第17話 フィリップ視点
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父上の命令により派遣された家庭教師達がやって来て、彼らのレッスンを受けた初日。
その初日で既にこんなに厳しいレッスンを一ヶ月の間ずっと受けるなんて無理だと感じた。
寝坊してもレッスン時間が短くなる訳でもないと説明されていたから全く気が進まないまま早起きしてレッスンを受けることにしたが、その日一日本当にしんどかった。
私は一日レッスンを受けた後、燃え尽きたかのように自室のふかふかなソファーでぐったりしていた。
明日からもずっとこれが続くのかと気が滅入っていたが、そんな折にエミリーが私の部屋を訪ねてきて思わぬ提案をしてくれた。
早速、父上に話をする為に、父上の執務室を訪ねた。
ノックをして入室許可を取り、部屋に入室するも父上の姿はなかった。
そのかわり宰相はいて、入室許可を出したのも宰相だった。
「フィリップ王太子殿下、こんな時間にどうされました?」
「父上に話があったのだが、父上はどちらに?」
「陛下は昨日から軍事関係の協定を結ぶ為に隣の国に行かれており、不在です。陛下不在の間は何か起きた場合、私が対応することになっております」
「そうか……。父上はいつ頃戻ってくるんだ?」
「隣の国には馬車と船を使って片道三日から四日かかります。予定外の事態が起きなければ協定を結ぶこと自体は時間がかからないはずですので、帰ってくるのは早くて一週間後くらいですね」
思ったより父上の不在期間は長そうだ。
宰相もあの時ここにいて話を聞いているから、話は早いだろう。
「父上が戻ってくるのがだいぶ先のようだから、父上に話そうと思っていたことを宰相に話そうと思う」
「わかりました。私が代わりに話を聞きましょう」
「あの日、父上から言われた家庭教師達のレッスンを受けるという話。あれを無しにしてもらいたい。今日が初日だったが、あんなものが一ヶ月も続くなんてとてもじゃないが無理だ」
「ほぅ。無理、と仰られるのですね」
宰相は眼光鋭く私を睨む。
「ああ。私達がそんな厳しいレッスンを受けなくても、シルヴィアに戻ってきてもらったら万事解決だ」
「シルヴィア様に戻ってきてもらう……とは一体どういうことですか?」
「よく考えてみたら私は今まで厳しいレッスンなんて受けてきてはなかっただろう? それはシルヴィアがいるから私は何もわからなくても大丈夫だということだ。シルヴィアに戻って来てもらい、婚約破棄は撤回し、再婚約してもらう。私はエミリーとシルヴィア、両方と結婚し、シルヴィアには表向きの王太子妃としての仕事を全部やってもらう。そして私達は好きなように遊んで暮らす。これなら完璧だ!」
私の説明を聞いた宰相はため息をついた。
何故だ?
「はぁ~……。殿下、陛下が仰ったことをお忘れですか?」
「父上が言ったこと?」
「そもそも陛下は、公衆の面前で婚約破棄をするなんていう本来なら廃嫡ものの愚かな行動をした殿下にチャンスを与える意味合いで、レッスンを受けることを命じられました。そして、レッスンの一ヶ月後、及第点が取れなければ殿下を廃嫡するというお話でした。つまりこの話にはシルヴィア様は一切関係ありません。陛下も男爵令嬢とシルヴィア嬢の両方と結婚し、シルヴィア嬢に政務一切をやらせ、殿下と男爵令嬢は勉強を回避するという選択肢はないと仰られていましたのに、一体何を聞いていたのですか?」
宰相の声色は明らかに呆れが混じっていた。
そ、そう言えばそんな話をしたような……。
「で、ではレッスンを無しにするというのは……」
「殿下がもう無理だと仰られるならそれで構いませんよ。そのかわり陛下との約束通り、王太子の座はエドワード殿下に移りますが」
「私が王太子のままであの厳しいレッスンから逃げる方法はないのか!?」
「そんなものある訳ないでしょう。あれだけのことをしておいてすぐ廃嫡にせず、チャンスをくれただけでも陛下に感謝すべきですよ。あなたがパーティーという場で婚約破棄なんて馬鹿な真似をしなければ、シルヴィア様には申し訳ないですが、あなたは厳しいレッスンを受けずとも見逃されていたのに。レッスンを受けるか、廃嫡。二つに一つです。さぁ、どちらを選びます?」
今更ながらあのパーティーでの婚約破棄を後悔する。
あれさえなければ今、こんなに追い詰められていないのに……。
「エドワードに王太子の座は譲る……」
「わかりました。ではこちらにサインを」
宰相が廃嫡の同意書にサインを要求してきたのでサインする。
「確かに。では陛下には陛下が帰国後に私から話をしておきます。レッスンに関しては明日から無しということで私が家庭教師達に伝えます」
「ああ」
私が持っていた王太子という次期国王の座を手放すことになった。
王太子ではなくなったけど、私は完全に全てをなくした訳ではない。
私にはエミリーがいる。
廃嫡になってもエミリーは私といてくれるはず。
何と言っても真実の愛で結ばれた相手だ。
どんな苦難があろうと真実の愛は苦難を乗り越える力がある。
……この時の私はそう信じてやまなかった。
父上の執務室を退室する前に宰相に呼び止められる。
「そうそう、一つ言い忘れがありました。陛下から殿下に伝言を預かっておりました。丁度良いので今、お伝えしますね」
「父上からの伝言?」
何かあまり良くない話のような気がする。
「殿下の誕生日パーティーに際し、殿下が男爵令嬢に贈ったドレス代。あれは国庫から代金を支払うのではなく、殿下の個人資産から支払うことにしたそうです。シルヴィア嬢へ支払われる予定の婚約破棄の慰謝料も殿下の個人資産から支払われるので、殿下が廃嫡されるまでに使える個人資産はもう残っていません。廃嫡されたらどの道個人資産は没収ですが、一応お知らせしておきます」
「エミリーのドレス代……?」
「ええ。殿下は”婚約者への贈り物”として財務の方へ申請されたようですが、調査した結果、シルヴィア嬢ではなく、男爵令嬢に贈られているということがわかりましてね。殿下がやったことは横領です。シルヴィア嬢に贈り物をすると虚偽申請を行い、国庫から代金が支払われるようにして、実際には違う令嬢へ個人的な贈り物をしたのですから。国庫は国の為に使用されるべきもの。今回のような場合、完全に殿下の私的な交流の為の贈り物ですよね? 国庫から代金が支払われるようなことはあってはなりません」
……げぇっ、バレてた……!
絶対バレないと思っていたのに……!!
バレないと思っていたからこそ、可愛い恋人のエミリーに金に糸目を付けず立派なドレスを贈ったのに!
バレて自分の個人財産からドレス代が出るのなら、あんなに立派なドレスじゃなくてもう二ランク下のドレスで十分だった!
「横領は犯罪ですからね。殿下の個人資産より補填しても、殿下が横領したという事実に変わりはありません」
「それで、私は何か処分を受けるのか……?」
「今日のところは、とりあえず殿下がやったことは此方は把握していると殿下にお伝えしただけです。どんな処分が下されるかは陛下が帰国なさってから決めることになります。それまで、部屋で謹慎していなさい」
父上の執務室から自室に戻ると、エミリーはまだ部屋にいた。
「フィリップ様ぁ~話はうまくいった~?」
明るく問いかけてくるエミリーにこれから自分は王太子ではなくなったことを言わなければならないのが辛い。
「エミリー、ごめん。レッスンは明日から受けなくてもいいことになった。でも、そのかわり私は王太子の座を降りすることになった」
「えっ……? どういうこと……?」
「父上は不在だったから代わりに宰相と話をした。パーティーで婚約破棄したことが全ての間違いだったみたいだ。パーティーで婚約破棄は本来ならすぐ廃嫡になるほどダメな行いで、父上はそれをすぐ廃嫡にせず、私に与えられたチャンスがあの厳しいレッスンだ。私が王太子のまま厳しいレッスンを回避することは選択肢になく、廃嫡かレッスンを受けるかの二択を宰相に迫られて、結局、廃嫡を選んだ」
「そう言えばあの家庭教師のおばさんはそんなことを言ってたような……。……って、え!? 廃嫡を選んだんですか!?」
「ああ。私にはあのレッスンを耐えるのは無理だから。家庭教師達には宰相から話をつけてくれるから明日からレッスンはないんだ」
「レッスンがなくなるのは嬉しいけどフィリップ様は廃嫡……」
「なぁ、エミリー。私は王太子ではなくなった。正直、これから先の私の身の振り方はどうなるのか全くわからない。でも、私はエミリーと共に生きていきたいんだ。私達は真実の愛で身も心も結ばれただろう? たとえ困難が立ちはだかっても真実の愛の力で乗り越えられるはずだ。だから、どうか私とずっと一緒にいてくれないか?」
エミリーの答えを知るのが怖いが、優しいエミリーが私から離れるという選択をするはずがない。
真実の愛の前には権力や財力は関係ないんだ。
王太子ではない私には価値がないなど言わないはず!
「お断りします。王太子じゃないフィリップ様なんて意味がないわ! 私は優雅で贅沢な暮らしがしたいのよ。王太子じゃないフィリップ様にそんな暮らしを提供出来ますか? ……出来ないでしょう? 真実の愛だけじゃお腹は膨れないし、ドレスは買えない。さようなら、フィリップ様」
エミリーは冷たい顔でそう言い捨てて、去って行った。
ははっ……と渇いた自嘲の笑みが口から漏れる。
……そうか。
真実の愛だと言っても、結局はエミリーにとって魅力的に映ったのは私の権力や財力だったんだな。
つまり権力と財力があるなら私でなくとも誰でも良かった、という訳か……。
エミリーが去った部屋で私は人知れずひっそり泣いた。
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