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月桃館503号室の男 ~黒衣の刺客~  作者: 山極 由磨
第三章・過去からの追撃
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過去からの追撃 その3

 全球大戦当時の俺の任務は、原住民たちに反乱を起こさせるために新領に潜入した同盟軍の特殊部隊と、それに唆され帝国に反乱を起こした原住民を何とかする事。


 その為に俺たち第1特挺群は、反乱原住民の部族と元から敵対関係にあった部族に武器や戦術を提供し戦わせる作戦を実行した。


 つまり、同じ原住民同士を戦わせる結構人でなしな作戦だ。


 この作戦はかなり効果を上げ、終戦までに反乱は新領総軍を同盟軍本体との戦いに専念できるほどまでに鎮圧され、同盟の特殊部隊もほぼ殲滅できた。


 本来なら、この作戦に参加した原住民連中は勲章ものだ。


 しかし、勲章はおろか何の褒美も彼らには与えられなかった。帝国を救った英雄たちは、まさに使い捨てにされたという訳だ。

 俺を始め実際に奴等と寝食を共にし一緒に血を流して戦った第1特挺群の隊員達は群上層部に抗議をしたが歯牙にもかけられなかった。


 ここで、殆どの仲間は諦めたが、俺は腹の虫がおさまらない。


 この戦いで一生モノの傷を追い暮らしが立たなくなった者や、一家の大黒柱を失い途方に路頭に迷う家族がいる。全部帝国の為に戦いこうなったのに、何にもなしじゃそりゃあんまりじゃないか?

 それにさらにハラワタが煮えくり返ったのは、群長のオムロや副群長のクズギが特殊作戦の為に帝国が準備した資金の一部を流用していた事を、群司令部の会計課に居た中尉から聞いた時だった。さらに作戦地域で押収した同盟軍側の活動資金やそれに充てるための金や宝石類。敵性原住民からの略奪品なども着服していて、それらを元手に株式や先物取引などで運用してひり出した利益も合わせると、なんと200万圓近い裏金をシコシコ貯めていやがったのだ。


 そこで俺は思いついた。こいつをちょいと頂いて、原住民連中に回してやろう。


 オムロらが、その裏金を帝国の国策会社である『南方拓殖銀行』に架空口座を拵えて溜め込んでいたことを突き止めた俺は、任務で知り合った偽造屋連中に話を持ち掛ける一方、一緒に戦った原住民の族長たちに口座を作らせ受け皿を準備した後、あれこれ偽造書類や偽の印鑑を駆使してオムロの口座から族長達の口座へ送金させることに成功した。その金額、締めて20万圓ナリ。


 ちょろまかしで溜め込んだ裏金が一部消えたことに気付いた奴等は真っ先に俺を疑ったが、そもそもが表ざたに出来ない金だし、金その物も原住民たちに渡って全部消えてしまっている。

 奴等に出来る事は腹いせに俺を殺す事ぐらいだが、残念ながらこの俺、腐っても名門武家オタケベ家の四男防。もしこんな事で俺を殺しちゃったってバレたら家が黙っちゃいない。報復されるに決まってる。


 そこで仕方なく南の果ての国境警備隊に島流しに、そこで人知れずやっちゃおうと考えたわけだが、どっこい俺も黙って殺されるほどお人好しじゃない。

 で、至るという訳だ。

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