08
高田光彦は、坂城佐助の初恋の相手だった。
しかし、今、高田は、坂城がもっとも殺したい人間となっている。
父親を殺した犯人だと名乗り出てきた坂城に対し、最初、高田は、殺意を向けた。
見つめられているだけで身を斬られることを錯覚するような視線と、透明な氷のような瞳。
透き通った純粋なその殺意は、今まで人を貶め、苦しめてきた自分に向けられたものの中で、一番美しい、綺麗だと思えるものだった。
あの瞳をもう一度みたい。
あの瞳をもう一度向けてくれるのであれば、自分は殺されても構わない。
そう思えるほどに。
しかし、次に出会ったとき、光彦は、自分を赦し、自分を逮捕し、罪を償わせることによって自分の復讐とすると、自分の瞳を真っすぐに見つめて宣言をした。
それと同時に、坂城佐助は失恋し、そして、高田光彦に対して、人生で初めて、敗北感を味あわされたことで、憎しみを抱くようになった。
夫を自分の犯罪組織の人間に殺され、その事実に耐えられず、母親が、心身ともに病んでしまったときも、放置子だった守を気にかけ、面倒をみていて、彼が施設へ送られた後も、ずっと気にかけつづけていた。
警察学校へ入学した先で出会った同じ境遇である湯沢幸篤には、共に坂城を殺して復讐を果たそうと誘われたが、自分は父親の意志を継ぎ、警察官として彼を逮捕し、そして、父親の目指した警察官になるのだと言い。湯沢の坂城に対する復讐の目標を変えさせた。
自分が警察に潜入させていた浜松拝司と出会い、恋仲になった彼を殺しても、それでも、坂城を逮捕することを自らの復讐にするという誓いも変わらなかった。
負けた。
また負けた。
勝てない。
勝てない。
勝てない。
いくら自分が煽っても、追い詰めても、ないだ水面のような瞳で、自分を見つめる光彦の瞳が、強烈に、太陽を見たときのように瞼の裏に焼き付いて離れない。
美しく見えた光彦の瞳が、今は大嫌いで、憎くて仕方がなかった。
はじめて、心から人を殺したい、そう思った。
しかし、ただ殺すのでは、自分が負けたままだ。
それは、非常に面白くない。
自分が勝てないまま、終わらせてしまうなど、許せない。
殺すなら、それは、自分が彼に勝ったときでなければならない。
親を殺されても、恋人を殺されても、
だから、彼らを使うことにすることにしたのだ。
かつて、高田光彦と恋人関係にあった浜松拝司と、彼が気にかけていた守。
松本守には、ソタイへの潜入させ、情報を探るスパイ活動をするように命令した。
高田光彦に想いを寄せているらしい松本守は、喜んで命令を受け入れた。
浜松拝司に対しては、湯沢幸篤を肩を撃ったあと、湯沢幸篤の病室に張り込ませた。
そして、幸篤の見舞いに高田が現れたら、自分の合図で、松本守か、湯沢幸篤を撃ち殺し、そのあと高田光彦の前に現れ、殺すように命じた。
自分に、親や恋人、愛するものを殺されても、自分を赦した高田光彦。
しかし、さすがのあの男も、愛する人をかつて愛した人に殺させれば、自分のことを赦せないだろう。
さあ、早くどちらか選んでよ。
俺としては、松本守を選んでくれた方が、後で幸篤で遊べるから、そっちの方が良いんだけどね。