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ドルペリの依頼とアッシュの考えについて

「私が?フォートのカバランさんのところへ?」


「ああ、何か用があるらしくてね。それも他のハンターと一緒に聞いてほしいそうなんだ。」


 アッシュとドルペリは集会所にあるドルペリの部屋で、互いに革張りのイスに腰を掛けていた。


 そこでアッシュはドルペリから、フォートでハンター組織の長をしているカバランに会ってほしいと頼まれていたのだった。


「いったい何の用があるのでしょうか?」


 それはアッシュの素直な疑問であった。


 アッシュは荷物の運搬業をしており、基本的に今いるビズリーとフォートの間で仕事をしていた。そして、荷物はハンターのいる集会所でまとめられているため、アッシュは自然と集会所へ行く機会が多かった。


 しかしながら、大きな街でないとはいえ、ビズリーのドルペリもフォートのカバランも、ハンター組織の長を務めている人物であり、ハンターではないアッシュが出会うことはほぼない人物であった。


(個人的な用件や他のハンターと一緒に聞かされるような用件はないはずだが。)


 訝し気にドルペリを見つめるアッシュに対して、ドルペリはやけにすまなそうな声色でアッシュにこたえる。


「いや、すまない。私も何の用があるのか教えてもらえなくてね、カバランに直接聞いてほしいんだよ。いやいや、困ったものなんだがね。」


 ドルペリはポケットから取り出した質のよさそうなハンカチで顔を拭きながら、苦笑いを浮かべてアッシュを見つめる。


 その様子は、自分はあくまでも伝言を伝えるだけで無関係の人間であり、言いたい事は全てカバランに向けてくれと言っているようだった。


 実際、これ以上ドルペリに質問をしても得るものはないように思える。


 アッシュはそう判断すると、少し間をおいて首を縦にふった。


「わかりました。フォートに着いたらカバランさんのところへ行きましょう。」


「おお!行ってくれるか。」


 ドルペリが意外そうな顔をする。だが、アッシュからすると意外そうな顔をされるのはむしろ心外であった。


(そんなに嫌そうに見えているのだろうか。この街で何か仕事を拒否したことはないはずだけれど。)


 アッシュは自分のことを、許容できる範囲はあるし面倒ごとは拒否するが、他人の要望に応えている人間だと考えていた。


 これは、アッシュが個人で運搬業をする上で、街の人や同じく運搬業を行っているハンター達と友好的な関係を築こうと考えていたからだった。


 そして残念ながら、アッシュの脳内での友好的態度は街の人へ通じていないようだった。


「いやいや、助かるよ。ありがとうアッシュ君。」


 ドルペリから確認するように話かけられて、アッシュは複雑な心境はさておきドルペリに再度頷いた。


「ええ。詳しいことはカバランさんに聞こうと思いますので。」


 そう言ってアッシュが席と立つと、ドルペリは「とっておいてくれ。」と言って数枚のコインを差し出してきた。


 チップ代なのだろう。アッシュとしては人と会う程度のことにチップをもらうつもりはなかったが、わざわざ断ることもないと考えて素直にチップを受け取り、「それでは失礼。」と言って部屋を出ていったのだった。


 アッシュを笑顔で見送ったドルペリは、アッシュの足音が遠のいていくのを確認すると、顔を拭いていたハンカチを机に放り投げ、引き出しからタバコを取り出して火を点けた。


(意外だったがあいつは了承してくれたし、何事も起こらないといいが。……どうにもな。うちの実力者のバルサと外野のアッシュをつかってカバランが何をするつもりなのか。場合によっては俺の方から話を聞きにいかなければいけないかもしれん。)


 面倒事の気配に顔をしかめたドルペリは、「ふぅ。」とため息まじりにタバコの煙を吐き出した。


 吐き出された濃く白い煙は、空中を絵の具で汚すように広がっていく。その煙の様子は、ドルペリが不明確に感じている不吉な予感を表しているかのようだった。




 一方、準備を整えたアッシュは荷物を抱えて山道に入っていたが、不吉とまではいかなくとも、嫌な気配を感じているのはアッシュも同様だった。


(なにかフォートでヘマでもしたか?そんな記憶はないが。)


 ドルペリはカバランから何か用事があると言っていたが、アッシュはその内容は苦情だろうと考えていた。


 アッシュは今ではハンターを含めて街の人と揉めることなく過ごしているが、初めのころはそれなりに揉め事があったのだ。


 さすがに過去の諍いを持ち出すことはないと思うが、自分と付き合いもない地位の高い人間が何の用件があるのかといったら、文句を言われることしか思い浮かばない。


(他のハンターが一緒に立ち会うと言ってたし、こちらを囲むつもりかもしれないか?)


 アッシュは一般的な大人と同じ程度の力しか持っておらず、ハンターと力比べをしても勝てる可能性はない。


 だが、アッシュは催眠魔法を使うことができるため、たとえ何人に囲まれようとも全員を眠らせてしまえば、人数は問題にならないはずだ。


(先手を取られることにだけ気を付ければ問題ないだろうか。)


 アッシュは催眠魔法を使えば、誰が相手でも瞬時に無力化できると考えていたが、そんなアッシュが警戒しているのは戦いで先手をとられることだった。


 背後から頭を殴打されるなど、自分が認識できないところから攻撃されるとアッシュは防ぎようがない。


 催眠魔法で反撃できればいいが、最初の一撃が致命傷だったら反撃することもできないだろう。


 だからこそ、アッシュは山道を歩くときなどは常に周囲に催眠魔法を使っており、周囲のものを眠らせて人や魔物と対峙することすらせずに移動しているのだ。


 しかしながら、話し合いをする場だと最初から相手を眠らせるということはできない。このため、アッシュはハンターがそばにいる中で話をするということに警戒心を持っていたのだった。


(まぁ、実際に苦情はあっても暴力沙汰になることはないはず。)


 ハンターは暴力団体ではないし、アッシュとしても無理な要求以外は受けるつもりなので、戦いに発展する要素はないはずだ。


 そうしてアッシュは考えを整理しながら山道を進んでいたが、耳に入って来た音にアッシュの考えは中断されることになる。


 それは間違いなく人間の叫び声だった。

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