5.小さな光
ハノーバーさんは仕事を手早く片付けると、エイブルに子豚の世話の仕方を教えながら、白耳子豚の体をきれいに拭きあげました。それから、子豚用の特製飼料をバケツに入れました。
「家は近くかい?ここまでは車で来たのかな?」
「はい、そうです。ここから、車で30分ぐらいです。」
「となると…。うちの車に白耳を載せて、君についていけばいいね。」ハノーバーさんが事も無げに言うので、エイブルは驚いて、
「そこまでしてもらっては…。」と言いかけたましたが、それを遮るように、
「いいから、いいから。」と、ハノーバーさんが明るく言いました。
実際、エイブルは子豚が大人しく車に載っていてくれるか心配ではあったので、ハノーバーさんに甘えることにしました。
白耳子豚は、農場の車に載せられて、車が揺れても動かないように繋がれました。そして、車から降ろされてエイブルが白耳子豚を優しく抱きかかえました。その間白耳子豚は本当に大人しくされるがままになっていて、鳴き声の一つもあげませんでした。
「じゃあな、白耳。いい人にもらって貰えて良かったな。」ハノーバーさんは、白耳に言いながらその頭をそっと撫でました。
「ありがとうございました。このお礼は、必ず。」
「ああ、お礼はいいけど、何かあったらいつでもおいで。」
「はい。本当に何から何までお世話になりました。」
たくさんお礼を言ったエイブルは、ハノーバーさんの農場の車を見送ると白耳子豚を抱きかかえたままで後ろを振り向きました。
「ほら、これが今日から君のお家だよ。小さいけど庭もあるし、気に入ってくれるかな?」
そして、白耳子豚を左脇に抱え直すと、上着のポケットから玄関ドアの鍵を出して、ドアの鍵穴に差し込みました。鍵を開けると、ドアを開けながら、
「さあ、お家についたよ。」と言いました。
すると、それまでまるでぬいぐるみのように、大人しく抱き抱えられていた白耳子豚でしたが、エイブルのその言葉を聞いたとたんに、もぞもぞと動きだしました。あまりに急に動きだしたので、不意を突かれたエイブルは、左腕だけでは白耳子豚の体を支えきれません。
「危ない、危ないよ。」
白耳子豚は、ずるずると左腕からずり落ちていきます。白耳子豚はエイブルが屈んだので後ろ足でエイブルの左腿をぽんっと軽く蹴って、無事に着地しました。
「急に動きだすから、びっくりしたよ。」
白耳子豚はエイブルに向かってちょっと振り向くと、すぐに前を向き鼻をくんくんさせながら、弾むような足取りで部屋の中に入っていきます。
「ええっ?今まであんなに大人しかったのに!」
それから白耳子豚は右や左に鼻を向けて、くんくんしながら部屋の壁沿いを歩いていきます。時折立ち止まっては確認するかのように顔を上げて鼻をくんくんします。そして、部屋を一周すると今度は真ん中に置いてあったテーブルとソファーに近寄り、盛大にソファーの匂いを嗅ぎはじめました。
くんくんくんくんくんくん。
ふごふごふごふごふごふご。
それから、まるでステップを踏むかのように、足が踊ります。
たんたんたんたんたんたん。
最初はびっくりしていたエイブルでしたが、白耳子豚の様子に
「どうやら家を気に入ってくれたみたいだ。」と安心しました。
「うん、それなら、名前がいるな。名前をつけなきゃ。何がいいかなぁ。」
子豚にそう言いながら近寄りました。白耳子豚は、たんたんたんたんと、足を踏み踏みしています。
たんたんたんたん。
白耳子豚の足音が楽しげに響きます。
「よし、たんたんだな。君の名前はたんたんだ。」
エイブルが白耳子豚に向かってそう言うと、白耳子豚は足を止めてエイブルを見上げます。エイブルは白耳子豚の前にしゃがみこんで白耳子豚の顔を覗き込みます。
「どう?気に入ってくれた?」
エイブルが白耳子豚に聞くと、
「あれ?」
その時エイブルは、白耳子豚の目に小さい光が宿った気がしたのでした。