表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/9

05

 守を見つめながら、高田は柔らかに表情をゆるめた。


「守、そういう風に笑えるようになったんだな」 

「え?」

「俺と一緒にいるとき、いつも守は、泣くのを我慢するような顔をしていたから」

「それは、その、どういう顔をすれば良いのか、分からなくて……でも、本当に、嬉しかったんだよ!?」


 焦った様子で、昔にしていたような口調で、昔の自分の気持ちを伝えてくる守に、高田は笑いかけて、頷いた。

 

「分かっているよ。たださ、お前が、そういう風に笑えるようになった人と出会えたっていうのが、嬉しいんだ」

「……てるおにいちゃん」

「今日、何か食べに行くか? 奢らせてもらうぞ?」


 結果的に、上司の思惑通りになってしまったが、今はその思惑がありがたかった。


「あの、だったら、てるおにいちゃんのオムライスが食べたい!」

「え? そんなので、良いのか?」

「そんなのなんてものじゃないよ! 僕にとって、すごく大事なものなのなんだ」

「分かった。それじゃあ、今日は泊まって行くか?」

「え、あ、……うん!」


 答えた後で、守は、高田から視線を逸らしながら、尋ねてきた。


「……まだ、あの家に住んでいるの?」

「いや、今は、親戚が住んでいるんだ。俺はマンションで一人暮らしだ」

「……そう、なんだ」


 聞いた後で、肩を落とした様子の守に、今度は高田が訪ねる。


「あの家に、行きたかったか?」

「ううん……いや、うん」


 遠慮がちに高田の言葉を否定した後、守はそれを否定した。

 あの家で過ごした時間は、守にとって本当に大切で、幸せなものだったからだ。

 できることなら、またあそこへ帰りたいと思うほどに。


 その気持ちを高田も察していた。

 できることであれば、光彦も、家族と暮らした家を手放したくはなかった。

 

 しかし、母亡き後、父方の親戚たちに、まだ成人をしていなかった若い光彦が、一人で一軒家に住むのは、管理が大変だろうから、自分たちが管理をしてやろうと、家にやってきて住みつかれ、高田が警察学校に入学し、寮へ入ることになると、高田は完全に自分の実家を追い出されてしまった。


「そうか、ごめんな」

「ううん。あのさ、てるおにいちゃん。あの家に帰れない代わりに……」

 申し訳なさそうに謝る光彦に、守は遠慮がちに言う。


「うん?」

「手をつないで、もらっても、良い?」

「え?」

 

 守から想像していなかった頼みを受け、光彦が間の抜けた声をあげる。

 すると、守は悲しげに顔を伏せてみせた。

 

「やっぱり、だめだよね? もう大人だし、なんか、てるおにいちゃんにまた会えて、こうやって道を歩いていたら、昔に戻ったみたいで、懐かしくてつい……」


「ごめんね。変なこと言って……」と、いう守の言葉を受け、ると、光彦は表情を真剣なものに変えた。


「ちょっと、待ってくれ……」


 そして、周りを見まわし、人影がいないことを確認すると、守の手をとり、その上に脱いだ自分の上着を被せた。

「これでも、良いか?」

「うん……!」

「今日、だけだからな」

「うん、ありがとう……」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ