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52日目
「ちょっと寄りたい所があるんだが、いいか」
タンクが珍しく自ら提案した。
「そういえば近いんだったな」
「ああ」
「なにがですか。トイレですか?」
「そうじゃなくて」
タンクは複雑な表情で、息を吐く。
「実家だよ」
今は国際法によって禁じられているが、魔物との同一視で滅ぼされた種族は少なくない。
かつて流布されていた『標準人体』を説く手引き書。それに照らせば純血種である私すら魔物になってしまうのだからその地獄は推して知るべし。
ハーフオークであるタンクにとって、生まれ故郷よりも大事な場所がマユの街だった。
「いつ来ても百鬼夜行という様相だな」
「差別的です」
口を塞ぐ。
冒険者歴が長いと騎士らしい言葉遣いを忘れてしまうので困る。
「宿を取ってくる。少し待っていてくれ」
「タンク!」
ハーフオークの女性が駆け寄って来た。
「母ちゃん」
「あんた、ずっと家に顔も見せないで……」
タンクの母親は彼に飛びつき、その頬を擦る内に、気付く。
「あ、あんた」
タンクは視線を宙に漂わせた。
「すまん、そういうことだ」
泊めてもらうことになった。