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03


「湯沢、大丈夫か? 今、ソタイのみんなを呼んだ。もう少し辛抱してくれ」

 

 市民を物陰に退避させ、上司と同僚へ連絡を入れると、光彦は周囲を警戒しながら、街路樹の影に隠れた幸篤に駆け寄った。


 顔は青白いのに、顔中から汗をとめどなく流す幸篤の肩には、止血をしようとしたのか、ネクタイが肩にかかっていた。

 

「ああ、分かった。悪いが、肩を縛って、抑えててくれ」

「悪いわけないだろう? 強く押さえつけるぞ」


 光彦は太い血管を押さえつけるようにして、かかったネクタイを思いきり引き絞り、銃弾が貫通した部分を押さえつけた。

 

「……っ! 思いっきりやりやがって……」

「だから、ちゃんと予告しただろうが」


 痛みに顔を歪め、弱弱しく悪態を吐く幸篤をちゃかし、笑いかけながら、光彦は震えて、力のぬけそうになる自分の体を叱咤していた。

 

 生温かい液体が、手のひらと指を濡らす。

 湯沢の血だ。

 液体が漏れ出していくごとに、湯沢の顔色は悪くなり、体が冷たくなっていく。

 

 それが、恐ろしくて、しかたがなかった。

 

 しっかりしろ、震えている場合じゃないだろう。

 湯沢を助けられるのは、俺だけなんだ。

 絶対に、相棒を死なせるものか!

 

 決意を込めるように、高田は手の力を強める。

 すると、その手に、赤く濡れた手が重ねられた。

 その冷たさに、恐怖を煽られて、高田は体を震わせた。

 

「高田、俺、お前に、伝えておきたいことがあるんだ」

「馬鹿野郎、伝えておきたいなんて、そんなこと言うな!

弱気になってんじゃねぇ!」


 まるで、今わの際の言葉を遺そうとするような湯沢の行動と言葉に、高田は震えを抑えることができなかった。

 

 声を震わせながら、怒鳴りつけてくる高田に、湯沢は力なく笑いかけた。


「馬鹿野郎は、お前だ。伝えられずに死んだら、後悔も出来ねぇじゃねえか、そんなのごめんだ。それに、言ったからには、返事をもらわないとならないから、死ぬつもりなんてねぇよ」


 励まされている。

 痛みに耐えて、自分の死の恐怖と間近で戦っている湯沢が。

 それは、自分がやらなければならないことなのに。

 

 しっかりしろ、俺、高田を助けるって、決めただろう。 

 

 自分の情けなさに歯噛みしながら、必死で震えを抑え込み、

 浅くしか出来なくなっていた息を整える。

 

「………なんだ。何を伝えたいんだよ?」



「俺、お前が、好きだ」



 その告白は、鼓動のように、高田の胸に響いた。

 静かでありながら、確かだった。

 

「……お前、こんなときに、冗談、言うわけないよな……」

「ごめん、な」


 できることなら、こんなときに、言いたくはなかった。

 こんな卑怯な真似をしたくなかった。

 優しい彼は、きっと、こんなことを言ったら、自分のことを否定しないだろう。

 でも、この気持ちを言えなくなってしまうかもしれない。自分と一緒に消えてしまうかもしれない。

 そう思ったら、言わずにはいられなかった。


「謝んな、俺、お前の気持ちちゃんと受け取ったから、ちゃんと返事するから、だから、絶対死ぬんじゃねえぞ」

「うん、……お前、本当に、優しいよな……」


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