第3話 酒場にて① ルーク視点
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昨夜、王城で王太子フィリップの誕生日パーティーが主催されているのは知っていた。
僕はもう王族の籍を抜けているとは言え、現国王陛下の実の弟だ。
甥の誕生日パーティーには当然のように招待状が届く。
ルーク・ベレスフォード。
これが現在の僕の名前で、ベレスフォード公爵家の当主でもある。
兄上からは僕もフィリップの誕生日パーティーに参加するよう事前に招待状が送られてきたけれど、パーティーであまりいい思い出がない僕は甥の誕生日パーティーを不参加にすることにして、不参加の詫びとして高級フルーツの詰め合わせを兄上に贈った。
この高級フルーツは今僕が治めているベレスフォード公爵領の特産品だ。
話は逸れたけれど、僕は基本的に絶対に不参加が許されないパーティーにしか参加していない。
兄上とは親子と言っても過言ではないほど年齢が離れており、フィリップとも叔父と甥というより兄弟と言った方がしっくりくるような年齢差だ。
つまり自分と年齢が近いフィリップの誕生日パーティーなんて参加したら、参加している令嬢で婚約者がいない令嬢から狙われるハメになる。
令嬢達は僕自身の中身ではなく、僕の容姿や僕の背後にある権力や財力しか見ていない。
王家の血が流れた若き美形で、しかも今はベレスフォード公爵という地位に就いている。
それでいて婚約者はいないときているものだから、あちこちの狸爺から婚約者のいない娘や姪、果ては行き遅れの妹等を売り込まれている。
過去、試しに数人の令嬢と実際に会ってみたが、どいつもこいつも同じような言葉ばかり吐く。
”ルーク様、素敵!”、”ルーク様、私へのプレゼントはあそこのブランドの新作ジュエリーが欲しいな!”等の薄っぺらい言葉ばかりだ。
明らかに僕と婚約することで得られる地位や財産にしか興味がないのが丸わかりだった。
その上、僕と婚約したら、他の令嬢に僕に選ばれた女だと自慢し、マウントを取ろうとするのが透けて見える。
僕は令嬢達を満足させる為のアクセサリーじゃないんだと叫びたかった。
若くて見てくれがよく、その上お金持ちで高貴な生まれ。
令嬢が自分を輝かせる為のアクセサリーとして連れ回すなら僕はこの上ないほどの相手だろう。
たった数回でそれを悟ったので、持ち込まれた縁談は全てお断りした。
それだけではない。
自分の欲望を隠さない点だけはまだマシに思える場合だってある。
表面上では仲良くにこやかに令嬢同士絡んでいるのに、裏では僕がちょっと笑いかけた子や話しかけた子を平気で陥れる。
僕に関わろうとした令嬢は総じてそうだった。
運が良いのか悪いのかわからないが美形なせいで、既成事実の成立を狙った令嬢の猛攻により貞操の危機に陥ったこともかなり多かった。
自分の欲しいものは我慢せず、表の顔と裏の顔を器用に使い分ける。
そんな令嬢を幼い頃から今に至るまで腐るほど見てきたから、僕は女性不信で筋金入りの女嫌いだ。
だから所謂男女交際もしたことがないし、娼館で女の子を買った経験なんてない。
両親は僕の女嫌いをわかっているし、現状、僕が無理矢理にでも結婚しないと困るような話がないから、結婚相手はもし良い人が見つかれば……というようなスタンスでいる為、僕に婚約者はいない。
フィリップの誕生日パーティーは不参加にしたけれど、久々に外でゆっくりと飲みたい気分なので王都の商業地区にある馴染みの酒場に行ってみることにした。
酒場 月光――この酒場は表通りから一本裏道に入ったところにあり、知る人ぞ知る名店である。
ここは平民が仕事終わりに仲間内でギャーギャー騒いだり、男女のグループで楽しくわいわい酒を飲むのではなく、一人ないしは気心の知れた少人数で静かにお酒を楽しむことを目的としているお店なので、僕みたいなお忍びの貴族令息や令嬢が息抜きに利用することもある。
店の外観も店内も大衆酒場とは全く様相が異なり、敷居が高いと思わせるレトロな煉瓦造りの建物に、店内は高級な木材で作られたカウンター席に照明は控えめという木のぬくもりを感じさせつつもムーディーな雰囲気だ。
中途半端に王弟だとバレて騒がれたくないので、ありふれた茶髪のウィッグをつけて、深めのキャスケット帽子を被り、あからさまな金持ちではなく、ちょっとした金持ち程度に見える地味な色合いのジャケットとスラックスで酒場 月光に向かう。
お店のドアを押すと客の入店を知らせるベルがチリンチリーンと鳴り、マスターがやって来る。
「これはこれはルーク坊ちゃま。お久しぶりですね。息災でしたか?」
マスターはにこやかに僕を迎え入れた。
この酒場のマスターであるセバスチャンは元々、僕がまだ王族籍に入っていた頃、家族と暮らしていた後宮の筆頭執事を務めていた。
彼は自分のお店を持つことが夢だったようで、約6年前に執事を辞めてこのお店を開いた。
前職の執事で客人相手のおもてなしの技術はしっかりと磨かれているので、酒場のマスターという職は彼にぴったりだと思う。
現にこのお店は客に対する配慮やサービスがしっかりと行き届いており、僕でもまたあの雰囲気のお店でゆっくり酒を楽しみたいと思うほどである。
お店の落ち着いた居心地の良さにそう思っているリピーター客は少なくはないと思われる。
執事を退職した今でも彼にとっては僕は坊ちゃまらしく、来店する度に”ルーク坊ちゃま”呼びだ。
因みに今現在の僕の家であるベレスフォード公爵邸で家令を務めているのはセバスチャンの息子のアーロンである。
「久々だね、セバスチャン。僕は元気にしていたよ。今日は久々にゆっくりここでお酒を飲みたい気分だったから来てみたんだけど、席空いてる?」
「今、お嬢さんがお一人でカウンター席におられますが、それ以外はお客様はおりません」
「わかった。席に案内してくれる?」
「畏まりました」
セバスチャンの案内でカウンター席に連れて行かれた僕はそこで思いがけない人物がいることに驚いた。
一人で飲んでいた女性はシルヴィア・ローランズ公爵令嬢――フィリップの婚約者にして、今ここにいるはずがない令嬢だったから――。
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