第14話 王都でのデート①
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ルークとシルヴィアの婚約が成立してから最初の土曜日。
今日は二人で王都の商業地区に遊びに行く予定だ。
ルークからシルヴィア宛てに、”もし今度の土曜日に予定がなければ、一緒に王都の商業地区に遊びに行かない?”とお誘いの手紙が届いた。
シルヴィアはちょうど何も予定がなかったので、ルークからのお誘いの手紙には了承の返事を送る。
ルークがローランズ公爵邸に迎えに来てくれることになったので、それまでにシルヴィアは外出する為の準備をする。
今日の行先は王都の商業地区なので、シルヴィアは豪華に飾り立てた公爵令嬢スタイルではなく、お忍び用の町娘スタイルだ。
王都の商業地区に行くと言ってもお店によってはドレスコードがあるので、もしそのようなお店に行くならそれなりの装いをしなければならない。
しかし、特にルークから服装の指定はなかったので、今日のシルヴィアの服装は裕福な商家の令嬢が着るようなワンピースである。
今日のワンピースは濃い青を基調としたクラシカルなワンピースで、アクセントに銀色のリボンとレースがあしらわれている。
髪型はメイドのカレナに緩くざっくりとした両サイドの三つ編みにしてもらった。
三つ編みを結ぶリボンも銀色だ。
彼女の用意が出来た頃にルークがローランズ公爵邸に迎えに来る。
「シルヴィ、お待たせ。さぁ、行こうか」
ルークはスマートにさっと右手をシルヴィアに差し出す。
「はい、ルーク。では、ジョナス。私はルークとお出かけに行って参りますわ」
家令のジョナスがシルヴィアの見送りに玄関で待機している。
「お二人ともお気をつけて行ってらっしゃいませ」
二人は馬車に乗り込み、王都の商業地区を目指す。
「今日のシルヴィの装いの色合いは僕の色だね。とっても似合ってるよ」
「このワンピースはルークと出会う前から元々持っていたのですが、袖を通すことがなくて。せっかくルークと遊びに行くから、これを来たらちょうどいいかなと思ったのですが……ダメ、でした?」
シルヴィアはコテンと小首を傾げ、上目遣いにルークを見つめる。
「ううん、全然ダメじゃないよ。むしろ僕のものっていう感じがして気分がいいよ。それに、僕も今日はシルヴィの色を取り入れてみたんだ。どう? 似合ってる?」
ルークは悪戯っぽく微笑む。
今日のルークはシルヴィアの髪色のストロベリーブロンドよりやや薄めのピンクのシャツに淡い紫色のネクタイを締めている。
ジャケットとスラックスは紺色だ。
「似合っていますわ。私達、カップルという感じがしますわね」
「そうだね。さぁ、今日はデートを楽しもうね」
馬車は王都の商業地区の入り口に到着する。
夜だと人通りは少ないが、昼は人通りが多い為、馬車で商業地区の通りを移動することは禁止されている。
なので、明るい昼の時間に商業地区に用事がある時は、商業地区の入り口で馬車から降りて、目的地までは徒歩で向かう。
ルークとシルヴィアは手を繋ぎ、商業地区を散策する。
「今日はどこのお店に行く予定ですの?」
「今日はとりあえずカフェに行って、アクセサリー類を扱っている雑貨屋と本屋にでも行こうかなと思ってるよ。でもシルヴィが行きたいところがあるなら、そこに行くから遠慮なく言ってね」
「私は商業地区自体あまり行ったことがないので、どんなお店があるのかもよく知りませんわ。なので、今日はルークにお任せしますわね」
「了解しました、僕のお姫様」
二人は目的地の一つ目であるカフェに向かう。
歩いている途中、ルークもシルヴィアも行き交う異性の視線を集めている。
ルークは今日もお忍びということで茶髪のウィッグをつけていつもより地味にしているというのにその美貌は全く隠れていなかった。
「ねえ、そこの綺麗なおにーさん! 隣の子なんてほっといて私達と一緒に遊ぼうよ! 私達、この商業地区に詳しいから、絶対楽しませる自信あるし!」
ルークはシルヴィアと然程年齢が変わらない女性の二人組に絡まれる。
彼女達の服装は貴族令嬢のお忍びスタイルではなく、本物の平民スタイルだ。
ワンピースを着ているが、丈は膝小僧よりも短く、生地が一目見ただけで貴族の服装では使われない安価な生地だと判断出来る。
貴族令嬢は足を見せることはふしだらだという解釈なので、貴族令嬢はお忍びであっても足が隠れるような丈のワンピースやスカートしか着ないのだ。
シルヴィアと手を繋いでいる間に女性の一人が割り込み、シルヴィアの手を払いのけ、ルークの左腕を掴み、もう一人が右腕を掴む。
無理矢理ルークと引き離されたシルヴィアは目を白黒させて呆然とする。
それと同時にチクンと胸が小さく痛んだ。
(市井の平民の子達ってこんなにグイグイ行くんですの!? それにルークは私の婚約者なのですけれど……)
「なんで僕が初対面のあなた達と遊ばないといけないんですか。見たらわかる通り僕は恋人と楽しくデート中で、あなた達の行いははっきり言って迷惑です」
「え~その子が恋人? なんかおにーさんと釣り合ってないね。私の方がおにーさんにお似合いよ!」
「も~ミサ、何言ってるの! ミサより私の方がお兄さんとお似合い!」
「先に声をかけたのは私よ! マリは別の男にしなよ!」
「キャンキャン五月蠅いですよ。どっちもお呼びじゃありません!」
所謂両手に花という状態であったが、ルークはこの状況を全く歓迎していない。
ルークは心底うんざりした様子で吐き捨て、掴まれていた両腕を振りほどく。
その様子にシルヴィの胸の痛みはうっすらと消えていった。
再び彼女達に捕まる前にルークはシルヴィの手を取り、素早くその場から離れる。
「シルヴィ、ごめんね。変なのに絡まれて……。手、怪我してない? さっきの女が無理矢理僕と繋いでいた手を払いのけたでしょう?」
ルークは痛ましげな表情でシルヴィアの手を取り、怪我がないか確認しながら尋ねる。
「痛かったけれど、血は出てないですわ。それよりもルークが私ではなく、あの子達と遊ぶのではないかと不安でしたわ……」
「本当にごめんね。僕はあんな誘いには誓って乗らないから。まだ僕と出会って間もないけれど、信じて欲しい」
ルークは真摯な瞳で訴える。
「ルークを信じていますわ」
「さぁ、気を取り直してカフェに行こう。ここから近いんだ」
ルークの案内で着いたカフェはそれから程なくして着いた。
カフェ リーベ――看板にはそう書かれている。
落ち着いたシックな佇まいのお店である。
ルークがドアを開けるとカランコロンと可愛らしい音が鳴り、店員が出迎える。
出迎えた店員は細身ですらりと背が高く、顔立ちははっきりしている迫力のある美形だった。
ただし、性別はわからない。
真っ赤で長い髪は頭の高いところで一つに結い上げられ、パッチリ二重で濃い紫色の瞳は人を惑わせるような不思議な力を感じる。
しかも瞬きする度バサバサという効果音がしそうなほど睫毛が長い。
「いらっしゃいませ~! ……ってあら、誰かと思えばルークじゃないの!? お客様として来るなんて思ってなかったわ」
「商業地区に遊びに来たから、せっかくだし客として一度来てみようと思って」
「ふーん? この子は彼女?」
迫力のある美形が急に自分を品定めするような目で凝視してきて、シルヴィアはビクンと怯えてルークの背に隠れてしまう。
「シルヴィ、そんなに怖がらなくても大丈夫だよ。ノエル、この子は僕の婚約者のシルヴィア・ローランズ公爵令嬢」
「ローランズ公爵家が長女、シルヴィアと申しますわ。初めまして」
ルークから紹介されたので、シルヴィアも隠れていたルークの背中からひょっこり顔を覗かせて自己紹介する。
「へぇ~! シルヴィアちゃんというのね! ルークが婚約者なんて紹介したからびっくりしたけど、こんな別嬪さんなお嬢さんなら納得ね。此方こそ初めまして。ノエル・アントワーヌです。ここの店長よ。ルークとは腐れ縁のお友達。ワタシとも仲良くしてね!」
シルヴィアはルークが性別不詳のこんな美人と友人と聞かされて不安な気持ちになるが、すぐにルークから訂正が入る。
「ノエルは見た目は女性っぽく感じるかもしれないけれど、性別は男性だから」
「え……!? てっきり女性なのかと思っておりましたわ!」
「うふふ、そうよ。ワタシはオ・ト・コ」
ノエルはシルヴィアに向かってパチンとウインクする。
「シルヴィ、ノエルの相手はしなくていい。ノエル、席に案内!」
「はいはーい。こちらにどうぞ。注文が決まったらベルを鳴らしてね。ワタシが注文聞きに行くから」
二人がノエルに案内された席は店内奥の個室だった。
カフェという場所柄どうしても店内にいる大部分は若い女性が占めている。
ノエルはルークの事情も把握しており、個室にしたのはルークへの配慮だ。
二人は席に着いたところでメニュー表を開く。
このお店では季節のフルーツを使ったパフェやケーキを提供している。
「何にしようかな? シルヴィはもう決まった?」
「う~ん……。今、二つまで絞ってどちらにするか迷っていますわ」
「どれとどれで迷っているの?」
「シャインマスカットと葡萄のパフェと桃のパフェ。どちらもすごく美味しそうだから決められません」
「じゃあその二つを頼んで半分ずつ食べよう。そうしたら両方食べられるよ」
ルークの提案にシルヴィアの顔がぱぁっと輝く。
「是非そうしましょう!」
決まったところでベルを鳴らし、ノエルを呼ぶ。
「注文は?」
「シャインマスカットと葡萄のパフェと桃のパフェを一つずつ。それとコーヒー。シルヴィは飲み物は何にする?」
「紅茶にしますわ」
「じゃあそれに紅茶も追加で」
「はい。じゃあ出来たら持ってくるわね」
注文を受け、ノエルは一旦退室する。
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