六話
大地が牙を剥きだしにし。天は唸り声を上げる。
「かなり困る」
俺はパンチを繰り出した。当たらない。
大気が俺を潰そうと圧縮していく。
肺が、眼球が、鼓膜が、俺を殺そうとその機能をシャットアウトしていく。
地割れが起き、俺を飲み込もうとする。
いつの間にかゴブリンが目の前にいて、俺に刀を振り下ろした。
俺は避ける。
「くらえくらえくらえ」
俺は右パンチを繰り出す。
腕が切り落とされた。
左パンチを繰り出す。
腕がもげた。
困った、どうしよう。
俺は飛び膝蹴りを繰り出した。
ゴブリンは死んだ。
「貴様はなぜ、道を進まなかった?道標ならあった」
死んだゴブリンの眼球が腐り落ちて、その空洞から声が出ている。
「枯れ木の中にキモい感じの虫がたくさんいたから、ちょっと逸れた」
世界が崩壊していく。
天が割れてそこから高級自動車が突っ込んできて、俺のすぐ横を通り過ぎ大地に突き刺さった。
大地は死んだ、そして急速に腐っていく。
空は寿命で死んで、落ちてくる。
俺は走る。
「あーーー!!」
俺は叫ぶ。世界が真っ暗になっていく。
転生者という役目のものが、存在を始めたときから持たされる知識が「これは宇宙だ」と言った。
月、火星、金星、三千年後発見される銅星。太陽。この位置からならよく見える。
そして見えなくなった。
俺の体は落ちる。上がる。止まる。
方向が消えていく。
鼓動が消えていく。
時間が消える。
生がなくなり、その裏である死が消える。
概念が消えていく。
全てが消えていく。
なにもない。
俺以外は。
………
俺だけは、いる。
俺はパンチを繰り出した。
消えるという概念が消える。
消滅という終わりがなくなる。
生と死が復活していく。
消えたという状態がなかったことになる。
時間が戻り、俺は真っ逆さまになって落下していく。
その方向は下だ。
世界が青く染まっていく。
たまに白く染まる。
ここは、空だ。
俺は空を堕ちていく。
俺は首を上げ地面を見上げる。みるみると近づいていた、このままだと死ぬのか。
「死ぬのか」
そして俺は死んだ。
恐怖と痛みが溢れ出して、溶けていく。
この死に何かの意味を思いつく暇も無く。
―――――――――――――――――
「……転生したのか」
俺は転生したようだった。
だって目の前にゴブリンがいるし、こっちに襲いかかろうと剣を振り回している。
しかしなぜ転生したんだろう?
ミンチになった記憶はあるが、どうしてそうなったのかは覚えていない。
トラックに轢かれたわけではないはずだが……
「くらえ!」
とりあえずゴブリンに跳びヒザ蹴りを繰り出した。腹にいい感じに入ったみたいで、腹を押さえてうずくまっている。
「うわ、あなた強いね」
「誰だ?」
木々の隙間から、女が現れた。
まさしく異世界といった様相の、ピンク髪。
「薬草取りに来たらあなたが襲われてたから、殺されそうなら助けてあげるつもりだった人よ」
「じゃあ助けてくれ、俺は記憶喪失だ。どこへ行けばいい?」
「記憶消し草でも食べたの?、じゃあ街で病院ね」
女は歩き出した、俺はそれに続く。
「ところであなた名前は?」
「これから決める」
「なにそれ?」
木漏れ日はあれど、木々に阻まれ足元は悪く道は見えない。
されど進んでいく。
あぁ、足が痛い。
全く知らない虫とか植物もたくさんいるし、たまにモンスターが出て来る。
俺は転生したのであった。




