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第5話 酒場にて➂ ルーク視点

早速のブクマ・評価をありがとうございます!


皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)

 いつだって凛として他人を寄せ付けない彼女がこんな無防備でとろんと蕩けた表情を僕に見せている。


 彼女は美しい人形のように綺麗に整った顔立ちだから、破壊力が凄まじい。



 それに彼女は意図していないだろうけれど、男心を擽る色っぽさもある。


 そして、いつも弱音なんて吐きそうにない彼女が弱ってその辺の子達と同様に愚痴を吐いている。



 僕が知っている彼女の姿と違い過ぎて激しく動揺する。

 

 王城で主催される記念式典で見かけた彼女はいつだって背中をピンと伸ばして、何をやっても何を話させても気品と知性が溢れるどこに出しても恥ずかしくない正真正銘一流の淑女だった。



 今日たまたまここに居合わせたのが僕だったから、こんな表情や姿を見られたのは僕だったけれど、こんな姿を僕以外の男に見せるところを想像すると何だかモヤモヤした。


 彼女から特別に許されたシルヴィ呼びも同じく他の男に言うところを想像するとモヤモヤした。



 ――そこまで考えてはっと気づいた。


 僕は彼女に惹かれている、と。



 彼女とこんなに近づいて会話をしたのは初めてだというのに。


 長年ずっと女性不信で女性嫌いだったというのに。


 あまりの自分のチョロさに思わず自嘲の笑みが零れる。



 今まで立派な淑女の姿しか見たことがなかったけれど、それは理不尽に耐えながら頑張った彼女の努力の賜物で。


 その努力を馬鹿王太子(フィリップ)によってあっさりと否定され、傷付けられた彼女を甘やかしてあげたい。



 ――決めた。


 彼女は僕のものにする。



 とりあえずジントニックを飲みながら彼女の質問に答える。

 

 

「僕はただ単に飲みたくて。最近ゆっくりする時間もなくて息抜きがてらここに来たんだ。このお店は常連だから勝手もよくわかっているしね。まさかシルヴィみたいな可愛いお嬢さんにこんな場所で会うと思わなかったけれど」


 僕はわざとらしくウィンクを飛ばしながら、質問の答えを返す。



「もう……! からかわないで~! ルークだってすごく整った顔立ちじゃないの~」


 僕が彼女を可愛いお嬢さんと言ったら照れて僕の胸元をぽかぽかと叩く。


 全く力は入っておらず、まるで子猫がじゃれているみたいだ。



 それからも僕とシルヴィはグラスが空になる毎にセバスチャンにカクテルを注文し、飲みながら彼女との会話を楽しむ。


 お互いの趣味嗜好、お互い行ったことがある外国での体験、最近ハマっているもの等話題は尽きなかった。



 楽しい時間はあっと言う間に過ぎ、気づけば日付が変わるまであと三十分ほどだ。


「これは私からのサービスです。もう夜も更けて参りましたので、そろそろお姫様はお帰りのお時間ですよ」


 

 セバスチャンがサービスでくれたのはシンデレラだ。


 アルコールは入っていないミックスフルーツジュースのようなカクテル。



 カクテル名と同じ名前の童話『シンデレラ』は主人公が日付が変わる時間にお城から屋敷に帰る。


 童話の内容と今の状況をなぞらえている。



「マスタぁ~、ありがとぉ~! ご馳走様です~! ではぁ~わたくしはぁ~帰りますぅ~」


 シンデレラにはアルコールが入っていない為、非常に飲みやすく、彼女はごくごくと飲んで帰り支度を始める。


 シルヴィアが座っていたスツールから降りようとしたところで足元がふらついていたので、僕も慌てて降りてさっと手を腰に回し、彼女を支える。



「こんな時間に酔ったまま一人で帰るのは危ないから、そこの王子様に家まで送ってもらいなさい」


「はーい」



 彼女が返事をしてすぐセバスチャンは彼女に聞こえないように僕に耳打ちしてきた。


「ルーク坊ちゃま。ベレスフォード公爵邸に彼女を泊めるのは結構ですが、相手は貴族令嬢であることをお忘れなきよう」



 セバスチャンには僕が考えることなどお見通しだったようだ。



 僕とシルヴィアは今のところは別に婚約者同士でも何でもない。


 何の約束もないまま手を出すのは論外だ。



 でも、同じベッドでただ一緒に寝るくらいなら大丈夫だろう。


 シルヴィアが起きた時の状況で、これに懲りて、酒場で一人で酔っぱらうまで飲むことの危険性も理解してくれると思いたい。



 お酒に酔って前後不覚の若い女性を連れ込み宿や自宅に連れ込むのなんて、余程体型に恵まれていないチビで非力な男以外容易に出来てしまう。


 それは彼女の想像以上に容易なことで、もしそんな男に捕まってどこぞに連れ込まれてしまった場合、女性側がどんなに力ずくで抵抗しても男の体躯や筋力には敵わず、結果、酷い目に遭い、泣き寝入りするような事態になるということもある。



 酔った女性を手籠めにすること目当てに酒場に通っている男だっているのだ。


 たまに酒場で一人で飲むのも悪くはないが、そのような危険と隣り合わせだということを認識して欲しい。


 ましてやシルヴィは高位貴族令嬢で、見た目も美人なのだから。


 

 僕は苦笑いしながら返事をする。


「わかったよ。()()()()()()は手を出さない。約束するよ」


「では、彼女のことはルーク坊ちゃまにお任せします。私は彼女はルーク坊ちゃまのお相手としては 身分的に釣り合いも取れますし、賛成です。ただ、これからの王家側の動きで、婚約破棄を撤回し、フィリップ様の正妻は彼女の話にあった男爵令嬢で側妃を彼女にして政務をさせるということが選択肢の一つとして十分考えられます。もしルーク坊ちゃまが本気で彼女と婚約したいなら、余計な横やりが入らないようにさっさと行動する必要はありそうですね」


「そうだね。明日、ローランズ公爵邸に行って、彼女を送り届けるのと同時にお父上に話をしてくるよ。じゃあ、セバスチャン。近いうちにまた来るから。次は彼女と一緒に来れたらいいな」


「今日は来店ありがとうございました。次回はルーク坊ちゃまが彼女と一緒に来られることを楽しみにお待ちしております。では、おやすみなさい」



 こうして僕とシルヴィアは前以て呼んでおいたベレスフォード公爵家の馬車に二人で乗って、酒場(バー) 月光(ムーンライト)を後にした。



 シルヴィを連れてベレスフォード公爵邸に帰った時、僕の帰宅を待っていた使用人一同が「ルーク坊ちゃまがお嬢さんを屋敷に連れてきた!」と大騒ぎになったのはまた別の話だ。

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