1:ep 乙女ゲームの世界に転生してしまった
俺の名前は桜井悠。誰もが知っているような大手ゲーム会社に勤めている。今は乙女ゲームの制作プロジェクトのディレクターを任されている。まあ、そこそこの地位がある。
俺は「Re:start」というタイトルのゲームに携わっている。キャッチコピーは「今までの乙女ゲームの常識を越える」。だからこそ、いろいろと乙女ゲームっぽくない要素をたくさん盛り込んだ。
「Re:start」は中世の魔法のある世界が舞台だ。主人公は魔法学校に入学し、様々な魔法を学んでいく。そして、魔法学校で出会う魅力的な攻略対象達…と、ここから先はゲームをプレイしてからのお楽しみだ。
その夜、俺は仕事の息抜きにコンビニに出かけた。キラキラと光る街灯に照らされながら明るい夜道を歩いていた。だが、突然、大きなブレーキ音と周りの悲鳴が響いた。
明るかった街が一瞬にして真っ暗な闇に包まれた。俺はその時、乙女ゲームの開発者として過ごしていた前世を思い出していた。特に印象に残っているのは、未完成のまま残してしまった最新作のプロジェクトだった。
暗闇の中で俺が思ったのは、「いっそ死ぬなら製作途中の乙女ゲーム、完成させたかったなぁ」ということだった。
そして目が覚めた。ベッドの上だったが、何かがおかしい。病院にしては古めかしく、家のような雰囲気だった。
「ちょっと待て、ここは…」
声もどこかおかしい。扉の向こうから誰かが呼んでいる気配がするが、そんなことより外の様子が気になった。窓を開けると、そこには賑やかな城下町が広がっていた。
大きな城と中世風の学校。その景色には見覚えがあった。そう、これは俺が作っていた「Re:start」の世界そのものだった。
「ここは…あのゲームの世界か?」
目の前の景色が信じられない。自分の声も違うし、手も小さく感じる。慌てて部屋にある鏡を見るとそこには銀髪の可愛らしい少女が映っていた。
「シエル・クライス…」
俺は自分が作った乙女ゲームの世界に転生してしまった。しかも、女性主人公として。
「これは…この先前途多難だな…」
不安を抱えつつも、新たな名「シエル・クライス」として、この世界で生きていくことを決意したのだった。