5:なんだか知っている展開じゃない?
入学式が終わり、教室に到着すると、担任のカイル・フェンリスが生徒たちを席に誘導していた。
彼も攻略対象で、アストリア魔法学園の教師だ。
生徒には厳しく指導するが、常に生徒たちのことを考えて行動する熱血教師だ。
(今は特にイベントは起きないけど、後々フェンリス先生との重要なルートがあるんだよな…。)
「俺は今日からお前たちの担任になった、カイル・フェンリスだ。席に各々の名前が置いてある。早く席に着け。」
教室に入ると、一人ひとりの席にネームタグがふわふわと浮いていた。
(さすが魔法学校だな。これが普通の学校だったら、みんな驚くだろうな…。)
席に着こうとすると、「お隣、よろしいかしら」と柔らかな声が耳に届いた。
振り返ると、そこには金髪の美少女が微笑んでいた。見た目はまさに良いところのお嬢様で、俺が男だったら確実に惚れてたわ…いや、実は中身も男なんだけどさ。
「あ、どうぞ」
「ありがとう、お隣失礼致しますわ。私、エリカ・ブライトと申しますの。貴方のお名前をお伺いしてもよろしくて?」
「俺…じゃなくて、私はシエル・クライス。今日から、その…お隣同士、よろしくお願いします!」
「ふふふっ…こちらこそ、よろしくお願い致しますわ。シエル、いい名前ですわね。シエルとお呼びしてもよろしいかしら?私のことはエリカと呼んでくださって構いませんわ。」
「え、ええ!もちろん!好きに呼んでください!!」
「まあ、やったわ!お友達ができましたわ!」
嬉しそうに笑うエリカはまさに天使のようだった。
でも、ゲームにはエリカ・ブライトなんてキャラは出てこなかったはずだ。
この世界は俺の作った乙女ゲームに似ているけど、少し違う世界…なのかもしれない。
「シエル・クライス、エリカ・ブライト。いい度胸をしているな。入学初日から、俺の目の前でお喋りとは。お前たちは罰として、この教室の掃除をしろ。それじゃ、以上だ。」
カイル先生が教壇からこちらを睨みつけ、教室から出て行った。
「怒られてしまいましたわね。」
「あれ…?エリカさん、なんでそんなに嬉しそうなんですか…?」
ニコニコと楽しそうに話すエリカの背後に、背の高い大男が立っていた。
「エリカ、何を喜んでいるんだ。叱られたんだぞ。」
「あら、セバスチャン。ご機嫌よう。」
そう言ってエリカを注意したあと、俺に目線を向けた。
「クライスさん、エリカのせいで怒られてしまって申し訳ない。俺はエリカの幼なじみのセバスチャン・ラヴクロフト。よろしく。俺も掃除を手伝うよ。」
セバスチャンは杖を一振りし、用具ロッカーに入っていた箒を3本取り出した。
彼は、セバスチャン・ラヴクロフト。
4人目の攻略対象で、紫色の短髪が特徴的だ。
ラヴクロフト公爵家の一人息子で、かなり礼儀を重んじている。
困っている人を見捨てられず、たまに無茶をするが、そんなところが評価され、領地の民たちにとても愛されている。
「凄いな、もう魔法が使えるんだ…のね。」
「ああ、貴族は皆、幼い頃から魔法教育を受けることが多いんだ。この学園に入学している貴族はほとんどが使えると思うぞ。」
「ちなみに私も魔法は使えますわ。」
そう言ってエリカが懐から出した杖を一振りすると、セバスチャンが取り出した箒を1本、自分の方へと引き寄せた。
セバスチャンは取り出した箒をシエルに手渡した。
「まあ、魔法で掃除してしまえばすぐに終わるけど、それじゃ罰にならないとフェンリス先生に叱られてしまうだろう。大人しく魔法は使わずに掃除をしようか。」
「えぇ…嫌ですわ…。服が汚れてしまいます…。」
「ま、まあ、私たちが悪いんだし、大人しく掃除しましょうか…?ほら、友達との共同作業ってことで!」
「まあ!それはいい響きですわね!私、張り切って掃除しますわ!」
そう言って張り切って掃除するエリカとセバスチャンと一緒に、教室の掃除をし、一緒に寮へ帰った。
(しかし、今日1日で色々あったな…少しこの世界のことについて考えてみる必要がありそうだな。)