫さいほう技術はからっきしです。


 ヒーラーの女性は、どよんとした表情を浮かべながら、お礼を言ってくださいました。





「おい」

 エドワード様の低い声が、去りゆく配信者の方々を呼び止めました。


「まさかリリアナ様から服を貰っておいて、なんの謝礼もないというのか?」


 エドワード様の瞳が、氷のように冷たく光ります。


「リリアナ様はだいの染料師だ。いくさで負けた上に、プロの職人からタダで衣服を貰うとは、よほど身分が高いのだろうな」


 お仲間の一人がこそこそと、


「染料師といえば、王族に化粧を作ったりする人だろ? 王国の興亡こうぼうも職人次第(しだい)とまで言われる、あの染料師か!」


 目の前の配信者の方々は、さらにぶるぶると震え始めました。


 エドワード様は、凄みのある声で続けます。

「服代は百万ルルだ。きっちり払ってもらう!」


「わたしたちの半年分のお給料よ!」

 ヒーラーの女性が、金切り声を上げました。


「染料師を傷つけることがいかに重罪か分かっているなら、一千万ルルでも安いと思うがな」


 わたくしは慌てて、エドワード様の袖を引っ張りました。

「エドワード様、そんなに……」


 リーダーのビースト様は、片手でヒーラーの女性を制止されました。そして無言でエドワード様の手鏡に自分の鏡を重ね、決済の呪文を唱えます。


 わたくしの手に大袋が出現いたしました。

 ずっしりとした重み。


 袋の中を覗くと、金貨が山のように詰まっています。


(ひゃ! こんなにたくさん!)


「もう一つ!」

 エドワード様はさらに続けます。


「動画を消せ。リリアナ様を記録に残すな!」


 ビースト様は渋々(しぶしぶ)同意し、お仲間と一緒に空の彼方へと去っていかれるのでした。





 『称号〝小工房の染料師〟を獲得しました。スキルの攻撃範囲、五十パーセント増加。威力、五十パーセント増加』


 抑揚よくようのない声が、再びわたくしの頭の中に響いてきました。



 ♢ ♢ ♢

(※スカ表現注意)


 夕暮れ。


 き火の前で、ストレイビーストは瞳を半月にゆがめていた。戦いにこそ敗北したものの、動画の再生数が驚異的な伸びを見せている。もうすぐ六十万再生を超えるのだ。


「へへっ。だーれが動画を消すかよ! 炎上商法最高! 次はあの女をひっとらえて、ブタに襲わせる動画でもとるか! 百万はいくんじゃねーか?」

 ビーストは興奮気味に言った。


「土下座させられたままなんて格好悪いし、ふくしゅうはしないとねー」

 隣では、ヒーラーの女が彼の腕にすり寄りながら口をとがらせている。


 彼らに後悔の念など微塵もなかった。





「そのチャンネル、あたしにくださらない?」


 突然、冷たいナイフのような、それでいてつやのある女の声が降り注いだ。


「お、お前は、カレイドんとこのヒーラー、〝チャンネルいのノエリア〟! パーティーを壊滅させて、気に入ったチャンネルを横取りするってうわさの!」


 ノエリアは、透き通るような白い肌に、腰まで届く銀色の髪を持つ女であった。深い青の瞳は怪しく輝き、聖女を思わせるローブに身を包んでいる。


 ノエリアは、豪華なステーキを前にした人間のように舌なめずりをした。


「最近あなたのチャンネルが話題だから、いただこうと思って」


「横取りしてどうするつもりだ!」


 ビーストの叫びに、ノエリアは首を傾げた。まるで当然のことと言わんばかりに、


「どうするって、動画を配信するに決まってるわ。あたしの敬愛するカレイド様の──」


「の?」


「──動画の編集を担当してくださる方に、最近お子様ができて、おトイレの音を大層たいそう気に入っていらっしゃるの。ブリブリ、チョロロっていう音。だから、モンスターのトイレ動画を延々と垂れ流すチャンネルにしたいと思って」


 ノエリアは瞳を歪め、ほおを染めながら語った。


 ビーストの脳裏に、チャンネル登録者が伸びず、じゅうを舐めた三年間が思い出された。


「俺たちの三年間を何だと思ってやがる!」


「おい、ビースト、一位のメンバーにけんを売るのかよ! やめようぜ!」


 仲間の一人が慌てて止めに入る。ランキング一位のネタを横取りしたのは自分たちである。彼には自責の念が芽生えていた。


 ビーストは鼻を鳴らした。


所詮しょせんはヒーラーだろ! ヒーラーはパーティーで最弱だと決まってるじゃねーか!」


 うおー!


 彼はギザギザの刀を振り上げて女に向かっていった。





 その日、森の中に龍の形をした雷が、何度も何度も、何度も何度も、何度も何度も、まるでしかばねを灰にする勢いで降り注いだ。


 一帯は真昼のように明るく焼ける。


 女は笑っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ