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おじいちゃん

作者: 八町

 隣の家のおじいちゃんが亡くなった。「お前も、母ちゃんと一緒に線香でもあげて来い」と父に言われて、僕は母と一緒に隣の家に行った。小学四年生の僕にとって、死体を見たのはそれが始めてだった。線香の香りが漂う一番奥の座敷に、白装束を着せられて隣のおじいちゃんは横たわっていた。隣のおじいちゃんは、お酒を飲むといつも上機嫌で僕に話しかけてきたが、その死体の顔は表情がなく、悪い言葉で言えば、蝋人形のような冷たさが感じられ、あまりいい思いのするものではなかった。でも、隣の家の人が、みんな涙を流していたのは、はっきりと覚えている。


 その年の秋、今度は僕の家のおじいちゃんが心筋梗塞で亡くなった。前日まで元気だったのに、朝、母がなかなか起きてこないおじいちゃんを起こしにいったら、その時は既に死んでいたらしい。しかし、見たことのない親戚やら隣近所の人が集まって、おじいちゃんが亡くなったことより、家が賑やかになったことの方が、僕にとっては印象的だった。まだ、死というものについてよく理解出来なかったから、そう感じていたのだろう。ただ、白装束を着せられて、表情のない、おじいちゃんの死体を見て、隣のおじいちゃんの死体に感じたような嫌悪感は覚えなかった。僕はおじいちゃん子だったから、そういった感情を抱かなかったのかも知れない。


 告別式が終わり、みんなで火葬場に向かった。火葬場の職員がいろいろと説明しているのを、僕は退屈な顔で聞いていた。

「それでは、最後のお別れをして下さい」そう言って職員は棺おけの上の扉を開けた。そこからはおじいちゃんの顔が見えた。僕は母の後についてその顔を見た。その時、死ぬ前日のおじいちゃんとの会話を思い出した。


 僕はランドセルを放り投げると家を出た。

「どこに行くんだ?」おじいちゃんが僕に聞いた。

「これから、川に魚取りに行くんだ」

「そうか、気を付けて行くんだぞ」

 ただ、それだけの会話を、ふと僕は思い出したのだ。僕の目にはみるみるうちに涙が溜まった。「おじいちゃん!」僕は大声で叫んだ。僕には、いつもやさしかったおじいちゃんの顔がそこに見えていた。


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