4. エイブルの決断
エイブルは考えながら足を前に進めていましたが、その歩みはだんだん遅くなりました。
「僕は…子猫と一緒にお昼寝をしたり…。子犬と庭で遊んだり…。」つぶやきながら、更に歩みが遅くなります。
「だけどそれを子猫でも子犬でもなく、他の動物でもできるとしたら?一緒に行きたいって、そんな目で見られたような気がしたら?ああ、でも、本当にそんなことができるだろうか。」
エイブルの頭の中で考えがぐるぐる巡ります。
子猫が待っている案内棟はもう目の前にあります。
エイブルの足が止まりました。
「いや、許してもらえるはずはない。」
エイブルは案内棟に向かってもう一度歩きだそうとしたのですが、その前にまるで体が勝手にしたように、後ろを振り向きました。
思ったより、養育舎は後ろに離れていました。
けれど、作業をしているハノーバーさんが見えます。
そして、その足元に青いバケツと、そして、そして…、小さいけれどその横のピンク色は…。
ああ、確かにこちらを見ています。ピンク色の上にはっきり白色が揺れています。
その時、エイブルが振り向いたのが分かったのか、ピンク色は一歩前に出ました。
それを見た瞬間、もうどうにも気持ちが押さえられず、エイブルは養育舎に向かって、今歩いてきた道を早足で戻り始めます。
ハノーバーさんは、青年が歩き出したのを見送って何となく胸に何かつかえたような気持ちを持ちながら、作業にとりかかりました。
横目で白耳を見ると、バケツには見向きもせず青年の後ろ姿をじっと見ています。
「いや、それがいいなと思ったけど、向こうにも都合ってものがあるし。もともと、子猫が欲しくてうちに来たんだ。あきらめな。」白耳に言いながら、ハノーバーさんは自分にも言い聞かせるようにつぶやきます。
けれど、白耳はまだじっと遠くなる青年の後ろ姿を見ているので、一つため息をついて、ハノーバーさんはまた作業にとりかかろうとしたその時でした。
白耳が一歩前に出たのです。
今まで白耳は外に出しても、ハノーバーさんの足元から動かず大人しくバケツからご飯を食べるだけでした。その白耳が?
ハノーバーさんは、右の肩越しに後ろをゆっくり振り向いてみました。するとあの青年が、こちらに向かって歩いてくるのが見えました。
ハノーバーさんは、もうすべて分かったようににっこり微笑みました。「うん、やっぱり、それがいい。」
その時、早足で戻ってきた青年がハノーバーさんに声をかけました。
「すみません、あの、やっぱり子猫じゃなくて…。そちらの子豚を譲っていただくことは出来ますか?」
それから、一時間後、ハノーバーさんは作業が終わるまで待っていた青年と子豚を農場の車に載せて、青年の家に向かっていました。
「まさか本当に、大事な子豚を譲っていただけるとは、思っていなかったです。ありがとうございます。」
「いや、いいよ。俺も子豚を飼って長いけど、こんなことは始めてだよ。けど、この白耳を見ていたら、一回ぐらい構わないかと思ってな。」
「それに、ご飯にお世話の仕方に、いろいろ教えてもらって、なんとお礼をしたらよいか。」
「うん、白耳を大切にしてもらえるんなら、いいよ。この白耳は、出荷でもなく、母豚でもなく、誰かにずっと大事に飼ってもらうのが一番だと、本当にそう思ってたんだ。こっちこそありがとう。」
そんな会話を聞いているのかいないのか、白耳子豚はエイブルの腕の中で、じっとしています。時折エイブルが白耳子豚の顔を覗き込むと、白耳子豚は白耳をぴくぴくさせながら、エイブルの顔を見上げます。
ハノーバーさんはその様子を見ながら、やっとこのところの悩みが解決したなと、ほっとしていました。