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89日目


 船の中核部分、大食堂の中央でラーナは詠唱を続けていた。

 だが、船が大きく揺れる。


「鯨が速度を上げています! このままでは失敗します!」


 鯨を監視していた魔術師が叫ぶ。

 私は一か八か『力』を発動させた。


「でかくなれ!」


 船が、鯨が、大きく上昇した。

 ラーナの詠唱が終わる。


「いけます」


 自分の身体が光に覆われた。

 それだけでなく、船の壁も、床も、集まって来ていた乗員たちも淡い光に包まれている。


 時空がねじれるのを感じた。


 私は窓の外を見た。

 暗い鯨の胃壁ではなく、どこまでも深い、海の青が見えた。


「もう甲板に出てもいいですよ」


 汗をぬぐいながらラーナが言ったので、私たちは階段を上がった。


 六日ぶりの青空だ。

 海に浮かぶ布に魔法陣が書かれている。


 遠くで、胸を大きく膨らませた鯨がヒレをばたつかせている。

 その風が波の上を滑り、吹きつけてくる。


「ふう」


 ラーナが甲板に寝転がった。

 体力を消耗していたのだろう。


「本当に助かりました。命の恩人です」


 しゃがみこんで船長が彼女に礼を言う。

 その後ろで、ウィンザムが翼を組んで様子を伺っていた。


「礼くらい言っても何も減らぬ」


 私は言った。


「……ありがと。ラーナ」

「いえ、皆さんの協力あってこそです」


 皆巨乳になったまま、順番にラーナへ礼を言った。


「わたしへの感謝はないんですかあー」

「魚は歌ってただけだろが!」

「いや、歌も大事な心の支えになったよ。ありがとう」

「船長さんは人ができてますねえー」


 皆笑った。

 航海は再開された。


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