53日目
今日は長老の家へ挨拶に行った。
「よく、来られた、旅の、者よ」
ヒュドラの血を引く複数の頭が同時に下がる。
「お困り、ごとも、なんなりと」
「路銀を稼げる場所があれば助かる」
「でしたら、掲示板に、仕事の募集が、あるでしょう」
「ありがたい」
タンクの母は暗い顔で夕食の準備をしている。
「おいタンク、気まずいんだが」
「言ってなかったんですか。性別が変わったこと」
「誤解がないように伝えるの難しいだろ。定期的に伝報は送ってた」
限られた文字数となると「女になった」も違った意味に捉えられるかも知れぬ。
私はタンクに同情しつつ、水を一口含む。
「他に家族は居らんのか」
「弟と妹が十人、全員成人してる」
「ただいま母ちゃん、今日職場でさぁ~……」
男が入って来た。
「よ、よお」
タンクが片頬を引きつらせ、手を上げる。
「ハンプ、手洗って来な」
「……うーい」
ハンプと呼ばれた彼は表の水道へ向かった。
姿が見えなくなってから、私たちは話を再開する。
「無視されたぞこいつ、無視されたぞ」
「どれだけ家族仲悪いんですか」
「うるせえな。ハンプだけだよ」
無理にでも茶化して暗い空気を散らそうとしていた。
伝報は、伝達報告魔法の略です。