8:死亡フラグが立ってしまった
「あ、あの…先輩、どこに行くんですか…?」
無言で廊下を歩くアレクサンダーに気まずさを感じ、行き先を尋ねた。
「僕の研究室だよ。少し手伝って欲しいことがある。」
(研究室?そんな場所があったっけ…?)
「着いたよ。ここが僕の研究室だ。」
アレクサンダーが扉を開けると、中にはたくさんの道具や植物が並んでいた。
壁一面には不気味な瓶や本が並び、机の上には色とりどりの試薬が揃っていた。
「うわ、すごいですね。これ全部魔法関連ですか?」
「そうだ。ここに置いてあるのは全部魔道具。植物には触らないように。怪我をするかもしれないから。」
植物の方に目をやると、毒のような粉を吹き出している植物や、牙が生えた花の形をした植物が目に入った。
(見た目からして危険そうだな…。)
「待たせたな、君に手伝って欲しいのは、この小瓶の匂いを嗅ぐことだ。」
アレクサンダーが差し出したのは、小さな小瓶だった。中には何かの破片のようなものが入っている。
「あの…これ、ヤバいものじゃないですよね…?」
「大丈夫だ、問題ない。」
「ちなみに、どうして私が選ばれたんですか?」
「君は匂いに敏感そうだから。今回の実験にはその感覚が必要なんだ。」
(実験って言ってるし…。怖いんだけど。)
アレクサンダーの方をちらりと見ると、険しい顔でこちらを見ていた。
早く嗅げと言わんばかりの態度だ。
(ゲームにはこんな展開なかったよな…。もし、アレクサンダーがゲーム通りのヤバいやつだったら…死ぬかもしれない。)
ゲームでは、アレクサンダーは主人公と仲良くなると次第に死体に興味を持ち出す。
そしてある日、お茶に誘いこう言うのだ。
「僕は君がたまらなく好きなんだ。君を一生僕のものにしたい。僕ならば君を一生綺麗なまま誰にも見せずに保存してあげられる。だから…僕の死体になってくれないか?」
そうして主人公は微笑むアレクサンダーの目の前で毒殺され、彼のものとなる。という死亡フラグが一つあった。
(嫌だ、怖すぎる…。自分で考えた展開だけど、普通に怖い。)
「どうした、早くしてくれないか。」
アレクサンダーは鋭い目でこちらを見つめていた。
(こっちもこっちでリアルのアレクサンダーも怖いんだよなあ…。ええい、もうどうとでもなれ!)
勢いよく小瓶の栓を抜き、匂いを嗅いだ。
香ばしい匂いがした。そう、これは犬の肉球のような…。そして俺は倒れた。
アレクサンダーが何か言っているようだが、言葉が聞き取れない。
(ああ…良くない選択だったな…。)
ここで俺の意識は途切れた。
「…やはり…そうか…。これは致死量に近いな…。」
誰かが話しているのがぼんやりと聞こえてくる。この声はアレクサンダーか?
「今ここで殺して、僕のコレクションに加えようか。」
目が霞んでよく見えないが、アレクサンダーがこちらに歩いてくるのがわかる。
(このままじゃ、本当に死ぬ。何とかしないと…。)
しかし、手足に力が入らない。
「ああ、起きていたんだね。大丈夫だ。今から特別な部屋に案内するよ。」
(ここで死んでたまるか!)
そう強く思った瞬間、アレクサンダーとシエルの間に火柱が上がった。
「へえ…あの毒を受けてなお、魔法を使えるとは。興味深いな。」
アレクサンダーは小瓶を火柱に投げ入れた。
すると、火柱は小瓶から出てきた水の玉に飲み込まれ、消えてしまった。
「くそっ!」
もう一度魔法を使おうとした瞬間、研究室の扉が開いた。
「アレクサンダーくん、ものすごい音がしたけど大丈夫かい?ややっ!君、大丈夫かい?アレクサンダーくん、何があったんだい?」
よぼよぼのおじいちゃん先生が入ってきた。
(よ、良かった〜、助かった…。)
「これは、ヤーマン先生。少し彼女に実験を手伝ってもらっていたのですが…失敗して大きな音を立ててしまいました。すみませんが、彼女を保健室に運ぶのを手伝っていただけますか。」
俺はヤーマン先生とアレクサンダーに手を貸してもらい、保健室へ運ばれた。
(アレクサンダー…何を考えているのか分からないけど、やっぱり要注意だな。)




