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6話  虐待を受ける少女とゾンビのような少年の話 2

「ちょっと、こんな時間に何してるのよ。」


 ベンチに座る私の前に現れたアッシュに、戸惑いながら話しかける。


 昼なら怖くないけれどいちおう相手は男の子だし、夜に一対一なのは少し怖い。


「……」


 アッシュは私の声を無視して、隣のベンチに座った。


 そして、目をつぶると静かに呼吸をし始めた。


(もしかして寝ようとしてる?)


「ちょっと!無視しないでよ!」


 突然やってきて、私を無視して寝ようとしているアッシュに先ほどよりも大きな声で話しかける。


「ん、なに?」


 アッシュが目を開いてこちらに顔を向ける。私から声を掛けられたのが意外だったみたいだ。


「なにって、隣に私がいるんだから無視しないでよ。」


「……そう。」


 気のない返事だ。


「そうだよ。夜中に何してるの。」


 単純な疑問もあるけれど、私に何かしようとしていないだろうか。


 アッシュは気のない顔のままで、気だるげに口を開いた。


「僕?これから寝ようとしてるんだけど。」


「こんなところで?」


「うん。」


 アッシュの言い方からすると、アッシュは頻繁にベンチで寝ているようだ。


 アッシュが一人でよく寝ているくらいなら、私が寝てもあまり危なくないのかもしれない。


「いつもここで寝てるの?」


「いつもじゃないけど、よく来てるよ。」


「ふぅん、こんなところでよく寝れるね。」


(やっちゃった。)


 何も考えずに嫌味を言ってしまった。こんなときまでアッシュに嫌な態度をとらなくてもよかったのに。


 言ってしまってから少し後悔する。


「そう。」


 アッシュはそれだけ言った。怒ってしまっただろうか。けれど、今の私には話をするくらいしかすることがないし、構わず話を続けることにする。


「アッシュは一人で怖くないの?」


「うん。慣れてるから。」


「なんで外で寝てるの?」


「孤児院で寝るより外で寝る方が楽だからね。」


「そっか。」


(孤児院って居心地悪いのかな。)


 アッシュが孤児で、孤児院で暮らしているということは知っていたけれど、そこでの暮らしがどうなのかはよく知らない。


 気になったので質問をしようとすると、アッシュがベンチから立ち上がった。


「僕は別のところに行くよ。」


 そう言ってここから離れて行こうとする。


「ちょ、ちょっと待ってよ!」


 私が慌てて立ち上がりアッシュを引き留めると、アッシュは嫌そうな顔を向けた。


「僕は一人で寝たいんだけど。」


「だからって女の子を一人にするつもりなの!?」


「えぇ?」


 アッシュが困惑した様子をみせる。私が引き留めようとしたのが意外だったようだ。


 アッシュにとって意外でも、私にとっては怖い中でせっかく見つけた知り合いなのだ。無理やりだろうが引き留めないといけない。


「女の子には優しくしないといけないんだよ!」


「……そう。」


 アッシュは少し時間を置いてそう言うと、納得したのか再びベンチに座りなおした。


(よし。)


 これで一人に戻るのは防げた。


「……」


「……」


 無言の時間が続く。


 正直なところ、一人よりはマシだけれど特に話すことはない。


 どうしようかと思ってアッシュのほうを見ると、アッシュはまた目をつぶって眠ろうとしていた。


 私を置いて寝ようとしないでほしい。


「ねぇ。」


「……なに?」


「孤児院って、あんまりよくないの?」


「さぁ、ふつうじゃない?」


「じゃあ何で孤児院だと寝にくいの?」


「こどもが多くてうるさいからね。」


「ふぅん。」


「……」


「……」


 すぐに会話が終わってしまった。アッシュは自分のことを話す気がないらしい。


「ねぇ、私だけじゃなくて、そっちからも話を振ってよ。」


「そんなこと言われても、どうすればいいの?」


 困った様子でアッシュが聞き返してくる。普段人と話すことなさそうだし、ほんとうに何も思い浮かばないのかもしれない。


「なんでもいいから、なにかあるでしょ。」


「う~ん。じゃあ、君はこんなところで何してるの?」


 その一言だけで私の怒りが燃え上がった。こいつ私の名前を覚えてないな。


「君って誰よ!」


「えぇ?君は君だけど。」


「私は君なんて名前じゃないです~。」


「そんなこと言われても、名前知らないし。」


 私の名前を知らないことが当然というようにアッシュが口答えをする。


 なんで私の方が名前を知っているのに、アッシュの方は私の名前を知らないのか。気に入らない。


「なんで知らないの。何回か会ってるでしょ?」


「そうなの?何かしてたっけ?」


「うっ。」


 アッシュに言われて言葉に詰まる。そういえば、アッシュと会ってるときは他の子と一緒にいじめたことしかないかもしれない。


 この場でそんなことを言ったら、絶対に怒るだろう。


「私の名前はアンリ。パステル・アンリ。わかった?」


「え、うん。」


 とりあえず自分の名前を伝えて話題を反らすことにする。


 アッシュの方も追及する気はないようだ。そして、アッシュが改めて質問をする。


「じゃあ、アンリは何をしてるの?」


「私は、家出してきたの。」


「そう。」


「……もっと聞いてよ。」


「なんで家出したの?」


「お父さんに殴られたの。」


「なんで殴られたの?」


「知らない。理由がなくてもいつも殴られるの。」


「そっか、それで家出してここまで来たんだ。」


「うん。」


「大変なんだね。けど、今日はおとなしく寝ちゃった方がいいと思う。」


 アッシュが何ということもないように言う。まぁ、アッシュにはそもそもお父さんがいないし、感覚がわからないのかもしれない。けれど、言われて簡単に眠れるなら苦労しない。


「こんなところで寝たことないし、そんな簡単に寝れるわけないよ。」


「眠れないなら眠らせてあげようか。」


「……え?」


 なにか、変なことを言われた気がする。

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