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3.エイブルの思いつき

 青年の名前はエイブルといいました。

 エイブルは、先月まで都会で一人故郷から離れて暮らしていたのですが、あまりに仕事が忙しく朝から晩まで働きに働いて、心身ともに疲れきっていたところに、故郷の両親が相次いで亡くなってしまいました、

 エイブルはすっかり気落ちして、都会を離れて故郷に帰ってきたのでした。

 家は小さいながらも両親が残してくれたし、新しい仕事も思ったより早く見つかり、ようやく気持ちが落ち着いてきたところでした。


 ところが、今までは家に居てすることと言えば、お風呂に入ることと、着替え、眠ることだけだったエイブルにとって、何もしなくていい休日というものに困惑していました。最初のころは休日を心待ちにして、寝たいだけ寝るという生活でした。けれどこれまでの疲れも取れたのでしょう。だんだんそれにも飽きてきました。そうなると、休日に何をしたらいいのかわからなくなったのです。小さい家なので、掃除もすぐ終わります。洗濯だって一人暮らしの洗濯物の量など大したことはありません。自炊には慣れていますし、たいてい朝はコーヒーだけ、お昼過ぎにちょっとトーストを食べ、夜はお肉と野菜を炒めて、グラス一杯ワインを味わえばそれで満足でした。

 ただ、エイブルの住んでいる家の庭は、田舎だけあってわりと広いものでした。誰も手入れをしていないので、だんだん草が伸びてきています。やっと家から庭に目が向くようになったエイブルは、初めて庭が荒れてきていることに気がつきました。

「これは…。う~ん、このままでは家が草に埋もれてしまうなぁ。やれやれ。草との戦いを始めなくては。」

 そうしてエイブルは、休日に庭仕事をすることにしました。

 始めてみると、空の青さや風の気持ち良さ、土の匂いや感触に心が安らぎます。

「やっと人間に戻った気がする。」エイブルは苦笑しながら、つぶやきました。

「さて、一休みしようかな。」

 エイブルは、いったん家の中に入り、丁寧にコーヒーを入れました。それから、庭の隅に小さな椅子を出して、コーヒーを片手に座ると満足そうにあたりを見回しました。

「うん、思ったよりきれいになった。あとはこっちをやらないといけないなー。しかし、毎回休日に草取りもなかなか大変だし。山羊でも飼うか。」

 上機嫌のエイブルは、一人で冗談を言って、一人で笑います。

「いやいや、山羊なんて…。無理だろ?」

 ふと、エイブルは真剣な顔になりました。

「山羊はないとして。だが、子犬か子猫ならいいんじゃないか?」

 エイブルは、子犬や子猫がいる生活を思い浮かべます。

「子犬なら、この庭を喜んで駆け回るだろうし、散歩も一緒に行けるなぁ。子猫なら、庭で遊べるし、疲れたら一緒にお昼寝するのもいいな。」

 思いつくと、いてもたってもいられなくなってしまったエイブルでした。

「確か、先週子猫を譲るって広告を見た気がしたが、どこにやったかな。」


 そうして、エイブルはハノーバー牧場へとやってきたのでした。


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