75日目
料理対決当日。
「がんばれタンク。修行の成果を見せてやれ」
「修行とかしてないですが」
「おう」
「くくく……せいぜいあがくが良い……いや本当に……」
開始の鐘がなった。
シローは仔牛から切り出した肉から、綺麗に筋を取っていく。
タンクは塩漬け肉と第二胃袋を、そして高山で採取した草を根っこごと刻む。
「うおおおおお!」
シローは肉に下味を付け、魔術の炎で丁寧に焼きながら、付け合わせの食材も茹でている。
タンクは少量の塩で大量の芋を肉と一緒に、青い芽の生えて来たものも煮て、熱いうちに剥いていく。
「くくく……」
シローはなにか高級な酒を肉に垂らし、フランベした。高く炎が上がっている。
タンクは皮を少し残したままの芋を刻んだ食材と合わせ、つぶし、つぶし、つぶしていく。
「おわった……」
仔牛のフィレ肉ステーキが完成した。
「できたぞ!」
ソースがけマッシュポテトが完成した。
「では実食と参ろう……」
「うっま」
「この肉めちゃくちゃ美味い」
「せめて足並みは揃えぬか……」
私たちはステーキを平らげていた。
「まあよい。自分で作ったのだ、味は想像できる。わが本命はこちらよ……」
シローは大量のマッシュポテトの山を、わずかに削って口にした。
動きが止まる。
「う……」
「う?」
そのまま後ろへ倒れた。
「………」
ラーナが近づいて脈を診る。
「死んでいます」
「死んではおらぬ……」
シローが息を吹き返した。
「口にした瞬間、広がる土の風味…芋のねっとりとしたテクスチャ……よくわからない茹で過ぎた肉のモロモロとした触感……香辛料もないのに舌に喉にピリピリとくる刺激……そして芋……」
「おお」
「くくく……まずすぎて失神したわ」
ラーナが親指を立てる。
「成功ですね」
「くくく……なにも成功しておらん……」
ラーナが言葉を続けた。
「呪詛使いは、呪いが発動するまで意識を保っていなければなりません。過労と睡眠不足と戦う職業なんです。だから意識が飛んだのは成功です」
私たちは顔を見合わせる。
呪詛使いのシローは立ち上がる。
「貴重な体験をした。また会おう……」
去っていった。