第13話 計算外② エミリー視点
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「廃嫡って……何?」
聞いたことのない難しい単語があったから、さっきから説明してくれているおばさんに素直に教えを乞う。
ここでわからないまま有耶無耶にしたらマズい気がするわ。
「王太子の地位を剥奪するということです。エドワード第二王子殿下がいらっしゃいますので、フィリップ王太子殿下が仮に廃嫡されても王家としては問題ないのです」
「廃嫡されちゃうと王子様でもいられないってこと?」
「そうです。廃嫡された場合、王族の籍から記録を抹消され、王家から追放になりますので王子殿下ではなくなりますね」
フィリップ様が王子様でいられなくなるなんて……!
フィリップ様には何とか頑張ってもらわなくっちゃ!
王子様じゃないフィリップ様なんて意味がないじゃない!
「とりあえず重要なことは説明しましたので、今日はこれで失礼します。明日は朝9時からレッスンを始めますので、それまでに着替えと朝食は済ませておくように。メイド長には話をつけているので、一ヶ月の期間、メイドの職は免除です。因みにレッスンの時間を短くする為にわざと寝坊したり、勉強する準備が出来ていなくてもその分は終了時間を遅らせるので、その分が短縮になることはありません。その点はご留意下さい」
ちぇっ!
わざと寝坊すればレッスン時間を短く出来ると思ったのに!
あたしの考えが見透かされてることに腹が立つ。
「それとこの客間への滞在は許可しますが、メイドを呼びつけてお菓子類を要求したり、着替えを手伝わせることは禁止します。室内のベッドメイキングと清掃はあなたが別室でレッスンを受ける為に不在時にするようお願いしてありますので、それは自分でやる必要はありません。あなたの肩書は王太子殿下の正式な婚約者ではなく、単なる婚約者候補なのでそれをお忘れなきよう」
そう言い残して家庭教師の一行は退室した。
***
翌朝。
眠い目を擦りつつ、昨日の家庭教師の一行の指示通り、早起きして準備をする。
寝坊することでレッスン時間が短くならないのなら、早起きして時間通りに終わる方がマシ。
雑用メイドの仕事も朝は早かったから早起き自体は苦手じゃないんだけど、勉強の為に早起きするなんて気分が上がらない。
9時ぴったりに部屋がノックされ、家庭教師がやって来た。
昨日は五人もいたけど、今日はおばさん一人だ。
「エミリー様、おはようございます。ちゃんと準備は出来ていますね。レッスンはフィリップ王太子殿下と一緒に受けて頂くことにしましたので、場所を移動します。ついて来て下さい」
「はーい」
何ともやる気のない返事をしたら鋭い声が飛んできた。
「こら、返事は伸ばさない!!」
「はい」
「昨日もあなたの言葉遣いに気になるところはありましたが、その指摘よりも説明することを優先していたので何も言いませんでした。今日からは厳しくいきます」
うわぁ~……。
これは話すだけでも疲れそう。
実家の貧乏男爵家じゃ言葉遣いなんて気にしたことなかったし、言われてみればメイド仲間もあたしみたいな田舎から来た子以外はみんな同じような話し方をしてたな。
他の子は言葉遣いを習っていたけど、あたしは話し方で個性を出す為にあえてそのままだった。
だって皆同じような話し方なんてつまんないでしょう?
着いた先は予備の執務室だった。
中に入ると、フィリップ様が見るからに不機嫌な様子で着席していた。
「フィリップ様、おはようございます!」
「ああ。エミリー、おはよう」
「時間がないので、早速、始めさせて頂きます。今回二人に学んで頂くのは、語学・歴史・地誌・算術・マナーです。本当はもっと色々学ぶ必要があるのですが、時間は一ヶ月なのでこの五つに絞りました。一日中同じ科目を学ぶのは飽きるでしょうから、一日の中で一つの科目について90分ずつ五科目全て学んで頂きます。ですので、午前8時半から午後7時までレッスンを受けることになります。この時間には授業の合間の休憩と昼休憩を含んでいます」
ううっ、そんな一日中なんて……。
拘束時間が雑用メイドの仕事より長くない?
「今からの時間は歴史です。まず、私がひたすら解説をしていきますので、しっかり解説を聞いてもらいます。メモは取りながらでも構いません。その解説が終わった後、テストをします。テストで点数が悪かったら追加で課題を出しますので、その課題をやって頂いて復習。明日、同じ箇所のテストをします」
授業を聞いてテスト……。
歴史なんて興味ないし、聞いてるだけで眠たくなるのに。
「まず、我が国アルスター王国の成り立ちからです。231年、現在のアルスター王国の地域にあたる場所に元々住んでいた先住民の民族に西方の軍人レオナールがこの地の征服を目的に戦いを挑み、先住民の民族に勝利。彼が王としてこの地を治めることになりました。つまり、レオナールを初代国王としてアルスター王国が建国されました。……」
こんな感じで歴史の授業から始まり、レッスン初日は終わった。
全ての授業に言えることはスパルタ方針だということだ。
特にマナーの授業なんて最悪だった。
実技形式でのレッスンだったんだけど、ちょっとお辞儀の角度が違うだけで物凄く怒られる。
田舎の貧乏男爵家出身のあたしは、一番上の兄と二番目の兄とは違ってマナーは専門の先生を屋敷に招いて習得していない。
単純に貧乏で先生を呼べるお金がなかったし、田舎の貧乏男爵家では嫁に行く先もハーマン男爵家と大差ないような家が想定されていた。
ぶっちゃけハーマン男爵家は男爵家を名乗ってはいるけど、生活状況を見ると平民より少しマシ程度で、ほぼ変わらない。
だからマナーも何もないような環境だった。
何でちょっとお辞儀の角度が浅いだけであそこまで怒られなくちゃいけないの!?
何でティーカップで紅茶を飲む時はカップを持っている手の小指をピンと立てちゃいけないの!?
スープを飲む時はズルズルと音を立てない、食べ物を口に運ぶ時は大きく口を口を開けない……そんなことを言われても音は出るし、いつも大きく口を開けているから今さらそうならないようにするなんて無理よ!
一事が万事そんな調子で、フィリップ様もあたしと同じくらい怒られてたから仲間みたいな感じがした。
とてもじゃないけど、これが毎日続くだなんて耐えられない。
頑張ろうとは思ったけど、これは明らかに無理よ。
あたしがこんなレッスンを受けなくても王太子妃になれる方法って何かないかな~?
その時、急にある考えが頭に閃いた。
そうよ、これなら完璧よ!
あたしはこっそりフィリップ様の私室を訪問した。
「エミリー? どうしたんだ? 部屋まで訪ねてくるなんて」
「あたし、いいこと思いついたの! レッスンを受けなくてもフィリップ様と結ばれる方法を!」
「一体どんな方法なんだ? 私もあのレッスンを受け続けるのは正直しんどいからどうにかならないかと思っていた」
「フィリップ様の婚約者だったシルヴィアに戻って来てもらいましょうよ!」
「どういうことだ?」
「婚約破棄をなかったことにして、シルヴィアをもう一回フィリップ様の婚約者にするの。そして彼女に表向きの王太子妃の役目をしてもらいましょう! これなら、私がシルヴィアより優れているところを見せる必要もないから、勉強を頑張る必要もない。彼女はあの家庭教師達のお墨付きをもらっているでしょうから、彼女に表向きの王太子妃の仕事を全部やってもらって、私達はのんびり優雅に贅沢に暮らすのよ。フィリップ様の子を産むのはあたしの仕事で、それはシルヴィアには一切やらせない」
「なるほど……! それなら私達が頑張る必要はないな。私は王太子だから重婚出来る。早速、父上のところに行って、話してみるよ。よく考えてみたら今まで私は勉強しなくても何も言われなかった。それはシルヴィアがしっかり勉強していたからだろう。私が何もわからなくてもシルヴィアがいれば大丈夫。……ということはシルヴィアが私の婚約者であれば問題がない。シルヴィアは私に婚約破棄されて次の婚約者などどうせ決まっていないはずだから、この提案をすれば泣いて喜ぶだろう!」
「フィリップ様、頑張って国王陛下を説得してきて! あたし達の明るい未来の為に……!」
「ああ!!」
――この時のあたしはフィリップ様にこの提案をしたのがまずかったことに全く気付かなかった。
まさかあんなことになるなんて思ってもみなかった――。
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