第18話 解雇 エミリー視点
昨日はお盆の疲れで更新出来ず、大変申し訳ございませんでした。
あたしはフィリップ様が国王に話に行って帰ってくるまで、フィリップ様を待つことにした。
一時間くらいしたらフィリップ様が戻ってきたから早く上手くいったか知りたくて、フィリップ様の方へ駆け寄る。
「フィリップ様ぁ~話はうまくいった~?」
「エミリー、ごめん。レッスンは明日から受けなくてもいいことになった。でも、そのかわり私は王太子の座を降りすることになった」
「えっ……? どういうこと……?」
「父上は不在だったから代わりに宰相と話をした。パーティーで婚約破棄したことが全ての間違いだったみたいだ。あのパーティーで婚約破棄を公表することは本来ならすぐ廃嫡になるほどダメな行いだった。父上はそれをすぐ廃嫡にせず、私に与えられたチャンスがあの厳しいレッスンだ。私が王太子のまま厳しいレッスンを回避することは父上が用意した選択肢にはなく、廃嫡かレッスンを受けるかの二択を宰相に迫られて、結局、廃嫡を選んだ」
あの婚約破棄ってフィリップ様が廃嫡を申し渡される程ダメなことだったの……!?
そんなことはもっと早く教えて欲しかった!
知ってたら絶対やらなかったのに……!
「そう言えばあの家庭教師のおばさんはそんなことを言ってたような……。……って、え!? 廃嫡を選んだんですか!?」
「ああ。私にはあのレッスンを耐えるのは無理だから。家庭教師達には宰相から話をつけてくれるから明日からレッスンはないんだ」
「レッスンがなくなるのは嬉しいけどフィリップ様は廃嫡……」
「なぁ、エミリー。私は王太子ではなくなった。でも私はエミリーと共に生きていきたいんだ。私達は真実の愛で身も心も結ばれただろう? たとえ困難が立ちはだかっても真実の愛の力で乗り越えられるはずだ。だから、どうかこの先の人生を私とずっと一緒にいてくれないか?」
フィリップ様は祈るかのような表情であたしに問いかけてくるけど、答えは一つ。
「お断りします。王太子じゃないフィリップ様なんて意味がないわ! あたしは優雅で贅沢な暮らしがしたいのよ。王太子じゃないフィリップ様にそんな暮らしを提供出来ますか? ……出来ないでしょう? 真実の愛だけじゃお腹は膨れないし、ドレスは買えない。さようなら、フィリップ様」
あたしはフィリップ様に別れを告げて、最後にフィリップ様の顔を見ることなく足早にフィリップ様の部屋から飛び出して、私がメイドをして働く際に宛がわれた宿舎の自室に戻った。
フィリップ様とは残念なことになってしまったけれど、金持ちの美男子は何もフィリップ様にこだわらなくても他にもたくさんいる。
明日からまたメイドとして働きつつ、フィリップ様の代わりを探そう!
そんな気持ちで眠りについて、翌朝、メイド服を着用し、いつも通り出勤すると、そこには普段はあたし達雑用メイドのところになんてほぼ来ないメイド長がいた。
メイド長は黒髪をきっちりと一つに結い上げ、眼鏡をかけた如何にも神経質でお堅い中年の女という外見だ。
絶対行き遅れだよね、あの人は。
メイド長は隣にあたし達雑用メイドをまとめているリーダーを連れている。
「あなたがエミリー・ハーマンさん?」
「はい、あたしがそうですが……」
突然、メイド長から話しかけられたけど、気がつかない間に何か失敗か粗相をしちゃったのかな?
失敗や粗相をしてもとりあえず上辺だけ反省している様子を見せれば大丈夫よ。
この時のあたしは呑気にそんなことを考えていたけど、事態はずっと深刻だった。
「あなたを本日付で解雇させて頂きます」
メイド長が無表情かつ機械的な声色であたしに解雇を通告してきた。
「えっ……? どうしてですか?」
「王宮メイドは貴族の男性漁りの場ではありません。あなたが職務中にフィリップ王太子殿下と知り合い、それから恋人になり、王太子殿下の恋人として婚約破棄の現場にいたことはわかっています。そして、フィリップ王太子殿下と別れたことも。あなたは王太子殿下と別れても、またメイドとして働きながら他の貴族令息様を捕まえようなんて思っているのかもしれませんが、王宮のパーティーに参加したり、所用で王宮に来られることが多い貴族令息様方は婚約者がいるか既婚者の方が殆どです。そんな方達にあなたが職務中近づいて、その結果、また婚約が破談になったり家庭が壊れたら、そんな人物を雇っている側にも責任が発生します。なので、もうこれ以上の被害を出さない為にもあなたを解雇することにしました」
「それってあたしがいなくなった方が都合が良いだけでしょう!? じゃあメイドは王宮で恋愛一切禁止なんですか!?」
「恋愛するなとは言いません。ただ、立場をよく考えて下さいというお話です。婚約者がいらっしゃる身分が高い方に職務中近づいて恋人関係になるなんて論外です。あなたは何をする為に王宮でメイドとして働いていたのですか? 人として常識的な対応が出来ないという点でメイド失格だと判断しました」
「そんな……! 何とかならないんですか!? 急に解雇されても困ります!」
あたしは給金は貯めずにパーッと散財する派だった。
最近ではフィリップ様に少しでも可愛いと思われたくて、給金の殆どをデートする時の洋服や、スキンケア用品からメイクアップ用品までの様々な種類の高級化粧品に注ぎ込んでいた。
とりわけあたしは王都の貴族の令嬢の間で流行っている妖精姫という化粧品ブランドで全部揃えて買っていた。
妖精姫の化粧品は乙女心を擽るキラキラした可愛い瓶や入れ物のデザイン、塗った時の発色の良さや持ちの良さ、使うことでツルツルの美肌になれるといった製品のそのものの品質という点で、これ以上のものはなく、貴族令嬢の間で流行っていると言えるのも頷けるブランドだ。
でも、値段はちっとも可愛くない。
裕福な貴族家の令嬢はあたしみたいに働かなくても、パパやママに強請ったら買ってもらえる。
内心すごく羨ましい。
それでもわたしは購入し続けた。
これを使うことで可愛い女の子になれるなら。
貴族令嬢としてあたしはちゃんと流行りに乗っているんだ。
……と思いながら。
だから貯金なんてない。
急にクビになって職を失うと本当にヤバい状況だ。
少しでも猶予があれば、急いで次の仕事先は何とか出来ると思うけど、そんな猶予もなく放り出されたら野垂れ死にが関の山だ。
「そう言われてももう決定事項ですので。これは本日までメイドとして働いた分の給金です。宿舎の自室の荷物は本日中に片付けて出て行って下さい。とりあえずあなたの私物がない状態であれば構わないので、掃除はしなくても結構です」
メイド長はあたしの懇願に目もくれずぴしゃりと宣告し、給金が入った麻袋をあたしに渡す。
「メイド長、解雇の話は終わりましたか?」
話が終わったタイミングで、知らない人がやって来た。
見た目は三十代の中肉中背の男性で、イケメンでも醜男でもない糸目の人だ。
文官が着る制服を着ているから、どこの部署に所属しているかはわからないけど、この人は文官であるということはわかった。
「今、終わりました。後の話はお願いします」
「お任せ下さい。メイドをクビになった君に朗報だ。一日三食保証、住み込み勤務。勤務場所は今いる王宮と敷地内は一緒で別の建物。勤務時間は日によってばらばら。給金は三食保証と住み込みという点を加味してお小遣い程度。メイド程の給金は出ない。この場で了承した場合、面接無しで採用しよう」
住み込みだから急いで新たに住居を探さなくて済むし、条件的にはそれほど悪くなさそうね。
勤務時間は日によってばらばらということは、短時間で仕事が終わる日もあるということだ。
メイド程の給金は出ないと言っても、メイドは朝から晩まで毎日勤務で、休暇は安息日の二日のみ。
勤務時間がメイド程ないからそこまで給金は出せないということなのかもしれない。
何より面接無しで採用というのがいい。
「わかりました。その仕事を引き受けます!」
「では、今から宿舎の自室の荷物をまとめて、三時間後に城門の前に集合。それから君を新しい職場と住む場所に案内する」
「はい」
その後、あたしは言われた通りに自室に戻って荷物をまとめ、時間通りに城門に向かった。
城門にはさっきあたしに説明してくれた糸目の男性が既に立っていて、あたしを待っていた。
「さぁ、行こう。私について来てくれ」
どこに行くんだろう?と思いながら男性について行くと、王宮の主要な建物をいくつか通り過ぎ、日当たりの悪い陰気な場所に立っている建物の前で彼は足を止めた。
その建物の周囲は雑草が生い茂り、建物は全体的に古めかしく煤けていて、蔦植物があちこちに巻き付いている。
そしてよく見ると窓は全て頑丈な鉄格子が嵌まっている。
ここって何をする建物……?
「ここが君の新しい職場だ。住む場所もこの建物の中の一室だ。住む部屋に荷物を置いて、それから職場に向かう」
「あの……この建物っていったい何をする為の場所?」
「ああ、説明してなかったな。ここは罪人を収容する牢獄だ」
「え……!? 牢獄!? 嫌よ、こんな場所で働くなんて……! ……というかあたしの仕事って何……?」
「申し訳ないが、それは出来ない。君が拒否しても無理矢理連れて行く予定だった。君の仕事はここで囚人の性欲処理をすることだ」
「何でそんなことを無理矢理やらされなければならないのよ!?」
「陛下からの命令だ」
「陛下からの命令……?」
そこで何で陛下が出て来るのよ!
「フィリップ王太子殿下に婚約者がいるかどうかを知っていて殿下と恋仲になったのかどうかは知らない。だが、結果として殿下とローランズ公爵令嬢の婚約は破談となった。陛下は君にもその責任の一端はあるとお思いだ。二人の婚約は国の将来を左右するものだった。それを台無しにしたのだから責任は取ってしかるべきだろう」
「そんな……! あたしはフィリップ様に婚約者がいるなんて知らなかったのよ!」
「知らなかったというのは通用しない。陛下はお立場上、君を罰しなければローランズ公爵家に対して申し訳が立たない」
「ならせめてハーマン男爵家に帰って、大人しくして、二度と王都には行かないからそれで許してもらえない?」
「君の父上には王家から事情を説明する手紙を送ることになっている。罰金を支払うか、君を見放すかの二択だが、ハーマン男爵は罰金を支払えるほど懐に余裕はないだろうから助けが来るとは思わないことだ。今日から頑張ってくれ」
その男はさっさと退散しようとするが急に足を止めて振り返った。
「そうそう。君が相手をする囚人達は汚い中年の平民ばかりだ。ここには女性なんていないから、全員性欲が溜まっている。この話が出た時、歓声が沸いたらしい。看守、あとは任せた」
「はい、ご苦労様です。じゃあ早速、囚人の相手をしてもらおうか」
フィリップ様と付き合っていた頃は上手く行っていたと思っていたのに、何でこんなことになっちゃったんだろう……。
お先真っ暗な未来に気分が沈む。
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