64日目
「ということで、目玉商品の提案を始めさせていただきます」
今日はラーナに任せた。
用意されたデザイン画はラーナの格好そのままだった。私たちは自棄だった。
「上品でかわいらしいプロポーション。小物入れは魔法で拡張できるので収納も豊富です」
グルデは黙って聞いている。
「素材は丈夫な闘牛の毛皮でできているので過酷な冒険にも耐えられます。以上です」
私たちはグルデの顔色を窺った。
グルデは唸った。
「素晴らしい……」
涙を流している。
「実用性と愛らしさの両立。すべての女性冒険者のあこがれとなるでしょう」
「ありがとうございます。ただ一つ問題がありまして」
ラーナは一礼したあと、言葉を続けた。
「同じものが大量に、パヴァ王国の露店で売っています」
「アアアアーッ」
グルデが発狂した。
「良いものは既に作られている、良いものは既に作られている、アアアアーッ」
「ラーナ! なぜとどめを刺した!」
「つまらなかったので」
暴れるグルデを総がかりで止めた。
「私には才能がない……」
グルデは落ち込んでいた。
「何を作っても良いと思えない。いつからか他人のデザインの粗を指摘することだけが楽しみになっていました」
「それでなぜ女性冒険者の服を作ろうと思った」
「チョロ…イケると思ったんです」
「殴って良いか?」
タンクに止められる。
ラーナが隣に座った。
「原点に立ち返ったほうがいいんでしょうね。グルデさんの原点に」
「私の原点……」
「そうです。裁縫を始めた原点はなんだったんですか」
グルデは立ち上がった。
「ありがとうございます。目が覚めました、みなさん!」
ラーナの手を握る。
「あいつらよりいいものを作ってやる、その一心でここで再スタートします!」
粗探しのほうが原点だったらしい。
のちに、グルデの工房は補修と改良の店として繁盛していく。それはまた、別の話。
「もう行っていいか?」
「あっはい、ありがとうございました」
工房をあとにした。
――バスト・エルゼンが国を滅ぼすまで、あと36日……