第12話 計算外① エミリー視点
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まさか貧乏男爵家出身のあたしが王太子妃、ゆくゆくは王妃になれるなんて。
こんなにうまくいくとは、あたし自身、思っていなかったからビックリしちゃった!
これから先は優雅で贅沢な暮らしが待ってる。
綺麗な宝石も流行最先端の素敵なドレスも美味しいケーキも苦労せず全てあたしの思いのまま。
実家の家族もフィリップ様の元婚約者のシルヴィアもざまぁみろ!!
***
あたしの実家のハーマン男爵家は田舎の僻地にあり、お話にならないくらいド貧乏だった。
ハーマン男爵家が治めているハーマン男爵領は面積が猫の額程度しかなく、地形的に雨があまり降らない為に農作物が中々育たない。
自分達で消費する分の農作物ですら満足に収穫出来ない。
そんな状況なのに、ハーマン男爵家は大家族だ。
あたしは五人兄弟で上に兄が二人、姉が二人もいて、あたしは末っ子だった。
パパとママは一番上の兄と二番目の兄にだけは跡取りとそのスペアとして恥ずかしくないよう教育と服装等でお金を使ったけど、姉二人とあたしにはお金を使うことはあまりなかった。
それでも一番上の姉は”我が家に最初に生まれた女の子”だから女の子用の新品の服を買ってもらえていたけど、末っ子のあたしはいつだって姉のお下がりばかり。
それに自分の兄弟が四人もいるせいで、たまに付き合いで両親が美味しいお菓子をもらってきても遠慮なんてしていたら自分の分はない。
末っ子だからと可愛がられたり優遇されることもないから、欲しい時は主張しないと手に入らなかった。
ド田舎の貧乏暮らしにうんざりしたあたしは王都に出て、自力で金持ちの美男子を捕まえることにした。
幸い、あたしは可愛く生まれてきたし?
珍しいピンク色の髪にピンク色の大きな丸い瞳。
身長が低くてちんまりしているところも男受けが良いはずよ。
金持ちの美男子が集まるところと言えばやっぱり王宮だ。
あそこには貴族の令息が文官や近衛騎士として働いていたり、王宮主催のパーティーに客として貴族の令息が来ることだってある。
王子様は無理でも誰かあたしを見初めてくれるはず。
だから、あたしは王宮でメイドとして働くことにしたのだ。
一口にメイドと言っても、王族の方々の専任のメイドや客人のお世話をするようなメイドは勤続数年のベテランにしか割り振られず、新入りは雑用メイドからだ。
雑用メイドは重たい洗濯物を洗って、かけて干す場所まで運んだり、書類や必要な道具を関係部署に届けたりといった使い走りや王宮の共有スペースの掃除などとにかく一日中こき使われる。
王宮の共有スペースとは、大広間やサロン、王宮勤めの人が食事時に利用する大食堂、王宮の中の階段や廊下などが含まれる。
いくら出会いを夢見てメイドになったとは言え、あたしはあまりの仕事量とその大変さに早くもくじけそうだった。
でも、神様はあたしを見捨ててはいなかった。
そんなくじけそうな時に出会ったのがフィリップ様だ。
あたしは確かに金持ちの貴族令息を捕まえることを目標にしていたけど、王子と出会うなんて全く予想もしていなかった。
自分の強運に自分でもびっくりしちゃう。
”田舎から一人、知り合いのいない王都に出てきて働き、給金を貧乏な実家に送る健気な女の子”という感じでフィリップ様に自己紹介をする。
……実際は実家に給金を送金するなんてことはないんだけど。
でも、アピール材料にはうってつけだったから、ついそう言っちゃった。
出会ったその日だけで終わらせるものかとお礼にかこつけてデートに誘い、それからも何かと二人で遊びに行くようになり、とうとうフィリップ様から告白されて恋人にまでなった。
あたしはフィリップ様のことが好きで恋人になったかと言われたら実はそうではない。
確かに見た目は良いが、あくまでも”王太子の恋人”という地位やフィリップ様の財力や権力が目当てだ。
このまま恋人で終わらせるなんて勿体ない。
王太子ということは次期国王。
フィリップ様の妻の座に収まれば誰もがあたしに跪く。
将来的には国中の女性で頂点の座に就く。
誰もがあたしの言いなりになるなんて、想像したら滅茶苦茶気分が良いわ!
そんな気持ちが芽生えた。
フィリップ様の方もあたしを妻に迎える気だったらしく、婚約者とどうやって別れるか悩んでいたフィリップ様にお誕生日パーティーでの婚約破棄を提案した。
フィリップ様が好きそうな”真実の愛”という言葉や”あたしたちの仲を引き裂く悪役令嬢”などの表現を使ってフィリップ様を煽る。
そして、一昨日のフィリップ様のお誕生日パーティーでフィリップ様が婚約者のシルヴィアに婚約破棄を突き付けた。
フィリップ様にはパーティーで婚約破棄を突き付けろと言ったけど、フィリップ様からは”婚約者は実家の権力で王太子の婚約者の座に無理矢理収まった”と前に聞いていたから、そんなすんなりとは認めないだろうと思っていたのにあっさり了承しちゃって拍子抜けしたわ。
公爵令嬢を捨てて選ばれた女という事実はあたしにとてつもない優越感をもたらした。
あのシルヴィアに勝てたなんて……!
パーティー後からフィリップ様の権限であたしはメイド用に宛がわれた宿舎の部屋じゃなく王宮の客間に滞在している。
フィリップ様からは”まだエミリーの為の部屋は用意出来ていないから、しばらくは客間で我慢して欲しい。部屋が用意が出来たらすぐ移動してきて”と言われたけど、宿舎の自室に比べたら、部屋の中の何もかも数段ランクが上であたしは十分満足していた。
いざメイドに美味しいケーキでも持ってきてもらおうと思い、呼び出し用のベルをチリンチリンと鳴らす。
すると、部屋のドアをノックする音が聞こえて、呼んだメイドが来たと思ったから「は~い」と返事をした。
でも、部屋に来たのはメイドではなく見たことがない人達だった。
「失礼します」
先頭にいる人がそう言ってドアを開け入室し、その人の後に四人が続く。
やって来たのは全部で五人。
中年の女性が三人に、中年の男性が二人。
彼らの服装は紺色のローブ姿で明らかに使用人の制服じゃない。
「あ、あなた達、一体誰よ!? あたしはメイドを呼んだつもりなんだけど?」
「初めまして、エミリー様。我々は王宮に雇われている家庭教師です。王子殿下や王女殿下に学問やマナー等をお教えするのが仕事です。あなたを王太子妃として相応しい淑女に教育して欲しいと国王陛下のご依頼を受けました」
寝耳に水な話を聞かされてあたしは混乱した。
「王太子妃として相応しく教育!? なんだってそんなことに!? 王太子妃って贅沢して優雅に暮らすものじゃないの!?」
「贅沢して優雅に暮らすって物語じゃあるまいし、そんなことあるはずないでしょう。王族の女性は、綺麗に着飾ってにっこり笑って適当にやり過ごせば良いというものではないのです。その地位にふさわしい品格と教養をしっかりと身につけねばなりません」
五人の内、一人の中年女性があたしの主張を鼻で笑って否定する。
この中年女性はさらに言葉を続ける。
「それはさておき、要件だけ伝えておきます。あなたは明日から一ヶ月、我々のレッスンを受けて頂きます。そして、一ヶ月後、レッスンを受けて学んだ成果をテストします。そのテストの結果で及第点が取れれば、国王陛下はフィリップ王太子殿下とあなたの婚約を一応は認めるそうです」
「え~!? 国王陛下夫妻は認めてるんじゃなかったの? 婚約破棄を突き付けた時、確かフィリップ様は国王陛下夫妻は認めてるって言ってたけど?」
「あれはフィリップ王太子殿下が勝手にそう言っただけで、実際には国王陛下夫妻には話は通ってなかったのです。陛下は大層お怒りでした」
「そんなぁ~! あたし、勉強なんて大嫌いなのに……」
「シルヴィア様の後釜に収まったのだから、彼女と同等かそれ以上に優れた人物であることを示さなければ納得する者なんていませんよ。因みに今、この場にフィリップ王太子殿下はいらっしゃいませんが、後ほど殿下にも説明し、あなたと同じことをさせます。殿下の場合は及第点を取れなければ廃嫡です」
シルヴィアと同等かそれ以上優れたところを示すなんて……。
シルヴィアをフィリップ様の婚約者の座から引きずり降ろして、新たな婚約者に選ばれた優越感に浸っていたけど、呑気にそんなことを言ってられないかもしれない。
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