変わった依頼のはじまり
「おはようエリー。よく眠れたかい?」
「はいバルサさん。私の調子はばっちりです!」
エリーがビズリーの集会所に着いたとき、エリーの先輩であるバルサはすでに集会所でエリーを待っていた。
外で一夜を明かしたエリーと異なり、バルサは集会所に泊まっていたので時間に余裕があったのかもしれない。
むしろ、バルサはエリーが集会所に泊まらなかったことが不思議な様子だった。
「そういえば、あんた昨日の夜は集会所に来なかったんだね。どうしたんだい?どこかに泊まったのかい?」
「えっとその、あはは。」
バルサの問いかけに対してエリーは頭を掻きながら愛想笑いを浮かべた。
(椅子に座って肩もみをされて、そのまま寝てました。なんてとても言えない。)
バルサは愛想笑いでごまかそうとするエリーを訝し気に見ていたが、問い詰める気はないようで、「変なことはしないようにしなよ。」と言うのみだった。
エリーはバルサが質問を終わらせてくれて助かったと思いながら、話題を変えるためにバルサに質問をした。
「そ、そうだ。今日はビズリーからフォートまで戻るんですよね?すぐ出発しますか?」
もともとバルサとエリーはフォートの人間であり、ビズリーに来たのはエリーの指導のためだった。このため、今日は逆にビズリーからフォートまで戻るという話になっていたはずだ。
エリーとしては、早く仕事を覚えて一人前のハンターになりたいという気持ちがあるので、できることがあるなら一刻も早く取り組みたいと考えていた。だが、
「あぁ、それなんだけどちょっと待ってくれるかい。」
エリーが意気揚々とする一方で、バルサは頭を掻きながらこたえた。
「私も受付で言われたんだけど、なんでもドルペリが用があるとかで待っててほしいらしくてね。ドルペリのことは覚えてるかい?」
「えっと、覚えてます。ビズリーの町長でハンター組織の組長も兼任してる方ですよね。」
エリーの脳裏に昨日集会所で出会った、飾り物を身にまとわせた太った男の姿が浮かぶ。
「ああ。正直、こういう事はめずらしいね。なんの話があるんだか。」
バルサはドルペリが出てくるであろう、集会所の通路の奥にある扉に目を向けて言った。
「そうなんですね、バルサさんに用事があるんでしょうか?」
バルサに合わせてエリーも扉へ目を向ける。扉が開かれたのはそれから1分もしないころだった。
扉の先からドタドタと重量感のある足音が聞こえてきたと思うと、バタンと音を立てながらドルペリが姿を現した。
「おお。来たかバルサ。エリーちゃんもおはよう。」
ドルペリはすぐにバルサとエリーを見つけると、2人の前で挨拶をする。それにつられてエリーも「おはようございます。」と返事を返したが、バルサは目を細めてドルペリを見つめていた。
「来たかじゃないよ。一体何の用だい?」
バルサが単刀直入に尋ねると、ドルペリは少し困ったような顔をしながら口を開いた。
「いや、昨日カバランから連絡があってな。フォートに着いたらカバランの所に顔を出してほしいそうだ。」
「カバランが?今からフォートに帰るのに、なんでフォートにいるカバランがそんな依頼をしてるのさ?」
バルサはよくわからないという様子だ。そして、ドルペリの話に疑問を感じたのはエリーも同様だった。
というのも、カバランというのはフォートにおけるハンター組織の長なのだ。(フォートとビズリーは共同でハンター組織を運営しているが、どちらの街でもそれぞれの長を立てている。)
バルサとエリーがフォートに着いたら、当然フォートの集会所に行くだろうし、ハンター組織の組長ならその時に自分のところに来るように伝えれば十分のはずだ。
「それは俺にはわからんよ。お前が突然予定を変えて、魔物を狩りに行こうとしないか不安なんじゃないか?」
ドルペリのからかうような言いぶりに、バルサは不服そうな顔で「ふん。」と声を発した。だが、ドルペリの次の言葉はバルサをさらに困惑させた。
「あともう一つ依頼の内容があって。これはここでもいいし、フォートに着いてからでもいいんだが、ホルダー・アッシュと合流してほしいそうだ。」
「はぁ?アッシュと合流?一体どういうことなんだい。」
バルサが質問というよりも、問い詰めるような調子でドルペリに詰めよる。
エリーもまた、口に出すことはなかったが昨日出会ったアッシュの名前が出てきたことに驚いていた。
「知らんよ。全部カバランにきいてくれ。」
詰め寄るバルサに対して、ドルペリは投げやりな返事をする。そして、あまりにも投げやりすぎたと思ったのか、少し身だしなみを整えるような仕草をすると言葉を付け加えた。
「カバランが昨日の夜に遣いを寄越して、今日依頼をしてくれと言ってきたくらいなんだ。事情があるんだろう。」
「……はあ~。」
バルサは腕組をすると、強く目をつむっていたが、しばらくしてから長い息を吐いた。
「しかたない。カバランに聞くしかなさそうだね。だけど、ここでアッシュを待つことはしないよ。私たちは先に出るから、アッシュにはそっちの方で言っとくんだね。」
「ああ。それは俺のほうでやるよ。」
バルサの言葉にドルペリが頷く。
「ふん。行くよエリー。」
「は、はい。ドルペリさん、失礼します。」
バルサは腕組を解くと颯爽と集会所の外へ歩き出した。エリーもまた、ドルペリに礼をしてバルサの後を追いかけてゆく。
「ふぅ。事情を知りたいのは俺のほうだっていうのに。」
2人を見送ってから、ドルペリは愚痴るように言った。実際、ドルペリはこの依頼の意図を知らないのだ。それについて不満を言われても困る。
それに加えて、ドルペリはもう1人への依頼について悩んでいた。
「バルサは動いてくれたが、はたしてアッシュの方はどうなるか。」
ドルペリはアッシュと何度か会っているし、会話もしている。その際にドルペリがアッシュに異常を感じたことはなかった。
仕事もまじめにこなしているようだし、犯罪に加担しているという情報を聞いたこともない。この点について、ドルペリはアッシュに好感を持っていた。
しかしながら、ドルペリはアッシュに対する警戒心を解く気にはなれなかった。
(悪人ではなさそうだが、扱いを誤ると危険な気がするんだよな。そういう人間がカバランの望みなのかもしれないが。)
「まったく、カバランのところでやってる分には気にしないというのに。」
ドルペリはため息をつくと、受付にアッシュが来たら報告するように伝えて自室へ戻っていった。
そして、アッシュが集会所へやって来たのはそれからほどなくしてのことだった。




