異世界で御作仁は怠けたい 3話
白日の光りの下、肉付きの良い少女の白い太股が投げ出される。
新雪のような、と表現するにはいささか健康的で、むっちりとした、色艶やかな肌色、目に眩しく映り、下着のフリルとリボンの数までもが詳らかにされてしまう。このような形でペティーコートの中の秘密を暴かれるのは、少女としても本意ではないだろう。
胸と腰の起伏の激しい大人びた体とは裏腹に、少女らしい意匠の扮装で、年相応のあどけなさを感じさせられる。
「おーい、大丈夫か?」
「み、見たらだめよぉ」
カルラが必死になって少女のスカートの裾を戻そうと奮闘しているが、そもそも両脚を本来あるべき位置に戻さなければ意味がない。人の足は頭の上に有るべきではないのだ。どうにもこの妖精の資質というか、空回りする性質が透けて見えるよう。
仁は元々眠たげで呑気な顔つきなのだが、斜に近い目つきがすべてを台無しにしている。
他人から見れば世界を憎み、妬んでいるように見える、が、目元さえ隠せば、倦怠を帯びた若隠居に見える。かも知れず。
本来は性欲よりも怠け欲が優先される彼であったが、少女の下半身に向かって声を掛けたのは、彼も助平心のある男でる所以か、それともただ頭の位置まで移動するのが面倒くさかったのか、睡眼じみて濁った目から窺い知ることは出来ない。一応視線はそれを見ないように明後日の方角で固定はしている。
が、傍から見れば好色な暴漢にしか見えないであろう。
少女は「へぎゃ」とか「ぐえ」だとか、奇妙なうめき声を上げ、時折手足がぴくぴくと痙攣したように動く。
仁はひっくり返った少女の。
動きと白い服と肌を見て、解剖前の蛙を思い起こしたという。
「はぁ、まったく面倒ごとばかり増える……」
溜息をつきながら|吐瀉物(キラキラした物)に掛けられた手巾をちらり。
離れた場所にあるが、間違っても踏まないように、よっこいしょと、年寄りじみた動きで少女の足を降ろしてやり、捲れたスカートも直すと、緩慢な動きで少女に手を差出すが、力のこもらない動作に、少女が手を取った瞬間ふらりと支えきれず倒れそうな雰囲気で。
「ほら、早く捕まれ」
「え、は、はいぃ。ありがとうございますぅ」
「どっこらせっと……」
若さを感じさせられない、くたびれた仕種で少女を引っ張ってやると、彼女はノロノロと起き上がった。
ふわりとした栗毛と、垂れ目がちな瞳、清潔そうな白い法衣には隠しきれず主張した胸部の、くりくりとした可愛らしい少女であったが、手にした複雑な紋様と文字が刻まれた杖から、彼女は魔術師であろう。
「ごめんなさーぃ。ごめんなさーぃ」
ぺこぺこと頭を下げる度に、癖毛がぴょこぴょこと飛び跳ねている。
その髪の生き物じみた動きに、ついぼんやりと眺めてしまった。無言でじぃっと。
少女はそんな仁の視線に耐えきれなくなったのか、怯えたように杖を抱きしめると。
「あ、あのあの、わたしなにか悪いことをしましたかぁ!! も、もしかして、なにかお気に障るようなことをしてしまいましたかぁっ!!」
半ば狂乱状態になりながら。
仁としては非難しているつもりはない。
ただ、ちょっと動きが面白くて見ていただけなのだが、少女には当たり屋のちんぴらにでも見えたのか、顔がかわいそうなくらい青ざめてしまっている。
「大丈夫よ。この人はちょっとぱっとしなくて無愛想で無遠慮で目つきが悪くいつも怠けることばかり考えているダメ人間だけど、怒ってないよ、たぶん」
「おい」
「だってずぅっと暇なら眠っているような奴よ。あなたの下着みたんだし、むしろあなたにお金を払うべきだとあたしは思うのよね!」
「ええと……」
連射魔術でも掛けられたのか、次から次へとぺらぺらぺらぺら。
仁は頭痛を覚え、目頭辺りを押えながらカルラに向き直る。
「ほら、金銭の要求をあたしが許すわ。取り分は5:5で良いかしら。それに――」
「ダメ妖精」
「ななな、なにを突然言うのかしらっ」
「欠陥妖精」
「うぐぅっ」
「口だけは達者だがそれが役に立ったことはあるのか。やーい役立たずぅ」
「うぐぅぅぅっ」
「ここに来た最初にしたことと言えば盛大に吐瀉物をぶちまいただけのロクデナシぃ」
「うぐげはぁぁっ」
「まだ家畜やペットのほうが癒しがある分お前の何倍も役に立つ。家畜以下の妖精ぇ」
「もうやめてぇぇぇっ!!」
カルラは胸を矢で打ち貫かれたかのような断末魔をあげ、苦しそうに胸を押えてうずくまると、そのままべそべそと泣き出し、地面にのの字を書き始める。「あたしだってだって……」と呟く声が鬱陶しい。仁はそんな彼女の様子に満足げに頷いた。
「うむ。悪は去った」
「あのぉ」
「ああ、すまない。こいつの話が終わりそうも無かったからな。有ること無いことべらべら喋りやがって。こうやって強制終了させてやらんといかん。ちょっとの間おとなしくなるだろう」
「ごめんなさい。わたしそそっかしくて、ほんとうにごめんなさい!!」
「いや、そんなに謝られても困るんだが。なんか、俺のこと怖がってないか?」
びくりと肩を震わせたのは恐怖からか。
先ほどの仁とカルラのやり取りを見ていたからであろうか。
自身にどんな責め苦を浴びせられるのかと恐々としているからだろうか。
「そ、そんなことありませんよぉ。わたしはエルヴィーラっていいます。気軽にエリーって呼んで下さい。ええ、ほんと、気やすい感じで構いません。だから酷いことをしないでくださいぃ。あっ、そうです。もしも、もしもわたしのせいでお怪我をなされていたら、治します。ええ、治療が出来ます。わたし治療の魔術だけは得意なんですよ!!」
エルヴィーラは慌ただしく落ちていた杖を拾うと、にへらと作り笑いを浮かべる。
そして杖の文字を指でなぞると、熱病に浮かされたように顔を赤らめる。きっと恐怖心からなにか切迫した感情がせり上がってきているのだろう。
まるで仁になにかされないかと必死で尽くそうとしているよう――――
――――――――本当に?
ぎゅっと杖を握る手には力が込められ、両眼が爛と輝き、期待に満ちあふれた視線で仁を凝視。鼻息まで荒くなっているのはいかがな了見だろうかと、奇妙な笑い顔と、その熱のこもった気迫に仁は思わず後ずさり。
なにか嫌な予感がして彼女の提案を断った。
「いや、間に合っている」
「そんな! いえ、傷が無くても治します。治させて下さい。わたし人に治療魔術を掛けるのが好きなんですよぉ」
「そんなこと聞いていないんだが」
「やっぱり治療魔術を受けるべきだとあたしは思いますぅ。せっかくですし、鉄は熱いうちに叩き折れっていうじゃないですかぁ」
「意味が分からんし。折ったらダメだろう。そもそも必要ない」
「必要ないとか関係ないですぅ、わたしが掛けたいんですよぉ!」
「えぇぇ……」
仁には彼女の瞳がぐるぐると渦巻いているように見えたという。
中毒者のような妖しい笑みを浮かべ、涎まで垂らしそうで、先ほどの美少女とは打って変わって様子がおかしくなっていった。さながら物語の中で出てくる大鍋を前にした老婆のよう。仁は治療魔術という名の大鍋に放り込まれてぐつぐつ煮られるのではないかと不安に駆られる。
早く早くとせがむエルヴィーラに、尖って、据えた眼差しを向けると、大声で叫んだ。
「ええいっ、正気に戻れ!」
壊れた機械を直す容量で手刀を叩き込む、訳にもいかず。
エルヴィーラの鼻頭を軽く指で弾く。つまりデコピンならぬ鼻ピンであろうか。
「あぅ、はっ、わたしはいったい……」
「ふう、危ないところだった。治療中毒とでも呼べばいいのだろうか……。おい、俺は健康だ。いいな。健康だ。治療は必要ない」
「は、はいぃぃ、ごめんなさぃぃぃ」
「ところで治療が必要のない人間に魔術を掛けようとしていたが、その場合どうなるんだ。血行でも良くなるのか?」
「高血圧になります」
「おい」
「心臓病の原因にもなります。何事も過ぎれば体に毒だということですね」
「こら」
「治療魔術の為の仕方ない犠牲です」
「おいこら」
仁は半眼で睨み、こめかみを揉みながら呟く。
「なにもかも放り出してどこかで小一時間くらいだらだらとしたい気分だ――が、出来ない。この悪逆非道な首にある魔術のせいで……。なあ君、これが夢であって欲しい。というのは俺のわがままだろうか?」
「ええ夢なんかじゃありません。ですが大丈夫です。その一歩は辛いかも知れませんが、勇気を出して下さい。現実はそんなに怖いものじゃありませんよぉ。ほら、きっと、たぶん、わたしは応援しています。ふれーふれー」
「ああぁあああぁあ、この妖精といいなんで俺の周りにはこんなのが集まるんだっ、あれか、戦乙女の呪いかっ、いや、あの人たちははそんなめんどくさいことするぐらいならぶん殴りに来る」
本人等が聞けば怒り狂って槍を手に取り襲いかかって来ること間違いなし。
「ああっ、そうでした。わたし、逃げていたんですっ。ダメです。早く逃げないと……」
気の抜ける応援歌を歌いながら、杖を掲げていたエルヴィーラが突然思い出したようにぽんっと手を叩いた。
すると仁達に向かって軽く会釈をし、気疾に走り出す。
おっとりした印象のエルヴィーラとは思えないほど妙に鋭い動きで、すばしっこい栗鼠か鼠のよう。
仁が呆気にとられる間もなく、そのまま視界からすっと姿を消した――と思われたが。
「ははは、こんな所に居たのですか。探しましたよ。しかしこれほど早く再会することが出来るだなんて君と僕との間に運命的な何かを感じませんか? 感じない? それはおかしい。僕の胸は今にも張り裂けんとばかりに高鳴っていますのに。ああ、ドキドキと……教会で鳴り響く鐘のごとく。ごらん、あれが雷神の槌だよ――――と、話しが逸れてしまいました」
ぬっと、人混みの間隙を縫うように現われたのは、真っ白なスーツじみた鎧を着込んだ、どこか軽薄そうな男で、髪はきっちりと整髪料で固めぴくりとも動かない。
いちいち芝居がかった動作で、鬱陶しいことこの上ない。
「さあ、それでは僕と逢瀬を楽しもうじゃありませんか」
「い、イヤです」
「では、この契約書に署名を……」
「し、しません」
「今なら薔薇をあしらったチョーカーにブレスレットにアンクル、装身具なども用意しています。ほらこれ、なかなか良い出来でしょう。僕も気に入っているんです」
「そのじゃらじゃらとしたものは鎖じゃないですかぁ」
「ふふふ、可愛いらしいアクセサリーでしょう。このワンポイントがきっと君に似合うと思うんですよ」
「それって、ぜんぶ合わせると拘束具って名前になりませんか?」
男はやれやれと頭を横に打ち振ると盛大に溜め息をついた。
「はぁぁぁ、そんな品のない言い方は止めて頂きたい。愛の茨と呼んで下さい。僕の愛は君の首に棘のチョーカーを付け、僕の愛は君の両手両脚を制限し、僕の愛は人々に君の羞恥と恥辱の姿を見せるでしょう。やはり、淑女たる礼儀作法も教えないと行けませんねぇ。大丈夫です僕は寛大ですので。少しの粗相は慈愛の心を持ってして許しましょう。まずは基本動作です。さあ、そこで四つん這いになって――」
「いやぁ、気持ち悪いぃぃぃ。誰か、誰か助けて下さいぃぃぃぃ」
エルヴィーラが振り返った先には、眠たげにすぼまった眸。
彼と彼女の視線が合わさる。
ふいっと、仁は慌てて別の方角に顔を向けるが、彼女は天から垂らされた蜘蛛の糸を見つけた罪人のような顔になる。きっと地獄の罪人の渉りに舟といった心情で、じっと彼を見て、さながら一緒に血の池や針山を渡る仲間を見つけたような。
いや、むしろその糸の先頭を昇るのは仁であり、後から追いすがるのがエルヴィーラ。
そうであるのならば、最後は仁が「降りろ」と叫んで、運命を共にするのがお約束というものだろう。
「この人。わたしの、えっと、さっき出会ったばっかりですけど、きっとたぶん父親が違う腹違いの生き別れの兄とかそんなんだと思います。もしくはわたしを助けてくれる守護霊的ななにかですっ!」
「こっちに火種を投げやがったっ。俺は関係ないだろう! それに父違いの母違いって、赤の他人じゃないか!?」
「ほほぅ、そこの御仁。僕の邪魔をするというのですか。それも結構。だが容赦はしませんよ。はははは」
巻き込まれたと確信した瞬間、頭が酷く痛んだ。
毒石を砕く玄翁で、ぐわんと思いっきり殴られたような、鈍い痛みを発し、
このまま高い尖塔にでも昇って、『先立つ不孝をお許し下さい』などと手紙を残し、身投げしてしまいたい衝動に駆られたが、ぐっと踏みと止まり、辛抱強く堪えた。
「はーはっは、守護霊とは言い得て妙ね。とても面白いわ!」
「復活したのか」
「このカルラさんが何時までも落ち込んでいると思ったら、大きな大間違いよ!」
微妙に重複した言葉を使って、意気込みだけは大したもので。
守護霊と言うよりも、一応は英霊なのだから間違いではない。とはいえ今は半生半死の状態と言えばよいか、体は生身であるため死ねば辿り着く先は地獄だが。
「ああ、喜びの地に帰りたい……」
仁はぽつんと、誰にも聞こえないつぶやきを漏らしたという。
「それよりもなんでこの娘に執着するのよ」
「そんなもの決まって居るではないか」
カルラが男に尋ねた。
エルヴィーラはいつの間にか仁の後ろへと隠れたのか、ベルトをがっしりと掴んでいた。
ちょん、と裾でもつまめばかわいげがあったかもしれないが、仁が逃げ出さないようにがっしりと、下衣の中にまで指を突っ込むという有り様。
「彼女がその癒しの魔術で人を助ける姿を見て感激したのです」
「もしかしてその姿を見て恋したってこと?」
「いや、清純で可憐なものを、こう、汚してみたいと思いましてね」
人を助けるというよりも、実際は回復ジャンキーなだけなのだが。
男は芝居がかった仕種で、演説するように、滔々(とうとう)と語り出した。
「僕は思ったのです。清廉潔癖な人間が無様にも蹂躙される姿を見ると心が躍る、とね。清純な、可憐な、触れば手折れてしまう花のような、そんな人間が虐げられ、悪しき畜生の毒牙に掛かる姿を想像すると、こう、辛抱たまらないものが込み上げてくるのですよ。それなのになぜ、物語の多く苛烈に苛めぬかれたはずの少女達に光明が差すという展開ばかりだっ。灰被り姫だって、赤い花だって小鳥のまま飼い殺されればよいと言うのにっ。僕はそれが納得が出来なくて。だから思ったのです。無いのならば作ってしまおう、とね」
「うわぁ…………」
周囲の人間が一斉に、苦虫どころか毒のある蟲と草とを煮込んだ蟲毒じみたスープを飲み干した顔になった。
男の度を超した変態さに溜め息が出るばかり。
「そしてっ――」
「まだあるの!?」
「当然だとも。夢は大きければ大きいほど良いと、父上から教わりましたので」
「お父様もそんな風に教えたつもりはなかったでしょうに」
「したがって僕の夢は果てなく大きく、あの海原のように。ほら、見てごらん。大波が来るよ。もしかして今年一番の津波かな。あれ、呑み込まれる!? ぎゃぁぁぁ――――と、話が逸れました」
まるで正気を喪失した人間の言動に仁は冷や汗どころか大粒の汗が垂れるのを感じる。
普段ならば絶対に関わり合いになりたくない手合いだが、すでに片足を沼に突っ込んでしまっている。その事実に仁は頭痛どころかくらくらと目眩までしてきたようだった。
もしも変人アレルギーなどというものがこの世に存在するならば、こういうことなのだと強く確信する。
「それから先ほどのチョーカーとブレスレットとアンクルを付けて、ペットとして飼おうと思うんです。犬や豚や魔物と番にさせるのも面白いです。ああ、その可愛らしい顔を歪ませるところを想像すると――絶頂すら覚えます。家ではそんな衣類なんて無粋です。さあ、この真っ赤なリボンと装飾品があれば良いでしょう。ははは」
愉快そうに笑うが賛同は得られず。
遠い目をする仁と、恐怖に身を竦ませるエルヴィーラと、呆れ目のカルラ。
「それはもう、犯罪なんじゃ……」
「何を仰いますか。同意があれば問題ないでしょう。だからこの主従契約書に署名を」
「…………」
仁は一言も発せず、男の手にある契約書を引ったくると――破り捨てた。
誰も祝福されていない、くす玉から飛び出た紙吹雪のようにぱらぱらと彼等の頭上を舞う。
きっと、くす玉から飛び出す垂れ幕には『祝』ではなく『スカ』とでも書かれているだろう。
「ひどいではないですか。予備を持っているから良いですが」
男は、ぱっとどこにしまっていたのか、何枚もの同じ契約書を取り出す。
すべてを奪って破り捨てても、無限にわきでてきそうな錯覚に陥る。
徒労感ばかりが募ってきて、いっそ殴り倒してしまおうかと胸の裡で考えると。
「ふむ。どうやら君もエルヴィーラちゃんを狙っているようですねぇ」
男はじっとりと、粘性をともなった声で語りかける。
体中にまとわりつく蛇のような、厭らしい毒を含ませる。
「ならば決闘をしようじゃありませんか。君と僕で。なぁに勝った方がこの契約書にサインをして貰えるというのはどうでしょうか?」
「えぇっ、わたしの意思も聞かず勝手に決めないでくださいよぅ」
「君の意見を聞けば書くのですか?」
「いいえ」
「ふふふ、僕も荒事はあまり好まないのですがね。しかし僕には君がこの契約書にサインをしなければならない弱みを握っているのですよ」
「そんなっ、いったいどんな弱みを」
「君のお気に入りの店を買収して、君を出禁にしてもらうのですよ!」
「あぁっ、なんて恐ろしいことを…………」
「ふふふ、ならば祈るとよい。彼か僕か。もちろん僕を応援してくれますよね?」
「ああ……。あの焼き菓子が美味しいカフェに行けなくなるなんて……この世の終わりですぅ」
「そうよ。女の子のお茶の邪魔をするなんて。なんて非道な男なの! ジン、こいつぶん殴ってなんとかしてよ!」
カルラが途中で割って入ってくる。
「嫌だめんどくさい。それにしても他人任せだなぁカルラさんや。自分でやればいいだろう」
「こんな非力なあたしに出来ることなんてあんまり無いわ!」
「開き直るなっ。じゃあ、君に出来ることってなんだ?」
「応援とかよ。ふれーふれー!!」
「それはもういいっ!!」
どこからか取り出したボンボンをしまいながらカルラが言う。
「それに、さっさと終わらせたほうが面倒無くて済むと思うよ。だって、あの子、逃げればどこまでも付いてきそうだし」
「ええ、もれなくわたしが着いていきます。どこまでも着いていきます。それこそ地獄までおともいたしますよ!」
「あそこは二度とごめんだっ! 分かった。やればいいんだろう!!」
半ば自棄になりながらも男の前に立ちふさがったのだった。
――怠けポイント30
――戦乙女からの一言『禍根は追いかけて追いかけて追いかけて根こそぎ断て』