11.彼にプレゼントをしましょう!
朝。
わたくしの胸は、小鳥が羽ばたくように踊っていました。
今日はエドワード様がこちらまで足をお運びくださるからでございます。
洞窟の入り口を行ったり来たりする度に、わたくしの頬は熱を帯びるのでございました。
「そうですわ!」
人差し指を立てました。
「何かプレゼントをお渡しして、お傍に置いていただく機会を作りましょう」
わたくしは腐っても染料師です。若草色のハンカチなどいかがでしょうか。エドワード様のお人柄にふさわしい、仄かに香る上質なハンカチを――。
「うふふ」
そして、贈り物を受け取られたエドワード様は、お優しい微笑みを浮かべて、こう仰るのです。
「なんと心のこもった美しい品だろう。けれども、リリアナ様。あなたのほうが、何倍も美しくいらっしゃる」
そして、わたくしの指先にそっとお触れになって――。
「きゃーきゃー!」
わたくしは真っ赤になって、薬草をブンブンと振り回すのでした。
ウリちゃんが小首を傾げて、不思議そうに「キュウ?」と鳴いていました。
(※リリアナ注:繰り返しになるかもしれませんが、わたくしは色を識別できませんが、色レシピが分からないわけではありません。染料師ですからね。ふんぬ!)
♢ ♢ ♢
ダンジョンの入り口から十メートルも行けば、翡翠の形をした宝石と、生命力あふれる野草が見つかりました。
幾つか採取し、丁寧にすり潰し、布を染め上げます。
指先に伝わる質感と、鼻腔をくすぐる香りが、完璧な仕上がりを物語っております。
やがて、風に乗って馬のいななきが聞こえてまいりました。
「リリアナ様ー!」
「エドワード様!」
わたくしは洞窟から舞い踊るように駆けます。
エドワード様は馬上から慌ただしく飛び降り、わたくしに向かって走ってこられました。
(まあ! そんなにもわたくしに会いたいなんて!)
「リリアナ様! リリアナ様! 大変でございます!」
「ほ……?」
「リリアナ様のご活躍がバズりまくっております!」
急な説明に、わたくしは首を傾げました。
聞くと、ダンジョン配信なるものの話でございました。
古代の魔道具はよくわかりません。
エドワード様は、装備品の中から薄い四角形を抜き取り、わたくしに見せます。
鏡でした。
映っていたのは、まぎれもなくわたくし。あの日、カエルと戦ったときの映像が、克明に記録されているではありませんか!
「再生回数を見てください!」
(えーっと?)
イチ、ジュウ、ヒャク、セン……。
「五十万回……!」
「その通りですよ! 五十万ですよ、五十万! 事件の日から、三日あまりでこの数字です! おのれ盗撮魔め! リリアナ様を無許可で撮影するなど!」
「あの、その……。コレはどれくらい凄いのでしょうか?」
「配信を仕事にできるレベルです」
「これですべての謎が解けました」
エドワード様のお声に、確信が込められております。
「なぜ王宮がリリアナ様のご居所を突き止められたのか。リリアナ様は今後、人目を引くようなご活躍はお控えいただきたい。可能なら、拠点すら移動させたほうがいい。決して、好奇の目に晒されぬよう――」
「なんということでしょう!」
わたくしの心に稲妻が走りました。
唇をかすかに震わせ、頬から血の気が引いていくのを感じながら。
「──なんということでしょう! その魔道具を使えば、わたくしの手がけた染め物を、多くの方々にお披露目して、お商売の道が開けるではございませんか!」
「は?」
どうしてエドワード様は、時が止まったように、お目をぱちくりとなさっているのでしょうか? そういう意味ではなかったのでしょうか?
エドワード様は深く溜息をつき、フッと表情を緩められました。
「リリアナ様のポジティブさは天性のものですね。陛下はあなたが消されたと思い込んでいるようですし、しばらくは刺客も来ないでしょう。思いのままにお過ごしいただくのが一番の心の治療。私が護衛に徹すれば、万事解決ですか」
「それならば」と言葉を繋ぎ、エドワード様が何かを閃いたように拳を作られました。
「まずはスキルの謎を解明いたしましょう!」
♢ ♢ ♢
「あの……。エドワード様……。これにはどういう意味が……」
スキルの解明。
わたくしは、巨大な岩の前で立ちすくんでおりました。岩の影が、すっぽりとわたくしの身体を覆います。
「染滅は、おそらくパワー系スキルです」
エドワード様は歴戦のにじみ出る口調でおっしゃいました。
「A級やSSS級モンスターを一瞬で倒したなら、リリアナ様本人に、モンスターを上回る筋力が付与されているかもしれません。岩を持ち上げてください」
「わかりました。やってみますわ。スキル染滅! 発動なさい!」
促されるまま岩を持ち上げようとするのですが、ぴくりとも動きませんでした。
「ふむ。興味深い」
エドワード様は手帳に凄い勢いでメモをなさっていました。
その後も、実験と称し、湖面や木々に向かってスキルを発動するのですが、何も起こりませんでした。
エドワード様は「凄い! 凄いぞ! 未知のスキルだ!」などと瞳を爛欄と燃やしてメモを取り続けていらっしゃるのでございました。
一通り実験を終えるとお昼になりました。
エドワード様は、二人分の食事に丁度良いサイズのモンスターを捕まえてきてくださいました。
「いただきます!」
キノコとモンスターのお肉が入ったシチュー。ハーブと木の実を混ぜたサラダ。川の清水と、琥珀のように輝く木の葉で作ったお紅茶。
わたくしたちは、談笑しながら、なかなか豪華なメニューに舌鼓を打ったのでございました。
巨大な影が、わたくしたちを通り過ぎていきました。
彼が空を見上げます。
猛禽類の鋭い鳴き声。バサバサという羽音。
エドワード様が素早く剣を抜くのがわかりました。
冷たい声がわたくしに向けられました。
「ついに見つけたぞ。貴様がSSS級を屠ったなどと嘯く、エセ配信者だな?」
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