07
坂城佐助が湯沢幸篤と出会ったのは、父の組織を受け継いだ坂城が襲名祝いに自分たちの組織を嗅ぎまわっていた刑事を皆殺しにした後、その遺族に会いにいったときだった。
自分が父親を殺したのだ。と、彼に教えたとき、そのときの憎しみにそまった湯沢の顔は、今も坂城の記憶に焼き付いている。
そのとき、自分は、彼をとても愛おしく思った。
彼の憎悪と絶望に染まった美しい瞳と、まっすぐに自分に向けられる殺意に、坂城は癒された。
だって、どんなに自分を殺したいと彼が思っても、彼は絶対に自分を殺すことができないから。
生まれたての赤ん坊の猫がいくら頑張っても、人間の自分を殺すことなど出来ない。
彼は自分にとって、そんな存在だった。
彼にもっと、見つめて(自分に殺意を向けて)欲しい。
そして、じゃれついて(自分を殺そうとして)欲しい。
そして、いつか、それが自分にできないことなのだと思い知ったとき、絶望する彼を堪能したい。
しかし、彼は理性的な人間で、自分を殺すことを優先せず、残った母親を支えるために、警察学校へ進学し、やがて、父親と同じ刑事になった。
話をきくと、警察となって、自分を逮捕する際、拳銃で殺すつもりなのだと教えてくれた。
しかし、そこまで待てない。
というか、自分が逮捕されるなんてことは、あり得ない。
そう思った坂城は、彼が警察学校を卒業し、拳銃を持つことが許された刑事になると、残っていた彼の母親を殺させた。
彼は坂城の思った通り、激怒した。
これで、きっと彼は自分を殺しにきてくれるだろう。
しかし、坂城の考えたような展開にはならなかった。
何故かと思い、聞きに行くと、彼は坂城を殺すことをやめると言った。
坂城への復讐は坂城を殺すことではなく、逮捕することで成就するのだと、湯沢幸篤は、坂城の目をまっすぐに見つめて言った。
自分に対する殺意だけが込められた美しい瞳は、人間の情愛で、汚れて、濁っていた。
坂城には、すぐに、分かった。
高田光彦の仕業だと。