1.小さな白耳子豚
とても心地よい風が吹く、晴れた日の午後のことです。
ハノーバー牧場に、たくさんの子豚がいました。
牧場主のハノーバーさんは、「今年の春はたくさん子豚が生まれたなぁ~」と言いながら、嬉しそうに子豚たちが柵の中で、押し合いへし合いしている様子を眺めています。
先月生まれた子豚たちは、すくすくと大きくなって今は母豚と別れて養育舎で暮らしています。
「よしよし。さあ、ほら、ご飯だよ。たくさん食べて大きくなってくれよ。」
そう言いながら、子豚たちのえさ箱に特製の飼料をバケツで山盛りに入れていきます。
「プビー、プビッ」と鳴きながら子豚達がえさにありつこうと、えさ箱に群がります。
満足そうに子豚達の様子を見ていたハノーバーさんですが、その時一匹の子豚が目に留まりました。
「うん?あの子豚だけ、耳が白いなぁ。いつの間に白くなったんだろう。産毛の間はみんな同じだったのに。」
体が小さくて他の子豚の中に割って入れず、まだえさが食べられないでうろうろしている子豚達の中に、一匹だけ耳の毛が真っ白な子豚がいました。その子豚は、体が他の子豚達より一回り小さくてどうかすると、回りのよく太った子豚に踏まれてしまいそうなぐらいです。けれど、お日さまの光を受けて輝くような白耳のせいで、その子豚はとても目立ちます。
その白耳の子豚は、鼻だけ忙しそうにくんくん回りの匂いを嗅いでいるものの、兄弟子豚に混ざって食べるのをあきらめているかのように、後ろの方でただじっと立ちつくしています。
「うーん、あの白耳は回りの大きい子豚に負けてるんだろうなぁ。ご飯にあまりありついてなさそうだなぁ。」
ハノーバーさんはそう呟くと、後ろを振り向いて荷車に乗せているバケツを見ました。荷車の上にはたくさんの空のバケツが並んでいますが、その中に一つだけ、まださつまいもとキャベツが入っているバケツがあります。
「これはあっちのウサギ用だけど、少しこれをやろうかな。」
そう言うと、「ほら、白耳。こっちへおいで。」
白耳子豚に向かってそう呼ぶと、白耳子豚もまるで言葉がわかったかのように、ハノーバーさんの元に、とことこと歩いてきます。
ハノーバーさんは他の子豚に横取りされないように、白耳子豚だけにさつまいもをやろうとします。けれど体の大きな子豚が白耳より前に来て、大きな口を開けてさつまいもをくわえようとするので、白耳子豚は、後ろで悲しそうにさつまいもを見ているだけです。
「ほら、こっちだよ。」何回他の子豚をかわそうとしても白耳子豚は負けてしまいます。
「うーん、仕方ないなぁ。」
ハノーバーさんは、とうとう柵の外から白耳子豚にさつまいもをやるのを諦めました。
「どうかなぁ、白耳が逃げ回ったら、後が大変だけどなぁ。このままじゃ、白耳は大きくなれないし。…そうだなぁ、白耳は大人しそうだし大丈夫だろう。なあ、白耳。」
そう白耳子豚に言うと、
「ほら、こっちから出ておいで。」
子豚達が入れられている柵の横に、人間が子豚のお世話をする時のために内に向かって開く小さい扉がありました。ハノーバーさんは、その扉の鍵を外して、そおっと扉を細く開けて白耳子豚を呼びました。すると、白耳子豚はとことこと扉に向かって歩いてきます。ハノーバーさんは他の子豚が外に出ないように注意して、白耳子豚だけを出しました。そして素早く扉を閉めながら、白耳子豚に振り向いて、
「白耳、じっとしてるんだぞ。」と言いました。
すると、白耳子豚はその言葉がわかったかのように、ハノーバーさんの足下でじっとしています。それを見ると
「なんだか白耳は、人間の言葉がわかってるみたいだなぁ。そんなはずはないけどな。」
そう言ってハノーバーさんは、ちょっと笑いました。
それから、白耳子豚はハノーバーさんからバケツ一杯分のさつまいもとキャベツを食べさせてもらいました。白耳子豚は、さつまいもをくわえてはゆっくり食べます。その仕草は、まるで「美味しいなぁ、幸せだなぁ。」と言っているようで、見ていた牧場主さんも思わず微笑んでしまうほどでした。
食べ終わった白耳子豚は、空になったバケツの横にちょこんと立って、ハノーバーさんを見上げています。
ハノーバーさんは、
「よしよし、よく食べたなぁ。満足したか?。じゃあ、柵の中にお入り。」
そう言って、また鍵を開けて子豚がやっと通れるぐらいに、扉を細く開けました。それを見て白耳子豚は、とことこと柵の中に入っていきました。ハノーバーさんは、また
「やっぱり白耳は、言葉がわかっているみたいだなぁ。」と言いました。