エリーはアッシュに追いつき、自分の不甲斐なさをぶつけるか
「……?なんだ?」
ビズリーからフォートまで続いている街道を歩いている最中、アッシュは妙な気配に気づき足をとめた。
そしてアッシュは妙な気配を感じた背後の道に目をこらした。
道はまっすぐではなく曲がっている部分があるため、遠くまで見通すことはできない。
だが、アッシュはすぐに妙な気配の正体に気づいた。それは1人の人間だった。
「まちなさーーーい!!」
大きな声を上げて、怒っているような気配を漂わせながら猛烈な勢いで走ってきている。
(あれはさっき助けてやった、エリーだったか。)
アッシュは自分を目掛けて走ってきている人が、先ほど魔物から助けてあげたエリーということに気づいた。
そして、次にアッシュに浮かんだのは疑問だった。
(なんで俺のところに走ってきてるんだ?無差別か?俺を狙ってきてるのか?)
アッシュはエリー達を助ける際に証拠などを全く残しておらず、エリーが自分を追いかけてきたことがアッシュを認識してのことなのか、道にいた人なら誰でも対象だったのかがわからなかった。
また、エリーはこちらを咎めるような声を出した上に、怒りの形相をしているが、命を助けた上に所持品を盗んだりもしていないアッシュに対して怒っていることも不可解だった。
(どうする?眠らせるか?)
アッシュは危険を避けるためにエリーに催眠魔法をかけるべきか悩む。
しかしながら、アッシュは即座にその選択肢を取り消す。それは、エリーがこちらを明確に認識してしまっていることに問題があった。
アッシュにとって、相手が敵なら眠らせて処分すれば片が付くし、敵でないなら眠らせる必要はない。
また、山道を歩いているときは周囲に魔法を使っているので、自分の存在に気づかれることもない。
だが、敵と判断しきれない相手が意図的にこちらに向かってきたときは対応に困るのだ。
一時しのぎで相手を眠らせても再び向かってくるだけだろうし、下手に魔法を使って自分の魔法に関する情報を渡してしまうのは避けたい。
あまり経験のない事態に、アッシュは対応を決めかねていた。
そして、その合間にエリーはアッシュの前に辿り着いていた。
「まちなさい!あなたですね!」
ズザザと、地面をえぐるようなブレーキをかけてエリーはアッシュの前で立ち止まり、その勢いをぶつけるかのようにアッシュに声を発する。
「……えっと、なにが?」
こちらを睨みつけるエリーに対して、アッシュはよくわからないといった声をあげた。
エリーの言葉は断片的すぎたため、アッシュが助けたことを言っているのか、それとも別の何かについて語っているのか不明であった。
このため、アッシュはとりあえず相手の続きの言葉を待つことにしたのだった。もちろん、助けたことについて話をしているのだとしても知らないフリをするつもりだったが。
「なにが、ですって?それは、あなたが魔物を倒したことに決まってます!」
エリーは腕組みをしながら言い放つ。
それに対してアッシュは、「そう。」と一言返すだけだった。
このときアッシュは、(こちらの言い分を聞かずに決めつけてくる人は苦手なんだよな。)と若干うんざりしていた。
「ごめんだけど、何を言ってるのかよくわからないな。」
相手が決めつけようとしていても、こちらが付き合う必要はない。アッシュは白を切ることを決めていた。
だが、エリーはアッシュが魔物を倒した人間ということに確信を持っているようだった。
エリーは少し得意げな顔をすると、犯人を追い詰めた探偵のように人差し指でアッシュを指した。
「ふん。あなた、アッシュさんでしたか。あなたは強い臭いのする物を持っているでしょう?」
「ふぅん?」
アッシュは何ともいえない返事をする。
だが、無表情を装いながらアッシュは少し驚いていた。なぜならアッシュは、眠っているエリー達が魔物に襲われないように強い臭いのする薬を使っていたからだった。
とはいえ、薬はビンの中に入っている。少なくとも蓋を閉めている状態で臭いを感じたことはないし、臭いが外に漏れているはずはない。
(そもそも臭いのする薬を持っていたとして、それがなんだというのか。)
「まぁ、荷物はいろいろ持ってるし、臭いのするモノもあると思うけどね。」
アッシュは無難な返答をした。
その返答にエリーはイラついたような素振りを見せる。そして、
「ふん、私を舐めないでください。私は魔力で嗅覚を高めて、犬よりも鼻がきくようになっているんです。そしてあなたの体にしっかり染み付いているんですよ。私たちの周辺に撒かれていたのと同じ薬の匂いが。」
と、改めてアッシュに指を指して、「これが証拠だ。」とばかりに言い放ったのだった。
「……そう。」
アッシュは即座に返事をせず、少し間を開けて声を出した。表情を変えないように努めていたが、アッシュは内心衝撃を受けていた。
(臭いが俺に付いてるだって!?そんな事は感じたこともない。まさか、臭いなんて目にも見えないモノで追ってくる人間がいるなんて。今まで誰一人として俺に辿り着く人間なんていなかったのに。)
ここに至って、アッシュはエリーの能力を完全に認めていた。
エリーは自身で語ったとおりに嗅覚が優れており、薬のニオイを辿って明確に、アッシュを見つけたのだろう。
そして、アッシュはエリーに対して危険性を感じていた。
(俺は姿を見せずに催眠魔法を使うことであらゆる相手からアドバンテージをとってきたのに、臭いで追われるということは、俺の今までのやり方が壊されるかもしれないということじゃないか?)
(どうする?今のうちに消すべきか?……いや、まずは敵かどうかを確認するべきか。)
アッシュはとぼけた対応をするのをやめ、エリーの目をまっすぐに見つめた。
「一つ聞きたいんだけど、俺が魔物を倒した人間だとしてどうするの?魔物が倒されたなら、それで君は助かったんじゃないか?」
そう、アッシュが魔物を倒したことは事実であるし、エリーはそれを追い詰めた状況ではある。しかしながら、エリーが魔物を倒したアッシュに感謝をするならまだしも、睨みつけられる理由は不明であった。
アッシュの言葉に対して、エリーは何も言わずに数歩あるいてアッシュの至近距離まで近づいた。
そして、エリーを見つめるアッシュを睨み返すように見上げる。
「私は大丈夫だったんですよ。」
「は?」
エリーの意図のわからない発言に、アッシュは思わず声を出した。
「私は一人で対応できたんです。男の人を助けるのだって、魔物を倒すことだってできたはずなんですよ。」
エリーが熱のこもった声で話すが、アッシュには意味がわからない。
「なんの話をしてるんだ?」
アッシュが疑問を投げかけると、エリーは我慢の限界という様子で声を荒げた。
「だからっ!あなたが助けなかったとしても、私は魔物を倒せてたはずなんです!」
「そもそも、あれは人を守りながら戦わないといけなかった難しい状況でしたし、魔物も普通の魔物じゃなかったですし。それでも魔物を倒す寸前だったんです。けど、卑怯なことに後から来た魔物に不意打ちをされて。でも、ピンチだったかもしれないですけど、それでも私なら対応できたはずなんです。」
「はぁ、はぁ」と息を荒げて語るエリーを見ながら、アッシュは呆気にとられていた。
(つまり、こいつは言い訳をしているのか?魔物を倒せたとかいう、よくわからない言い訳を俺に言い張るために俺を追ってきたのか?)
まるで子供じみた行動である。
アッシュは先ほどまで、今まで辿り着けられたことのない自身の存在を知られたことに驚いていたが、それがアッシュに言い訳を並べ立てるために行われたということを悟り、その程度の理由で自分を見つけられてしまったことに強い脱力感を感じたのだった。
読んでいただきありがとうございます。
4月から忙しくなるのであまり書けなくなるかもしれませんが、よろしくお願いします。




