第23話 王都のレストランにて②
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四人がひとしきり笑って落ち着いたタイミングで、スープとパンが給仕される。スープは優しい味付けのポタージュ、パンは湯気が出ているように感じられる焼き立てのもっちりとしたパンだ。最初に出された前菜と同様に、丁寧に作られた料理であることがわずか一口食しただけで感じられる。また、スープとパンが四人全員に給仕されたタイミングで、ウェイターが飲み物のおかわりの有無を尋ねたので、ルークとクリスが赤ワイン、シルヴィアは白ワイン、マーガレットはロゼワインを注文した。
「私達のお話はさておき、今度はクリス様とマーガレット様の馴れ初めを聞きたいですわ。お二人は王宮の会計室で出会ったとのことですが、そこからお話をお伺いしたいです」
「私が文官の試験を受けて合格し、会計室に配属されたのですが、その当時の会計室の室長がクリスだったのです。伯爵令嬢だった私が文官として働くことにした理由については、ちょうどその当時、実家が困窮していたからですわ。ハリス伯爵家が治めている領地が含まれる地域に豪雨が続き、豪雨で被害を受けた箇所の補修等に資金が必要だったので……」
伯爵家に生まれながら王宮で文官として働くことを選択する令嬢はかなり珍しいので、何故働いていたのか?という質問がシルヴィアとルークから出ることを見越して、マーガレットは先んじて伝えたのだが、理由が想定より重いものであった為、雰囲気が重くなってしまった。
「マーガレット様、申し訳ございません。私がお二人の馴れ初めを聞きたいと言ったばっかりに言いづらいことを言わせてしまって……」
「シルヴィア様、お気になさらないで下さい。そこは疑問に思われるだろうと思って先にお伝えしただけです。それに実家の困窮問題は一時的なもので、今はすっかり元通りですわ。特段、恥ずべき過去というほどのものでもございません」
「確かマーガレットが文官として勤務し始めて一年後くらいにはその件は解決しましたよね。私とマーガレットの婚約が実家の家計の立て直しの途中にちょうど結ばれたので、私の実家からも援助をして、援助によって立て直しが完了しました」
「ええ。あの時はクリスのご実家に本当に助けられました。それで話を元に戻しますわね。文官として勤務していた当時、会計室に配属されて間もない頃に泊まりがけで地方の領地に出張することになりまして。最初はクリスと男性の新人文官で行くことになっていたのですが、彼が出発当日に体調不良になってしまい、出張が出来なくなりましたの」
「各領地から上がってくる税収の記録で不審な点が見受けられたので、当時会計室の室長をやっていた私と当時新人文官だったチャーリー君で行くことになったのです」
「当日になって出張に行けない連絡があったので、クリスは普段通り会計室に出勤して、その時、出張に同行しても業務上問題なかったのが私だけでしたので、急遽、出張に行く準備をして、私が代わりに同行することになりましたの」
マーガレットはロゼワインを片手に当時のことに思いを巡らせる。
「まだ配属されてそれほど時間が経っていなかったので、クリスがどんな感じの方なのかわからず、移動中の馬車の中ではだいぶ気まずかったですわ。単なる上司と部下とはいえ、男性と二人きりで馬車に乗って長距離の移動をしたのもあの時が初めてでした。視察そのものはクリスが担当者とお話をして、私がその会話内容を記録に取るだけでしたので特に問題はなかったのですが、その後に大問題が発生してしまいまして……。ルーク様、シルヴィア様。どんな問題が起きたと思いますか?」
「僕は何となくわかった。……というより多分僕もそれと同じことをされそうになったことがある」
「私はわかりませんわ。マーガレット様、正解を教えてくださいませ」
「宿泊予定の宿の予約ミスで部屋が一つしか予約出来ていなかったのです。元々クリスとチャーリーが一緒に出張するということでチャーリーが予約したのですが、彼、普段から肝心なところでミスすることが多くて……」
「流石にあの時は焦りましたよ。とりあえず予約出来ている部屋はマーガレットに譲って、私はそこから近い場所にある宿で一人で泊まろうと探したのですが、運が悪いことにちょうどその場所で地域行事のお祭りが開催中で、お祭りに出店を出店する人達で宿泊施設はどこも全く空きがなくて泊まることが出来ませんでした。とりあえずマーガレットに他の宿泊施設に泊まることが出来ないので、私は野宿になることを伝えたら、マーガレットが一緒に泊まりましょうと言ってくれて同じ部屋に泊まったのです」
「その時は普通に泊まっただけでしたが、出張から帰った後、クリスに仕事帰りに夕ご飯を食べに行かないか誘われたり、休日に一緒に遊びに行かないかと誘われるようになって……気づいたら付き合っていて婚約していました。これが私とクリスの馴れ初めですわ」
クリスとマーガレットの話を聞いたルークは赤ワインが入ったグラスを右手で回しながら首を傾げる。
「なんかちょっと展開が胡散臭い気がするな。マーガレット夫人視点では話してくれた内容に間違いはないんだろうけれど、クリスの行動がね……。僕が知っているクリスの性格からすると、いくら急に一緒に出張予定だった部下が行けなくなったから代わりに同行してくれる部下を探すとしても、まずは同性の部下から声をかけると思うんだ。クリスは仮にもオーウェン侯爵家の三男でお父上は財務大臣をされているから、女性トラブルは御法度なはず。……にもかかわらずマーガレット夫人を同行相手に選んだということはその時点で気になる存在だったんだよね、クリス?」
「ルークは流石です。やっぱり付き合いが長いとお見通しなんですね。それで正解です」
「えっ!? そんなお話、初めて聞きましたわよ、クリス?」
「マーガレットのことは、実家が困窮してしまって伯爵令嬢であるにもかかわらず、家計を助ける為に王宮で一生懸命仕事をしていて上司として感心していたのです。それで仕事関係以外ではどんな感じなのかなと思っていました」
「私には言って下さっても良かったのではありませんか?」
マーガレットがじっとりした視線でクリスを見つめる。すると、クリスは眉毛を八の字にしてやや困ったような表情になって弁解する。
「恥ずかしくて言えなかったのですよ。部下が女性として気になっていたなんて。そろそろお伝えしようかなとは思っていました」
「その件に関する詳しいお話は家に帰ってから聞きますわね。そろそろメイン料理が来る頃かと思いますが、メインのお肉料理が楽しみですわ」
「今日のメイン料理は確か牛肉の赤ワイン煮込みだったと思うよ。赤ワインにとても合う料理だから、料理が運ばれた時にシルヴィとマーガレット夫人は赤ワインを注文することを勧めるよ」
「ありがとうございます、ルーク。ちょうど白ワインも飲み終わったので注文しますわ」
「私もそうさせていただきますわ」
そんな会話をしていると、ウェイターがメイン料理の牛肉の赤ワイン煮込みを給仕する為に、四人が着席しているテーブルにやって来た。料理の給仕が終わったタイミングで、シルヴィアとマーガレットは赤ワインを注文し、ルークとクリスも赤ワインを再度注文した。一口にワインと言っても、産地や使用している葡萄の品種の違いによって数種類から選べるようになっている。ルークとクリスはそれまで飲んでいた赤ワインとは産地違いのものを選んで注文したので、全く同じものを再度注文した訳ではない。
「そう言えば、クリス様。この前ローランズ公爵邸に来られた時にルークの昔話をしてくださると仰られておりましたよね?」
「そうでしたね。お約束していたのに他のお話で盛り上がってまだでしたね。それでは、お話ししましょうか」
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