14.オスとメス【ざまぁ】
ゲコゲコ。ゲーコ。
洞窟の奥底から忌まわしい鳴き声が響きました。
心臓が跳ね上がります。
ズシン、ズシン。
地響きが足の裏から全身に伝わり、わたくしは思わずエドワード様の袖を握りしめてしまいました。
洞窟の向こうから現れたのは、そう、見紛う事なき、あの巨大なカエルでした。
しかも一匹ではございません。
巨大ガエルの背後には、小柄なカエルたちが群れを成し、まるで軍隊のようにやってくるではありませんか!
大小様々なカエルたちの大合唱が、ダンジョン全体を震わせます。
「な、なんですの……!」
エドワード様は蒼白な表情を浮かべながらも、何かを理解したように手を打ち合わせます。
「そうか! リリアナ様が倒されたのはオスのヌメルロッグだったのです!」
「どういうことでございましょう?」
「つがいだったのですよ! オスとメスが、同じダンジョン内になわばりを張っていたのです」
エドワード様は早口です。
「あの小さなカエルは、間違いなく、ヌメルロッグの幼体ですよ! なんてことだ! SSS級がこの数なら、森は一夜にして壊滅し、人里もろとも毒の海に変ってしまう!」
「そんな!」
わたくしは絶句いたしました。
その時、ストレイビースト様が目を丸くして口をぽかーんと開けておられました。
「おい、女! 随分とヌメルロッグらしく作り込んだじゃねーか! どーせこれもニセモノだろう?」
彼は冷や汗を垂らしつつ、いぶかしげに呟いておられます。
その瞬間でした。
──ビュルルルル!
長い舌が稲妻のように伸びてきて、ビースト様の足を捕らえたのです。
「うわあぁぁあ!」
彼の絶叫が洞窟に響き渡りました。両足があらぬ方向へひん曲がり、関節の折れる音が、まるで枯れ枝を踏み潰すように響きます。
一瞬の出来事でした。
ヒーラー役の女性は顔面を白くしながら、
「ビースト? 演技よね? 負けた感じで余裕ぶってんでしょ? もういいから、戦ってよ!」
そう声を上げましたが、お仲間の「逃げろ!」という叫びが響くのと同時に、モンスターの舌が女性を包み込もうと襲いかかりました。
舌先は猛毒でございます!
ヒーラーは咄嗟に身を後退させ、ぎりぎりで舌攻撃を回避いたしましたが、戦闘服がジュッと音を立てて一瞬で溶解し、肌が露になってしまいました。
「キャー!」
彼女は慌てて身を両手で隠します。
「俺の仲間に何してくれてんだ!」「容赦しないわよ!」
分銅を振り回す男性と弓を構える女性が、怒りに満ちた顔で向かって行きました。
ピュン、ピュン!
次の瞬間、カエルたちの口から毒の唾が一斉に噴出します。
二人の武器は溶け、周囲の岩をも溶解させていきました。
二人は唇をガタガタと震わせて、
「本物のヌメルロッグだー!」
カエルの前から一目散に逃げ出します。
カエルたちは、撤退するストレイビーストのお仲間たちを、まるで羽虫を喰うように追いかけているのでございました。
わたくしは静かに佇んでおりました。
胸の奥で何かが燃え上がります。
怒りでしょうか。それとも、この美しい洞窟を荒らされた悲しみでしょうか。
「危害を加えるカエルさんには容赦しませんわよ!」
わたくしは木の棒を振り上げ、カエルに向けます。
「スキル染滅、発動なさい!」
エフェクトが光り輝いて、カエルたちに着弾いたします。次々と太陽のような球体がカエルたちを包み込んでいくのでした。
「キュウ!」
「ウリちゃん!」
振り返ると、わたくしの側には、ウリちゃんと、シカ、ウサギ、その他わたくしがカエルのお肉を分けて差し上げた動物たちがずらっと並び、目を欄欄と燃やして戦闘態勢を取っているではありませんか。
背格好が少し大きくなったようで、顔つきも頼もしくなっている感じがいたします。
「きゃー! S級モンスターが何十匹もいる!」
ヒーラーの女性は肌を両手で隠しながら、恐れおののいて腰を抜かし、這いつくばってダンジョンの出口へ向かわれるのでした。
(カエルのお肉は動物たちを進化させる力があったのかもしれませんわね)
染滅は効果てきめんです。
カエルたちは毒を無効化され、汗をだらりと垂らして固まっておりました。
わたくしは叫びました。
「みなさん攻撃よ! 餌場を荒らされたくなかったら、カエルさんたちのライフをゼロにするしかありませんわよ!」
やがて、カエルたちの悲鳴とともに、静寂が洞窟に戻りました。
♢ ♢ ♢
「疑って、すみませんでしたあー!」
額を擦り付けて土下座をしていらっしゃるのは、ストレイビースト様とそのお仲間様でした。
エドワード様は彼らの前に仁王立ちし、睨みを利かせた視線を向けます。
彼らは再度、深々と土下座を敢行なさるのでした。
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