6:一日の終わり
寮に戻り、自分の部屋に案内されると、俺は備え付けのベッドに倒れ込んだ。
「今日は本当に色々あったなぁ…。そういえば、この世界に来てから状況を全然整理してなかった。」
まずは状況整理だ。現実世界の俺は、確か死んだ。
あの日、コンビニに行こうと歩いていたら暴走したトラックに轢かれた。
その瞬間の感覚は全く覚えていない。おそらく即死だったのだろう。
気がつくと、この世界にいて、俺が制作していた乙女ゲームの主人公に転生していた。
しかも、ゲームのスタート地点にいきなり放り込まれるなんて…。
普通の人ならパニックになってもおかしくないが、俺は製作者で、察しと順応能力が高かったからどうにかやっている。
なぜこの世界に転生したのか、その理由は全くわからない。
でも、俺が完成できなかったゲームへの悔しさが強すぎて、こんなことになったのかもしれない。
さらに謎がある。この世界は、俺が設定したゲームと似ているが、少し違っている。
街や魔法学園の風景はほぼそのままだが、魔法学園には話すランタンが浮いていたり、貴族たちが幼少期から魔法を学んだりしている。
攻略対象たちの様子も少し違っていた。
カイル先生は特に問題なさそうに見えるが、リアムは魔法の研究に熱心だったり、アレクサンダーはゲームでのイメージと少し違う気がする。
セバスチャンも入学初日から魔法が使えたりしていた。さらには、エリカというキャラが登場している。ゲームには彼女のようなキャラは存在しなかったはずだ。
(まあ、エリカに関しては特に問題なさそうだけど…。)
とにかく、この世界は俺の作った乙女ゲームに似ているが、完全に同じではない。
知識がどれだけ通用するかわからないのが難点だ。
この辺りは時間をかけて考えていくしかない。
だが、一番の懸念は攻略対象たちの特性だ。
彼らはそれぞれ異常な興味を持っていて、主人公がトリガーを引くと死ぬ。
そして、ゲームのタイトル「Re:start」にちなみ、1度だけ記憶を持ち越して死ぬ前の時間に戻ることができる。
戻った時間で、攻略対象の異常さを知った上で恋愛をするか、別の選択をするかによって未来が決まる。
簡単に言えば、そういうゲームだ。
しかし、この世界でも攻略対象たちがその異常さを引き継いでいるとしたら、シエルにとっては非常に危険なことになる。
そもそも、生き返れるかもわからない。
「あぁ〜!考えれば考えるほど嫌になってきた。攻略対象たちと関わりたくない…ん?関わらなければいいだけじゃないか?」
そうだ、もう面識はあるが、関わらなければ面倒なことにはならない。
「よし!明日から関わらず、普通の生徒として生きよう。そして普通に魔法の世界を楽しめばいいんだ。」
シエルは主人公なので、魔法の適性が高く、どんな魔法でも使える。
この際、女の子として2度目の人生を謳歌するのも悪くないだろう。
「そうと決まれば、明日から学園生活を楽しむぞー!」
そう叫んだ瞬間、部屋の窓に「コツン」と何かがぶつかる音がした。
(こんな時間に誰がいたずらしてるんだ?)
窓の外を覗くと、「カタカタカタカタカタ」と音を立てながら、白い物体が石を投げていた。
「なんだ…?あれ…?」
恐る恐るよく見てみると、それは動く骸骨だった。
「う、うわぁ!!」
驚いて尻もちをついたが、急いでカーテンを閉めた。骸骨が動いている?何なんだ、あれ?幽霊か?この世界には幽霊がいるのか…。
俺は恐怖に震えながら気を失い、波乱万丈な1日を終えた。




