31日目
「つらい……」
「重いほうなんですね」
「死ぬかも……」
「死なれたら、自分としては監視を終えられるので助かりますが」
「薄情者……」
ロバ竜に乗せてもらった。
鱗に腹を押し付けたらいくらか痛みが和らいだため、薬草を嚙みながら四肢をぶら下げる。
「『月止めの魔法』の存在は知ってるが、どれほど効くんだ」
「血止め以外にも各種婦人病の予防が可能です。親から子に買い与える例もあって、パヴァティでは本来の月経を知らない人が女性人口の七割を超えるほどでした」
「そ、そうか」
「効果てき面。発明されて以来不動のロングセラーです。特に冒険者にとっては死活問題ですから」
「だろうな」
タンクがこちらを振り返ったのが気配でわかる。
「あまり酷いならお医者さんに診てもらったほうが」
「医者は怖い……死んでも行かぬ……」
「エルゼンは昔から医者嫌いなんだよ」
「よく今日まで生きてこられましたね」
怒る元気すらない。
「タンクさんは診てもらってくださいね。女性になったばかりなんですから。不安なら付き添ってさしあげますので」
「あ、ああ、よろしく頼む。……あれは」
硫黄の匂いがした。
過敏になった鼻のせいかと思ったが、どうも違うらしい。
「温泉ですね」
湯に痛みがほどけていくようだった。
「丸一日浸かっていたい……」
「のぼせますよ」
自然温泉にはちょうどキャラバンも停泊していた。
老婆が話しかけて来る。
「お前さん方、どこへ向かってるんだい」
「生まれながらの騎士たる私にふさわしい国を探しておる」
「目的地はありません。ひとまずホテップを目指しています」
ラーナが落ちた髪をまとめ上げながら、私の言葉を要約した。
「ホテップか……ああ、いや、あの街は三日前に焼けちまったんだよ」
「魔王の現出ですか」
「そんな大げさなもんじゃない。魔物だよ」