第4話 酒場にて② ルーク視点
色々ミスを連発してしまいましたが、今日から毎日12時頃を目標に更新頑張ります♪
あと、早速ブクマ・評価をありがとうございます!
皆様からの応援が執筆の何よりの励みになっています(*^^*)
※読みやすさ優先でそこまで崩していませんが、人によってはシルヴィアの台詞が少し読みにくく感じる方がいらっしゃるかもしれません。
何故、彼女がここにいるのだろう?
純粋に疑問に思った僕は彼女の隣の席に腰掛けて、彼女の方に顔を向ける。
「初めまして。ここ、隣、座っていいかな?」
「どうぞ~」
彼女の許可が下りたので、彼女の隣の席のスツールに腰掛ける。
セバスチャンは僕の案内が終わった後は、カウンター席の目の前のキッチンに立って僕の注文を待っている。
「まず一杯目は何にしますか?」
「う~ん……そうだなあ、ジントニックで」
「畏まりました。おつまみはどれになさいますか?」
「サラミをお願い」
出来上がったジントニックを受け取り、ゆっくりと味わう。
セバスチャンの作ったジントニックは本当に美味しく、このお店に来ると必ず飲みたくなるカクテルの一つだ。
ロンググラスに入っている炭酸入りの透明なカクテルで、カットされたライムが一欠片入っている。
ライムの爽やかな香りとすっきりとした飲み口が特徴だ。
サラミを摘まみながら、ジントニックをじっくりと楽しむ。
せっかくだからシルヴィア嬢とお話してみようと思い、彼女に話しかける。
「君はどうしてここにいるの?」
「わたくしねぇ~、こう見えても実は~それなりの身分でぇ~。今夜の~ちょうどぉ~今の時間帯は~とあるパーティーに参加してるはずだったのぉ~。でもねぇ~、パーティーの開催の挨拶の前にぃ~婚約者が浮気相手を連れてぇ~、みんなの前で婚約破棄を言い渡されちゃったぁ~」
彼女は酔っているのか語尾が伸び気味でゆっくりと語る。
「婚約破棄!?」
僕は予想もつかない言葉が出て来て愕然とする。
王族が人前で婚約破棄なんて。
あの馬鹿王太子の甥のことだから、大勢の前で言ってしまえばこっちのものだと思っていそうだが、その後のことや婚約破棄がもたらす影響なんて全く考えていないに違いない。
王太子の誕生パーティーには、国内の有力貴族だけではなく、外国からの賓客も招待している。
外国の賓客もいる中で婚約破棄なんてしたら、その場に居合わせた賓客が自国に帰った時に自国でその話を伝えないとは考えにくく、そうなると外国にまで我が国の恥を晒すことになる。
それに仮に外国からの賓客がいなくても、婚約は家同士の契約だ。
フィリップがシルヴィア嬢に一方的に婚約破棄を突き付けることで、王家はローランズ公爵家との関係を軽んじていると参加していた自国の有力貴族の目には映っただろう。
そのあたりのことがちゃんと頭にあれば絶対にそんな考えには至らない。
考えもしていないから実行したのだろう。
また、婚約破棄はするとしても関係者だけを集めてごく内輪で話し合いをし、穏便に婚約解消とするのが一般的だ。
間違っても公の場でやることではない。
フィリップは自分の事ばかりで、公の場で婚約破棄されたシルヴィア嬢のことも全く考えていない。
シルヴィア嬢は何も悪いことはしていないのに”あの王太子殿下に婚約破棄された……”と後ろ指を指され、瑕疵があるように見えてしまう。
「婚約者の浮気相手は~男爵令嬢でぇ~なんと婚約者の両親も~既に彼が私と婚約破棄してぇ~新たにぃ~その令嬢とぉ~婚約することを~認めているんだってぇ~」
彼女は飲みかけのショートグラスに入ったピンク色の甘ったるそうなカクテルをグイっと煽るように飲んで続きを話す。
「婚約者の両親がぁ~了承していることなら~と婚約破棄を了承したんだけどぉ~、今まで婚約者に関して理不尽な思いにず~っと耐えてたのにぃ~それに対する仕打ちがコレ!?と。内心すごく頭にきちゃったぁ~。婚約者の両親がぁ~家格も低ければマナーもなっていない頭の弱そうな話し方のぉ~男爵令嬢を~新たな婚約者として認めるならぁ~わたくしが今まで頑張ったのは~一体何だったのぉ~?」
王妃はともかく、あの兄上が長年、次期王妃になるべく教育を受けた由緒正しき公爵令嬢であるシルヴィア嬢を捨てて、ぽっと出の男爵令嬢をフィリップの新たな婚約者として認めるはずがないと思うけれど……。
王族と婚約するには身分の釣り合いが取れないし、下級貴族と上級貴族では学ぶマナーが違うから王太子妃ひいては王妃としてどこに出しても恥ずかしくない程度にマナーを身につけるには長期間勉強することを覚悟しなければならない。
また、国に貢献するような大きな功績を打ち立てた訳でもない。
国に貢献するような功績があるのなら、王族の結婚相手として認められてもおかしな話ではないが、そのような話は聞かない。
国に貢献した功績は国王陛下直々に大々的に式典を行って表彰するから、そんな表彰があれば僕が知らないということは考えにくい。
身分の釣り合いに関しては、侯爵家や公爵家に養子縁組すれば解決するが、シルヴィア嬢の実家であるローランズ公爵家を敵に回す危険を冒してまで養子縁組する価値が果たしてその男爵令嬢にあるのか疑問だ。
それに、仮にフィリップが兄上に話をした上で認めたという話が本当なら、フィリップが要らぬ騒動を起こす前に内密にローランズ公爵夫妻とシルヴィア嬢を呼び出して婚約解消の手続きをするはずだ。
シルヴィア嬢の話を聞いているとどうにも事前にそんな根回しは行われた様子はない。
……ということは十中八九フィリップの独断で、兄上夫妻が認めているということにしたのだろう。
王太子が実際に国王夫妻が言っていないことを言ったことにするということも、王太子としてはあってはならないことだ。
国王陛下の意思を捻じ曲げて公の場で伝えるのは言語道断である。
そう思ったけれど、今は彼女の話を聞くことが先だ。
「理不尽って具体的には?」
「わたくしは小さい頃からぁ~ず~っと勉強やマナーのレッスンを受けさせられてぇ~ちょっとでも間違えば厳しい叱責~。それなのに婚約者はぁ~婚約者のお母様に甘やかされているからぁ~そんなレッスンをどれだけさぼってもぉ~なんのお咎めもなしぃ~」
……心当たりはある。
客観的に見ても義姉上はフィリップを甘やかし過ぎだ。
数年前、一度フィリップの家庭教師が彼の勉強の進捗状況を義姉上に報告しているところにたまたま遭遇したが、”フィリップが勉強をさぼってばかりだから全然進まない。だから王妃殿下からフィリップに勉強するよう注意をして欲しい”と言っても、”フィリップは勉強しなくてもいいのよ。周囲を賢い者で固めたら良いのだから”と返答していた。
それを許したら、フィリップが国王に即位した時、その周囲の者にとって都合の良い傀儡の王になりかねない。
その時、僕はそう思ったが、彼女から今の話を聞いてフィリップの代わりにシルヴィア嬢に徹底的に王家の教育を仕込む方針だったのだと今更ながら理解した。
「我が家が望んだ婚約でもないのにぃ~、厳しいレッスンと理不尽に耐えた結果がぁ~婚約者の浮気と婚約破棄なんてぇ~やってられないわぁ~。婚約破棄された娘なんてぇ~実家にも迷惑がかかるしぃ~しかもあの婚約者と婚約破棄されたわたくしには~条件の良い縁談なんてもう望めないだろうし……。……という訳でぇ~ヤケ酒でもしようかな~と。マスタぁ~、次はミモザをちょーだい」
彼女の注文したミモザが彼女の目の前に音も立てずスッと置かれる。
華奢なフルートグラスに注がれた黄色で無数の小さな泡がシュワシュワと立ち上っているそのカクテルはいかにも若い女の子が好きそうなものだ。
彼女の説明からするとヤケ酒するのも納得する。
しかも自分の身内がしでかしたことが原因だから、余計に申し訳なく感じる。
「ん~! 美味しい!! 私のことは話したからぁ~次はお兄さんの話が聞きたいなぁ~。お兄さんはどうしてここに~?」
「お兄さんじゃなくて、僕のことはルークって呼んでよ」
「ルーク?」
「うん。差し支えがなければで構わないけれど、もし良かったら君の名前も教えてくれる?」
「私はシルヴィア。ここで会ったのも何かの縁ということでぇ~、ルークは特別にぃ~シルヴィって呼んでいいよぉ~」
お酒に酔ってとろんとしたアメジストのような紫の瞳を向けてくるシルヴィア嬢に僕の心がドクンと跳ねた。
もし読んでみて面白いと思われましたら、ブクマ・評価をお願いします!