アンダー ブラックアウト
ザンッ
魔物の腕に鋭利な切れ込みが入る。
魔物に突進するように進んだエリーは、魔物の腕を撫でるように切りつけながら魔物の横を走り抜けていった。
それは、危険を避けながら魔物の硬さを図るためだった。
(よし、切れる。)
そして、見事に魔物の腕に傷をつけることに成功したエリーは剣を握る手に力を込めた。
(今度は走り抜けずに強く切る。)
そう意気込むと、エリーは再び魔物に飛び掛かる姿勢をとる。
だが、魔物の様子に違和感を覚えたエリーは突撃することを躊躇した。
(痛みを感じていないの?それに血も流れてない?)
魔物は腕を切られたにも関わらず、切られた腕を抑えるわけでもなく、痛みを感じている様子がまったくなかった。
さらに、傷口からは血が流れることなく、そのかわりに体や腕を構築している砂のようなものがザラザラと流れ落ちていた。
それは、砂で作った人形を崩した時に砂がこぼれていくようだった。
魔物の異様な様子に迷いを見せるエリーだったが、魔物は見えているのかわからない窪んだ目を向けてエリーに近づいてくる。
(迷っちゃだめだ。)
魔物の足音に、迷っていたエリーは意識を切り替える。
そして、腕を切ったときと同じようにエリーは魔物の近くを通り抜けるようにしながら、今度は魔物の足を切った。
当初は力を込めて切り付ける予定だったが、異様な魔物の様子からエリーは至近距離で魔物と戦うことに危険を感じていた。
ザシュッ
腕と同じように足からも砂のようなものがザラザラと流れ落ちていく。そして、魔物は変わらずに痛みを感じている様子はない。
(まったく気味が悪い。けど。)
魔物は痛みを感じていないようだが、それでも体が損壊した影響はあるらしい。
足が傷ついて体重を支えづらくなったのか体が傾いている。
そして、魔物は肩に担いだ男性が負担になったのか、担いだ腕を下ろしながら男性を地面に滑り落としたのだった。
男性の体が地面に落ちると、衝撃でどすんと鈍い音がする。
「ううっ!」
男は衝撃で背を反らせるようにすると、むせたようなうめき声を上げた。
しかしそれによって男は意識が戻ったのか、男は地面の上で背を反らせるような姿勢のまま、周りをたしかめるように視線を巡らした。
「げほっ。げほっ。な、なんだ。どこだここは!?」
そばにいる魔物にまだ気づいていないのか、咳をしながら言葉を吐き出す男性に対してエリーは慌てて声を上げた。
「落ち着いてください!早くその魔物から離れてください。」
「ええ?何が!?」
エリーの声に驚いた男はエリーの方を向く。男はまだ自分のすぐそばに魔物がいることに気づいていない。
だが、エリーのただならない様子につられるように目線を上げると、頭の窪んだ魔物が男をじっと見下ろしていることに気づく。
生物感のない窪みに見つめられて、男は悲鳴を上げた。
「ひいいいいい!」
男は腰が抜けているのか、仰向けの体制のまま腕を地面に突っ張るようにしてずりずりと地面を動いて魔物から逃げようとする。
そして、逃げる男を捕らえるために魔物が男に腕を伸ばした。
「ひいいいい。」
男の動きは魔物と比べてかなり遅い。男の体はすぐに魔物に捕まえられてしまいそうだった。しかし、
「させないっ!!」
パンッ、と破裂するような音がなり、男に伸ばされた魔物の腕が弾かれる。エリーは魔物が男を捕らえる前に男と魔物の間に割り込み、魔物の腕を蹴り上げていた。
「私が護ります。あなたは早く逃げてください。」
エリーは背にした男に強い口調で言う。男も必死な様子で、
「た、助けてくれ!頼む。」
と言いながら腕を必死に動かすが、どうしてもその速度は遅い。
(この場でこの魔物を倒す。私ならできる。)
エリーは魔物から距離をとって戦いたいと考えていたが、男に危険がある以上、至近距離で立ち向かうしかないと判断していた。
そして、今までの状況からこの魔物は異様ではあるが、自分に勝てない相手ではないはずと考えていたのだった。
(動きは早くないし腕も足も切れたんだ。問題はない。)
それはエリーの客観的な情報の分析結果でもあったし、平静を保とうとする思考回路の動きであったのかもしれない。
「来いっ!!!」
自分を鼓舞するように魔物に吠える。そしてエリーは魔物を剣で切り抜けるのではなく、体を断ち切るために全身のに魔力を漲らせた。
「……」
対する魔物はそんなエリーの様子を窺うようにじっとエリーを見つめていた。
そして、魔物はエリーを上から押しつぶすかのように足を伸ばすと同時に両腕を大きく上空へ伸ばした。
(来るか!?)
エリーは覆いかぶさって来るであろう魔物を迎撃するために剣を上段に構える。そして、覆いかぶさって来た魔物の腕か胴体を一撃で断ち切るつもりであった。だが、
ガツン
(……!?)
エリーは突然、後頭部に受けた衝撃に思考が飛んでいた。その衝撃は強く、まるで鉄の球で頭を殴られたようであった。
(な……なにが、起きたの?)
エリーは考えのまとまらない思考を働かせようとし、衝撃のあった背後に目を向けようとした。しかし、エリーの注意が途切れたとき、エリーの前にいる魔物はエリーに向けて両腕を振り下ろしていた。
ドゴン
「ぐぇっ。」
頭上から腕を叩きつけられたエリーの体は押しつぶされるように地面に叩きつけられた。
そして、連続で頭に衝撃を受けたエリーは思考を巡らせる間もなく気絶したのだった。
「う、うわあああああ!!」
エリーが倒れたのを見て男が叫び声を上げる。
エリーが倒れた今、男がまた捕まるのも時間の問題だろう。それを察した男にできるのは叫び声を上げることだけだった。だが、
ゴスッ
「がっ……」
男もまた、どこからか頭を殴られたような衝撃を受け、男は顔を恐怖に引きつらせたまま気絶させらる。
「……」
エリーと対峙していた魔物は動くことなく立ち止まり。そして、その場に足音が近づいてきた。
「……」
声を発することもなく魔物の前に現れたのは、もう一体の新たな魔物だった。
その体は大きな球体をつなぎ合わせて作ったような体をしており、この魔物も頭の目や口の部分がへこんでいる。
エリーと対峙していた魔物が円筒形の積み木を重ねたような体をしているのに比べると、新たな魔物はビー玉かボーリングの球を重ねたような体をしていた。
不思議なことに、その魔物は右手の球体の数の方が多く、左の球体の数が2節ほど少なくなっているようだった。
これはエリーにはわからない事だったが、魔物が物を投げるように自分の腕の一部を切り離してエリーに投げつけたためだった。
そして、2体の魔物は無言のまま顔を向き合わせると、示し合わせたように、円筒型の魔物はエリーのそばへ、球体の魔物は男のそばへ近寄っていく。
どうやら魔物達はそれぞれ1人ずつ人を運ぼうとしているようだった。
しかしながら、その行動は不意に止まることになる。
「「……?」」
魔物達は足を動かそうとしていたはずだが、その足はいつのまにか膝をついていた。魔物は2体とも頭を殴られたわけでもなく、傷を付けられたわけでもなかった。
それにもかかわらず、膝が地面に着いたことを感じることもなく魔物の意識は一瞬で消失し、魔物は体を地面に投げ出していた。
後には2人の人間と、2体の魔物が倒れている異様な光景が残されていた。




