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第9話 婚約破棄の翌日 フィリップ視点

今日も読みに来て頂き、ありがとうございます!


ブクマ・評価も徐々に増えてきていて、とても嬉しいです♪


皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)

「何故こんな勝手なことをしたんだ、フィリップ!?」


「真実の愛で結ばれる私とエミリーを皆の前で見せることで皆から祝福されたかったんだ!」


「お前の誕生日パーティーということで、国内の有力貴族は言わずもがな、我が国と付き合いのある国の王族や外交官など国内国外問わず非常に多くのお客様を招待していたのだ。そんな彼らの前で、王太子たるお前がシルヴィア嬢に婚約破棄を突き付けて、その後釜に男爵令嬢を据えるなどという宣言をしたらどうなると思うか?」


「真実の愛で結ばれた王太子は流石という話になるんじゃないか?」


「この大馬鹿者!! 公衆の面前で婚約破棄なんて感性がまともな人間ならやらない! お前の馬鹿さ加減が国内国外問わず広まったということだ!」



 思い描いていた展開と違う……。


 ……何故こうなったんだ?



***



 私は昨夜の自分の18歳の誕生日パーティで、婚約者のシルヴィアに婚約破棄を突き付けた。


 そしてそれと同時にエミリーと新たに婚約を結ぶ宣言をした。



 元々シルヴィアのことは気に入らなかった。


 確かに見た目だけは良かったがそれだけだ。


 表情が変わらない人形のような令嬢。


 それが婚約者であるシルヴィアに対する印象だ。



 私が彼女を気に入らなかった理由。


 それは何をやっても軽々と私の上を行って優秀さを見せつけてくるから。


 どうせ王太子である私の婚約者になったのだって、大勢の前で自分の優秀さをひけらかしたいからに決まってる。


 私の婚約者になる為に実家の権力でごり押ししてその座に収まっただけだ。


 まったく忌々しい奴め。



 だからこそレッスンの教師がシルヴィアにはちょっとしたことで叱責して、私はレッスン中に間違ったり失敗しても叱責どころか優しく教えてくれ、レッスンをさぼっても怒られないと知った時は、スカッとした。


 いくらレッスンをさぼっても何も怒られないと知った時、もう真面目にレッスンを受けるのは馬鹿馬鹿しくなり、やめた。


 私は王太子であり、何も私自身が賢くなる必要はないのだ。



 弟のエドワードと妹のエリザベスは真面目に勉強しているみたいだったが、結局王位を継ぐのはこの私だ。


 王位を継げないのにあんなに必死で勉強して何になる?


 心の中で鼻で笑ってやった。 



 私に転機が訪れたのは17歳の頃だった。


 いつものように王宮内を散歩していたら、ある一人のメイドに遭遇した。


「騎士団の事務所に届けろってどこなのよ~! 広すぎてわかんないよお~!!」


 そのメイドは大きな独り言を言いながら半べそで途方に暮れながら歩いていた。



「君、騎士団の事務所に用事があるのか?」


 困っている彼女に声をかけた。


「はい! あたし、ここで働き始めたばっかでまだどこに何があるのかさっぱりわかんなくって……」


「なら私が騎士団の事務所まで付き添おう。君が今いるここは正反対の場所だ」


「ありがとうございますっ!!」


「ついて来てくれ」



 二人で目的地まで歩いている間に雑談した。


 彼女の名前はエミリー・ハーマン男爵令嬢で、この春にハーマン男爵領から単身で王都に出てきて、王宮メイドとして働いているそうだ。


 彼女の説明によると、ハーマン男爵領地は我が国アルスター王国の田舎地方の内の一つで、領地から中々収益が上がらない為、彼女の家の男爵家はかなり貧乏らしい。


 それで彼女は領地にいる家族の為に給金の良い王宮のメイド職に就き、給料は家族に送金するのだそうだ。



 彼女に対してまず思ったのは、天真爛漫にくるくると変わる表情と言葉遣いが新鮮に感じた。


 私の周囲の女性は母上やシルヴィア、妹のエリザベスをはじめ皆一様に表情が変わらず話し方も一歩距離を置いたような話し方だ。


 そして、家族の為に知人のいない王都に一人出稼ぎに来て、給金を家族に送るという優しさと健気さに胸を打たれた。



 彼女から私についても聞かれたので正直に王太子フィリップだと告げた。


 王太子だと告げてもエミリーの態度は変わらずほっとし、シルヴィアには言えないことも彼女には不思議と話せた。 



 無事に目的地である騎士団の事務所に到着し、その日はそこで別れたが、後日、王宮内の別の場所で彼女に会った時に、この前の案内のお礼がしたいと言われ、週末に王都の商業地区に二人で出かけた。


 それからもなんやかんやで彼女との逢瀬を重ね、会う度彼女が好きになる。


 そう時間がかからないうちに私とエミリーは恋人になり、身も心も結ばれた。



 身も心も結ばれたのはいいのだが、私の気持ちはエミリーにあるとは言え、書類上の婚約者はまだシルヴィアだ。


 エミリーに申し訳ないし、何とかしてシルヴィアと婚約破棄して、エミリーと新たに婚約したい。


 どうしたものかと思っていたらエミリーから提案された。


「来月フィリップ様のお誕生日パーティーがあるじゃない? そこでみんなの前で婚約破棄を突き付けたらいいのよ! あたしとフィリップ様の仲を引き裂く悪役令嬢のシルヴィアを退け、あたしとフィリップ様が真実の愛で結ばれたことをみんなに示す絶好の機会よ!」


「そうだな! みんなに真実の愛の証人になってもらおう!」



 こうして意気揚々とシルヴィアに婚約破棄を突き付け、新たにエミリーと婚約すると宣言したのだが、翌日の朝に待っていたのは激怒した父上だった。



***


 パーティーの翌朝、私は父上の執務室に呼び出された。


 私はエミリーとの婚約が正式に決まって書面が用意出来たんだと思って、大喜びで心の中では小躍りしながら父上の呼び出しに馳せ参じた。


 しかし、入室した途端、厳しい表情をした父上と宰相が視界に入る。



 一体何事が起きたんだろう?


 何か父上に叱責されるようなことをした覚えはない。



 そう思っていたら父上から罵声が飛んできた。


 どうやら昨日のパーティーでの婚約破棄とエミリーとの婚約の宣言は父上にとって激怒もののことだったようである。



「過ぎてしまったことは仕方がない。だが、よくも私とレイラが既にシルヴィア嬢との婚約破棄を認め、新たに男爵令嬢と婚約することを認めているなんて言ってくれたな!? そんなことは初めて聞かされたのだが? シルヴィア嬢との婚約は私達の方がローランズ公爵に頼み込んで成立したものだ。それを国内の貴族は殆ど皆知っている。それでなくても貴族の婚約は家と家の契約だ。今回のことで王家はローランズ公爵家との契約を軽んじている印象がついた」


 レイラとは私の母上だ。


 いつだって私を甘やかしてくれる優しい母上だ。



 それより私とシルヴィアの婚約は王家から頼み込んで成立しただと!?


 そんな訳があるものか!


 絶対にあの権力欲の強いシルヴィアが我が儘を言い、それを王家が折れてやって要求を呑む形になったに決まっている!



「だって父上と母上が認めていると言わないとシルヴィアが了承してくれないと思ったんだ! どうせ後で父上と母上には報告することになるから、遅いか早いかだけの違いで大して変わらないはず。父上と母上なら私のやることに反対なんてしないと思っていた! それにシルヴィアと婚約破棄してもローランズ公爵家は私の後ろ盾のままだろう?」


「お前が私達が了承していると言ったおかげで、私達までお前の非常識な言動を容認する国王夫妻と思われたではないか! レイラが昔からお前を甘やかしていることは知っていたが、お前がここまで馬鹿なことをするとは夢にも思っていなかった。事の重大さを考えて罰として無期限で、レイラは北の塔に蟄居(ちっきょ)させることにした」


「母上を北の塔へ!?」


 北の塔は王宮の敷地内の外れにある塔で、問題を起こした王族を幽閉する場所だ。


「そうだ。お前もこれ以上馬鹿なことをするようならお前も北の塔に蟄居させるからな。もうお前を甘やかして、お前を庇うレイラはいない。それを忘れるなよ?」



「私からもよろしいですか、フィリップ殿下」


 ここまで黙っていた宰相が話に入って来た。


「何だ?」


「あなたはシルヴィア嬢と婚約破棄してもローランズ公爵家が殿下の後ろ盾であり続けるなどという妄想をしていらっしゃいますが、それはあり得ませんよ。何の瑕疵もない自分の娘に公衆の面前で婚約破棄を突き付けられて、親は何とも思わないと思われますか?」


「私を支えることは公爵家の名誉では?」


「それは違います。ローランズ公爵家はもう殿下を見限っているはずです。どんなに足掻いてももう殿下の後ろ盾になんてなりませんよ。公衆の面前で婚約破棄なんていう馬鹿げたことをしたせいで、公爵家の後ろ盾と信用をなくした殿下は次期国王に相応しくないという声ももう既に出ています。信用を得るのは時間がかかりますが、失う時は一瞬。殿下が思っている以上に婚約破棄がもたらした影響は大きいのです」


 そんな馬鹿な!


 私は王太子として認められているのだぞ!?


 王太子として認められている私が次期国王に相応しくないなんてふざけているのか!?



「とりあえず今後の方針だが、お前が公衆の面前で婚約破棄を突き付けたことは既に知られている。それ故、軽々しく撤回は出来ない。だからお前が新たに婚約者に望んだ男爵令嬢にはお前の婚約者として相応しい相手になれるよう、王妃教育を受けさせる。そして、その教育のテストで及第点が取れたら、公爵家か侯爵家の中でどこかの家に養子縁組してもらい、正式に婚約という形になる」


「皆の前で宣言したからそのままエミリーと婚約出来るのではないのか!?」


「そんな訳がないだろう! 皆の前で宣言したらそのまま認められると思ったのかもしれないが、それは甘い考えだ。お前は仮にも王太子。その相手の見定めはあるに決まっているだろう? ましてやシルヴィア嬢を押しのけてまで選んだ相手だ。さぞシルヴィア嬢よりも優れているところがあるんだろうな?」


「ええ、陛下の仰る通りですね。生まれで人を判断する訳ではありませんが、男爵令嬢が王太子の婚約者として認められるにはかなり道のりが遠いです。王族の伴侶として相応しい家格の公爵家や侯爵家に養子にしてもらい、それから王家に嫁ぐにしても、マナー関係一切出来ません、教養がありませんでは養子になんて認めてもらえませんよ。そんな娘を養子にした家の恥になります」


 そういうものなのか。


 なら、エミリーに頑張ってもらうしかない。


「私からエミリーに伝えておく。頑張るよう応援しなくては!」


 エミリーも私と結婚する為ならきっと頑張ってくれるだろう。



「何を言っている? お前もだ」


 ……!?


 私もだと……!?



「今回の件は一回の失敗だが、本来ならこの一回で廃嫡ものだ。お前は”たかが一回の失敗で……”と思うかもしれないが、私達は基本的に失敗は許されない立場にいる。私達が施策に失敗して割を食うのは民だ。だが、今回のことはお前を甘やかしていた私達にも非がある。だからチャンスをやろう。お前も男爵令嬢と一緒に勉強しろ。そして及第点が取れなければお前は廃嫡し、エドワードに立太子してもらう。それが嫌なら励め。勉強はしたくないが、王太子の地位は手放したくないというのは一切認めない。テストは一ヶ月後に行う」


 嘘だろう!?


 勉強なんて死ぬほど嫌いなのに……!



「そ、そんな……」


「一応念の為に言っておくと、婚約破棄をなかったことにして、(くだん)の男爵令嬢とシルヴィア嬢を両方娶り、賢いシルヴィア嬢に表向きの仕事を全てやらせて自分達は勉強を回避するという選択をするのは無しだからな。話は以上だ。下がれ」



 父上から冷たく退室を促され、執務室を後にする。


 父上が最後にシルヴィアがどうのこうの言っていたような気がするが、全く頭に入ってこなかった。



 執務室を後にしたが、行く当てもなくふらふらと彷徨う。


 そして気づいたらいつの間にか自室に着いていた。


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