13.討伐合戦
号令と共に、わたくしは洞窟の奥へと駆け出しました。
足元の鍾乳石は雨に濡れたようにぬるりと滑り、一歩踏み出すたびに転んでしまいそうです。
わたくしは腕を懸命に振り、おぼつかない足取りで前へ前へと進むのでした。
「ダンジョン一層なんて余裕だぜ!」
視線を前方に向けると、すでにビースト様はわたくしの十メートル先においでになりました。風の精霊でも宿したかのような速さで駆け抜けます。
ギザギザのソードを振り回し、岩陰からひょっこりと出てきたスライムに向かい、次々と攻撃。
「【フレイムバースト】」
剣から炎が迸り、スライムたちを一瞬で焼き払っていかれました。
(なんと鮮やかな戦いぶりでしょう。ランキング十位は、伊達ではございませんのね)
「わたくしも負けてはいられません!」
討伐合戦は性に合いませんが、これ以上エドワード様にご迷惑をかけるわけにもいきませんから。
決意を固め、力を込めて岩肌を蹴ると、
「あら……」
べちゃん。
ぬかるみに足を取られ、わたくしは無様にも転倒してしまいました。土臭い液体が顔と体にまとわりつき、思わず小さな悲鳴を上げます。
「そんな軽装備でダンジョンに挑もうとするからだよ」
見上げると、敵のヒーラー役の女性が、蛇のような目つきでわたくしを睨んでいました。クスクスと笑い声。
「いくら動画で不正をしたって、アンタの装備が素人丸出しだって教えてる。それとも、殿方の注目を浴びる作戦?」
殿方の注目?
手作りした服の話のようです。
ヒーラー役様は続けます。
「気持ち悪いんだよ! 胸と尻を出しまくって、視聴者に媚びを売るなんて、やらせ常習犯らしい卑怯な手口じゃないか!」
いつから「常習犯」になったのでしょう?
「それに、その小鳥のアップリケはなんのつもり? どうせ転んで穴が開いたのを隠してるだけだろう! やっぱり卑怯!」
ヒーラー役様の導火線に火がついてしまったようです。
:やれ!
:再起不能にしろ!
:女を蹴り上げろ!
:パイ乙アップしろ!
:泣き顔をよこせ!
:【ジルルさんがスパチャをしました】
女性は、快感を得たようにゾクゾクッと体を震わせました。ニタリ顔で微笑むと、懐からダガーを取り出し、
──ザクッ! ザクザクザクッ!
ヒーラー様の周囲に、美しい布地が千切れて、落ち葉のように舞っています。
わたくしの衣服はあらゆるところを切り刻まれて、見るも無残な状態に変わってしまったのでした。
「リリアナ様になにをする!」
エドワード様は激情にかられた様子で、わたくしに駆け寄ろうとなさいます。
ですが、敵の仲間の一人が魔法を使い、エドワード様の剣を奪い取ってしまいました。
「下手な真似すんじゃねーぞ。動画の趣旨は女のやらせを暴くことだ。女に力があるなら対抗するだろ? まあ、本当に力があればだけどな! ハッハ!」
エドワード様は歯噛みをされました。
涙が瞳に自然と溜まりました。
(わたくしの大切な一着。追放されてから、初めて作った服なのに……)
ヒーラー役の女性は、怒りに顔を歪ませながら叫びました。
「ピーピー泣くんじゃねー! イラつくな! 配信を舐めてるのはアンタだろう! あっしらは、ダンジョン配信に命をかけてんだよ! アンタみたいにやらせで稼ぐヤツらを、あっしらは絶対に許さない!」
勘違いは恐ろしいものでございます。
:そうだそうだ!
:よくいった!
:偽物は消えろ!
:次はアップリケだな!
:アップリケをはぎ取れ!
:はーぎ取れ!
:はーぎ取れ!
:はーぎ取れ!
:【ポークさんがスパチャをしました】
:はーぎ取れ!
:はーぎ取れ!
:はーぎ取れ!
ヒーラー役の女性は、リーダーに目配せをいたします。ビースト様は、まるで処刑人に合図を送るかのように、口角を上げて頷くのでした。
女性はゆっくりとアップリケに手を伸ばし、ダガーの刃を向けました。
あの小さな小鳥は、わたくしの希望の象徴でございます。
刃が勢いよく振り下ろされました。
その刹那。
「何だあー! コイツはあー!」
洞窟の奥から、分銅攻撃を担当する男性の悲鳴が響いてまいりました。




