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第6話 ルークの慰めとシルヴィアの涙

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ありがとうございます♪


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「……という感じでお酒を飲みながらシルヴィと楽しくお話をしたんだ。シルヴィは酔っていたし、酒場を出た時間も遅かったから、僕の屋敷に泊まってもらおうと思って、僕の家の馬車に乗せて、僕の屋敷まで連れてきたという訳。今いるこの部屋は、僕の屋敷の客間だよ」


 ルークから説明を受けて、シルヴィアは何となく状況を思い出した。


 因みにルークは説明しながら白いシャツを羽織ったので、もう上半身裸ではない。


(確かに一人で飲んでいたら目の覚めるような美形な男性が来て、その人と話したような……。……って私、何か変なことを彼に言ってないよね? すごく不安なんだけど……)

 

「あのぅ~…私、酔っぱらって何か変なことを言っていませんでしたか?」


「変なこと? 確かに酔っ払い特有の会話が成立しない頓珍漢なことや支離滅裂なことは言っていなかったよ」


 変なことは言っていないとのことで一安心したシルヴィアを見透かしたかのようにルークは笑顔で続けた。


「でも婚約破棄のことは僕に教えてくれたよ」


(一安心させておいて笑顔で爆弾発言するなんて腹黒い人ね……!)


「ち、因みに婚約破棄の内容を私はどこまで話していました……?」


「ほぼ全部だよ。一連の流れと君の心情。おかげさまでどういうことなのか非常によく分かった」


「そ、そうですか……」


 シルヴィアは引き攣った表情でルークに返事をし、自分がしでかしたことに頭を抱える。


(いくら酔っていたとはいえ、そんな大事なことを名前と性別以外よくわからない会ったばかりの初めましてのルークに言っちゃうなんて私は何をしているのだろう……)


「シルヴィと婚約破棄して特にこれといった取り柄のなさそうな男爵令嬢と婚約するような元婚約者のことなんてもう忘れよう。これまで頑張った分、これから先は幸せになろう。シルヴィにはその権利がある」



 ルークはそう告げてシルヴィアに優しく微笑みかける。


 先程は明らかに面白がっていることが分かる笑顔だったが、今の微笑みにはそんな気配は一切感じられなかった。


 どことなく腹黒い気配がするルークの言葉なのにシルヴィアは不覚にも泣きそうになってしまった。



 実はシルヴィアは家族や周囲の人間に弱音や愚痴を吐いたことは一度もない。



 どんなに辛いことや厳しいことがあっても、全てシルヴィア・ローランズ公爵令嬢という仮面の下に押し込んだ。


 自分は何でも完璧に出来るシルヴィア・ローランズ公爵令嬢でいなければならない。


 弱音や愚痴を吐いて失望されたくなかったからだ。



 これまでずっと心の中に溜め込んできたものは今回お酒の力でするんと表に出てきたけれど、心のどこかでは誰か理解者と慰めを求めていたのだろう。



「僕でよければそのお手伝いをするから。理不尽な思いをしながら今までよく頑張ったね」


 ルークはシルヴィアを後ろから軽く抱きしめて頭を優しくぽんぽんと撫でる。


 ルークのその言動にシルヴィアの心のダムは決壊し、綺麗な紫の瞳から涙がぽろぽろと零れ落ちる。


 シルヴィアの涙が止まるまでルークはずっとそれを続けていた。



「そろそろ泣き止んだかな? 泣き止んだなら今からダイニングに朝食を食べに行こう」


「は、はい……。ご迷惑をおかけしました」


「全然迷惑なんかじゃなかったよ。さあ、行こうか」


 ルークはさりげなくシルヴィアの腰に手を回し、エスコートする。


「あっ、そう言えば。結局、私達、俗に言う一夜の過ちをしてしまったのですか?」


「ん~、シルヴィはどっちだと思う?」


 一旦立ち止まり、ルークは小首を傾げる。


「わからないから聞いてるのです!」


「ふふっ、ベッドでのシルヴィ(の寝顔)は可愛かったなぁ」


 ルークは蠱惑的に微笑みながら告げる。


(や、やっちゃったんだ……! いくら酔っていたからと言っても何の言い訳にもならないわ)



 シルヴィアは閨事について具体的な詳細は知らず、結婚した男女が同じベッドで眠ると子供が出来るという程度の知識しかない。


 その為、ルークと同じベッドで寝ていた自分は、彼と子供が出来るようなことをしたのだと思い込んでしまった。



 因みに一夜の過ちなるものがあるのは、シルヴィアが大人の女性向けの恋愛小説でそのような描写がある作品を読んでいた為、知っている。


 ただし、詳しい描写がある作品ではなく、所謂朝チュンの描写の作品だ。



 真っ青なシルヴィアの表情を見てルークは彼女が勘違いしていることは察したが、あえてその勘違いを訂正する気はなかった。


 敢えて勘違いするような言い方をして、その勘違いを利用してこんなことはやめるよう説得するつもりだからだ。


 ルークは上半身裸、シルヴィアは薄いネグリジェで同衾するという状況も勘違いを補強している。



 因みに貴族令嬢は王家に嫁ぐ場合は初夜を迎えるまで必ず純潔でなければならないが、それ以外の場合は純潔であるに越したことはないけれど、婚前交渉が完全に認められていない訳ではない。

 

 結婚と妊娠の順番が少し前後するくらいは目くじらを立てるようなことではない。



 だからと言って派手に遊び回ると当然のことながらふしだらな女という噂が回るので、まともな縁談からは遠ざかる。


 男性側も不特定多数の男性と関係を持った令嬢は誰の子を孕んでいるのかという見えない恐怖に晒されることになるので、余程の事情がない限りはそんな令嬢は敬遠されるし、婚約者から婚約解消を告げられても仕方ない。


 自分の妻が産んだ血の繋がらない息子に自分の家を継がせるなんてことはあってはならない。


 貴族が結婚で最も大切にしていることは己の家の血筋を絶やさず脈々と繋げることだ。



「もう済んだことだし、気にしても仕方ないよ。これに懲りたら一人で酒場で飲むのはやめること。こんな状況なら男性に何をされていても何も文句は言えないよ」


「うう……。はい、これからはそうしますわ」


 シルヴィはぐうの音も出なかった。


「まぁ、僕にも責任の一端はあるから、シルヴィが責任を取って欲しいということであれば責任は取るからいつでも言ってね」


「……本気で仰っていますか?」


「本気、本気。僕、今付き合ってる女性はいないし、婚約者もいないから」



 そんなやり取りをしているうちにダイニングに到着する。


 シルヴィアはルークと一つのテーブルに正面で向き合うように着席する。


 テーブルには繊細な刺繡入りの真っ白なテーブルクロスが掛けられており、既に朝食が用意されている。



 バターをたっぷり使って作られた焼き立てのクロワッサンに、温かいコーンのポタージュスープ。


 レタスやリーフ類、トマトやパプリカ、紫玉ねぎなど色彩豊かに盛り付けられ、シェフ自慢の特製ドレッシングがたっぷりかかっている新鮮なサラダに、焼き加減に文句の付け所がないほど綺麗に作られたオムレツ。


 ちょっとしたデザートに食べやすい大きさにカットされたオレンジまでついている。



 どれも非常に美味しく、お腹が空いていたシルヴィアはあっという間に完食してしまった。


 食後には給仕係の使用人が紅茶を淹れたが、この紅茶も香り高く食後の一杯としてゆったりとリラックス出来るものであった。



 その後、二日酔いを改善する薬と薬を飲む為の水が用意され、シルヴィアは薬を飲んだ。



「さて。今日の予定なんだけど、今から着替えてローランズ公爵邸に行こう。勿論、シルヴィも一緒に。もう先触れは出してあるよ。ちょうどシルヴィのお父上もいらっしゃるようだから、昨夜のことも事情説明する。今から一時間後位に出発するから、そのつもりで用意してね」


「承知しましたわ」


「そうそう、昨日シルヴィが着ていたワンピースは今、我が家の使用人に洗濯してもらっているから、今すぐ着れる状態にないんだ。新品のワンピースをあげるから、それに着替えてね」


「何から何までお世話になります。有り難く頂戴しますわね」


「そもそも勝手にシルヴィを我が家に連れて来たのは僕だしね。さぁ、準備しようね」



 シルヴィアはメイドに着替えと化粧と髪型のセットを手伝ってもらい、準備が完了した。


 シルヴィアの着替えや化粧、髪型のセットをしたメイドは全部で三人いたけれど、三人とも鼻歌交じりに楽しそうに仕事をしていたのが、シルヴィアは気になった。



 シルヴィアが支度を終え、メイドの案内で玄関付近まで向かうと、既にルークはそこにいた。


「お待たせ致しました。こんな素敵なワンピースをありがとうございます」


 ワンピースは白いシフォンの生地にピンクや黄色など淡い色の糸で小さな花が沢山刺繡されている可愛らしいデザインのものだった。


「気に入ってくれた?」


「はい! とっても気に入りましたわ!」


「気に入ってもらえたのなら僕も嬉しいよ。さあ、早速出発しよう」



 こうして、二人はベレスフォード公爵邸を出発し、ローランズ公爵邸へ向かった。

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