1.衣服をはがれて
「リリアナ・ヴァンディス。貴様を王宮より追放する」
女王陛下の冷酷なお声が、王宮の謁見の間に響き渡りました。
わたくしは大理石の床に膝をつかされたまま、信じられない思いで女王陛下を見上げておりました。
金糸の刺繍が施されたドレスに身を包まれた女王陛下のお顔は、まるで氷の彫刻のように冷たく美しく。わたくしにとっては絶望そのものでございました。
「陛下、わたくしは何も……」
「黙れ」
女王陛下の一言で、わたくしの言葉は喉の奥で凍りついてしまいました。
王宮の染料師として十年間、わたくしは忠実に仕え続けました。陛下の美しさを引き立てるため、お化粧や染め服の研究に誰よりも心血を注いできたのです。
それなのに、どうしてこのような屈辱を受けなければならないのでしょうか。
謁見の間の奥から、同じく王宮染料師であるマリアンヌが現れました。彼女の顔には、勝利の笑みが浮かんでおりました。
「陛下、この度はリリアナの暴挙により、ご迷惑をおかけして誠に申し訳ございませんでした」
マリアンヌの声は震えておりました。けれども、わたくしには分かります。あの震えは演技でございます。彼女はわたくしを陥れるために、何ヶ月もかけて綿密な準備を重ねてきたのでしょう。
「リリアナ」
マリアンヌがわたくしを見下ろしました。
「もうお諦めになっては? 証拠は全て揃っておりますのに」
彼女が差し出したのは、わたくしが王宮の染料室で使っていた小瓶でした。
「この毒薬を、陛下のお化粧品に混入させようとしていたのですね?」
「そのようなことはいたしておりません!」
わたくしは必死に首を振りました。けれども、マリアンヌの巧妙な罠は完璧でした。
「昨日の化粧当番はあなたです。更に、この毒薬の成分は、あなたの工房でしか手に入らない特殊な染料ですわ。誰が見ても、犯人は明らかでございますわね」
マリアンヌの言葉は、まるで鋭い剣のようにわたくしの心を貫きました。わたくしの信頼を利用し、工房から染料を盗んだのは、マリアンヌ、あなたではありませんか!
「陛下、わたくしは……」
「もう十分だ」
女王陛下が手を上げられると、屈強な衛兵たちがわたくしの両脇を固めました。
一人の衛兵がわたくしの両腕を後ろから鷲掴みにし、もう一人がわたくしの頭を容赦なく押さえつけました。
「痛っ……」
わたくしの声は小さく震えておりました。
「足で踏みつけよ」
女王陛下の冷酷な命令に従い、衛兵の一人がわたくしの背中に体重をかけます。
「かはっ……」
視界に火が走りました。
「声を封じよ」
粗い布がわたくしの口に無理やり押し込まれ、後ろで容赦なく固く結ばれました。わたくしは必死にもがきましたが、衛兵の力は強すぎました。息をするのも困難で、涙があふれてまいります。
その反応が面白かったのか、衛兵はニヤリと、靴でわたくしの尻を思い切り蹴り上げます。激痛が走り、わたくしは思わず前のめりになりました。
「次」
今度は大きな水桶が持ってこられました。
「陛下、一体何を……いやっ!」
衛兵はわたくしの髪を掴みます。
──バシャ!
頭から氷のように冷たい水を容赦なく浴びせられました。お化粧が流れ落ち、髪がべっとりと顔に張り付きます。顔面はまるで汚れた雑巾のようになったでしょう。
「身ぐるみを剥げ。二度と染料師などできぬように」
わたくしの美しい宮廷服が乱暴に剥ぎ取られます。
下着姿になったわたくしは恥ずかしさと屈辱で全身が震えました。
けれども、それよりも辛いのは、謁見の間の隅に無造作に置かれたわたくしの道具たちを見ることでした。
十年間、大切に使い続けてきた乳鉢。
何度も試作した、とびっきりの染料の小瓶。
母から受け継いだレシピ手帳。
全てが無造作に木箱に詰め込まれ、衛兵によって乱暴に運び出されていきます。
「仕上げだ」
女王陛下の瞳孔が赤く光ります。
陛下が呪文を唱えると、陛下の手には光る槍が現れました。それは魔法で作られた武器で、刃は虹色に妖しく輝いています。
「陛下、それは……」
さるぐつわ越しにわたくしが呟いた時、女王陛下の槍がわたくしの目の前に迫ってまいりました。
「とびきりの褒美だ」
槍の先端がわたくしの両目に向かって一直線に飛んでまいりました。わたくしは死を覚悟いたしました。
「きゃぁああ!」
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